【ないこside】
暗闇の中を歩いていた。前も後ろも見えない真っ暗闇に、音だけが響いている。
なんとなく、この空間が現実ではない夢の中だということはわかっていた。
『ないこた~ん、いっしょお酒吞も!』
『ないこぉ、体調悪いの?大丈夫?』
『ないこたんかわいい!』
『ぽえぽえ〜///』
まろの声がエコーのようにかかっており、ぼやぼやとする。
暗闇の中は冷たかったが、まろの声を聞くだけで心の中は温かくなっていた。
一瞬声が聞こえなかったかと思うと突然暗闇が晴れ、辺りは美しい川辺に変わった。
冷たかった外は明るい太陽に照らされて暖かい。花が咲き乱れた野原に、人が一人立っていた。見覚えのある青い髪。遠目から見てもわかる背の高さ。まろだった。
「まろ!こんなところでどうしたの?」
まろが振り返るが、質問には答えてくれなかった。
「まろ……?」
「……」
「もしかして……花吐き病のこと黙ってたの、怒ってる……?怒ってたらごめん。まろはきっと心配してくれるだろうから言いたくなかったんだよね。ここは現実じゃないから言っちゃうけどさ。俺はまろのことがずっと大好きだったよ。ないふで配信してる時も、オフの時も一緒にいてくれて。まろの真面目なところも、たまに幼児退行するところも、全部ひっくるめて好きなんだ。でもまろには俺じゃない別の人が似合うから。俺はまろに幸せになってほしいんだよね。だからさ。」
まろの何の感情も込められていないその瞳を見たくなくてうつむく。足元には、今まで俺が吐いていた名も知らぬ花がひょっこりと顔を出している。
「ずっとずっと、愛してたよ」
俺の意識は、顔を上げたときに見えたまろの笑顔を最後に途切れた。