テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
nmmn注意
⚠︎︎捏造設定
【tyhr】
第4話
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
こんな僕を受け止めてくれる誰かがいるのか、果たして僕はその人を好きになれるのだろうか。
『ガチャリ』
あの場から逃げ出すように離れた僕は、真っ先に自分の家へ駆けていた。
「はぁ……」
思わず溜め息を吐く。走った疲れと、その他諸々、いろんな意味を含んで。
玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。
部屋はまだ少し明るかった。オレンジ色した夕日がカーテンの隙間から差し込んでいる。
そのままソファに倒れ込んで、考え事を始めた。僕が一人で悩みを考える時は、ろくな事を思いつかないけど、そうしないでいられなかった。
あぁ、そういえば、僕は今日何をしたかったんだっけ……。
「時計!!!!!!」
咄嗟に思い出した。そうだ、僕は今日時計を買いに外出していたんだ。
これでは時間が分からない。それはマズイ。
なぜなら、明日ろふまお塾の収録があるからだ。
「あぁ〜……行きたくない……」
もちろん良い職場だし、行きたくなくなってしまうことなど滅多にないが、今はそれどころでは無い。メンバーの男で、年下の学生に告白をして振られたのだから。僕の立場はかなり危ういぞ………。彼にどんな顔して会えばいいのやら。
仕方ない、と、ソファから立ち上がって玄関へ向かった。
あの場所から逃げた時、時計買って帰れば良かった。そんな、もうどうしようもないことを思う。
ガチャリと、玄関の鍵を開けて、 ドアノブに手をかけようとした時。
僕は魔術を使えさえするが、超能力までも使えただろうか。ドアノブが勝手に動いた。
『ガチャリ』
「え?」
「甲斐田くん、お邪魔します」
「え?」
なんで僕の家に彼がいる?
「え〜っと、何の用ですか……」
僕は玄関の前に立つ彼を見下ろしながら、食い気味にそう聞いた。
どうして僕の家に彼が来たのだろうか。それだけ聞いて、正直今すぐにでも帰って欲しかった。
「てか、インターホン押してくださいよ!なに無言で入ろうとしてんすか!」
「人聞きが悪いよ。押そうとしたんだけどね、なにせ玄関の鍵が空いたもんで」
「分かりましたから、本題に入って下さい……」
「まだ、話したいことがあるんで」
「まだなにか…?」
話したいことってなんだろうか。正直もうこれ以上は死体蹴りだ。
これからについて?僕、全然セクハラで離脱させられる可能性あるのか?
「大事なことをまだ伝えれてなかった気がするんだ」
「大事なこと?」
「そう。あの、甲斐田くんっ」
「まって」
「なに?」
「大事な話なら玄関じゃなくって、中で話しましょう」
「あ、うん。ありがとう」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
彼を僕の家に招待するのは初めてだろうか。いや、過去に何度かあった気もするけど、そんなこと思い出してる場合じゃない。
大事なこと、大事な話ってなんだろう。
伝え忘れていたって、一体何を?
「もちさん、外も暗くなってますし、日を改めてもらっても大丈夫ですよ。明日とか」
「いや、今日がいいかな」
「そうっすか……」
時計を買いに行きたかったので話を流そうとしたが、彼の意思は固かった。
「だ、大体、不破さんはどうしたんすか?」
「え、今?」
「不破さんと、なんかどっか行ってたじゃないですか」
我ながら、何故その話題が出てくるのかよく分からなかったが、不貞腐れていたからか、彼にぶつけてしまった。
嫉妬、だろうか……。
「なに、甲斐田くん。嫉妬したの?」
「ぇ……っと」
図星を突かれて、声が出なくなってしまう。不貞腐れた態度とは変わって弱々しい声しか出せない。顔は赤くなってないと思うけど。
「あははっ、顔真っ赤だよ」
「い、言わないで下さいっ……」
この人は僕の否定したいことを全て言ってしまうな……。とてつもなく恥ずかしい。
「僕はあまり正直者じゃないけど、君も劣らないくらい正直じゃないよね」
「そうかも…」
「まぁまぁ、悪い話じゃないからさ、耳貸してよ」
ヤクザが恐喝する時の常套句だぞそれ…。
「まず、甲斐田くんが誤解してるであろうことを言うね 」
「は、い」
誤解してるであろうこと……?
僕はなにか誤解しているのだろうか。
「あのね」
彼は少し頬を染めて切り出した。
「僕、告白嬉しかったんだよ」
「えっ」
告げられた言葉が予想外すぎて、僕の口からは情けない返事が出ていた。
しかし、一つ気になる箇所もあった。間髪入れずに、彼に問いかけた。
「嬉しかったって、でもっ嫌だって……」
「あ、それは……。ふわっちと話した時に気付いたんだけど、君にだいぶ勘違いされてたみたいで」
「勘違い……?」
初めて好きだと伝えた日、事務所から彼が居なくなってしまったのも、友達でいて欲しい気持ちを拒まれてしまったのも、全て僕の勘違いだというのだろうか。
「僕は、えっと……」
「もちさん?」
彼は言葉に詰まった様子で、照れくさそうに部屋の隅を見ていた。
「だから、つまり……。僕は君と恋人になりたいから、友達のままではいたくないって、意味で言ったわけで……」
それだけ言うと、彼は俯いてしまった。
「なっ、は?」
僕の頭からは疑問符しか出てこない。彼は何を言っているのだろう。
「だからね、別に振った訳じゃないんだ。君のことを」
「もち、さん……。OKってこと……?」
彼は何も言わず、俯いたまま頷く。
僕は嬉しくて、口角が上がる。きっと、彼が今顔を上げれば笑われるくらい笑顔だろう。
「う、嬉しいです……。もちさん。あぁ、ほんとに……ありがとう」
「いいや、こちらこそ。よろしくね、甲斐田くん……!」
彼はそういうと、嬉しそうにはにかんだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
僕はその後、彼を送って帰り際に目的としていた時計を買って帰った。
もう夕食も風呂も済ませてしまって、明日の準備なども終わらせた。
あぁ、なんて軽やかな気分なのだろう。心が躍るように跳ねている。僕は鼻歌を歌いながら寝室に向かう。まるで子供のような自分の振る舞いにさえも、恥ずかしげもなく気に留めなかった。
明日、彼に会うのが楽しみだ。
浮かれて収録に支障をきたさないように気をつけなければ。そんな愉快な気持ちを布団に包んで、僕は瞼を閉じた。
「う”………」
そうだ、そうだった。僕はすっかり忘れてしまっていた、 こいつの存在を。
思い出した、一生囚われて生きていかなければいけないことを。
あぁ、温度差に凍えてしまいそうだ。
「はぁっ、あ”、やめでッ……」
「い”ッ、ぁ……んっ…あ」
グチュグチュ、と、いやらしい音を立てている。どうして、こんなに頭に響くの。
みんなは、どんな夢を見るのだろう。憧れのスーパースターになる夢?空を飛べる夢?
━━好きな人と手を繋いで、浜辺を歩く夢?
僕は何年も、犯される夢を見続けてきた。
夢と現実の境が分からなくならないよう、自分なりに努力してきたけど、最近はそれさえも苦痛になってきている。
早く、早く明日が来て欲しい。
誰かに……彼に、抱き締めてほしい。「大丈夫だよ」と言ってほしい。
「た”すけてッ、くるっぁ、しい……」
「くるッし……ん、ぁ……っ」
そういえば、僕はいつも夢の中で助けを求めている。誰に助けて欲しいんだろう。
誰も僕を救ってくれやしないよ。残念だけどね。
残念、あぁ、残念だ。
夢で誰かに犯されて、助けを求めても救われない。この夢のせいで人を愛することもできない。この夢でしか快感を得られない。
誰が好きになってくれる?
本当に僕って、気持ち悪い。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「はッ……はぁ……」
息を荒らしながら目を覚ました。
昨日買った時計に目をやれば、時計の針は午前五時を指していた。
子鳥のさえずりが聞こえる。まだ日が登ったばかりだろう。空は色が薄かった。
全身汗だく、涙も流れている。
今日に限って、運が悪かった。いつもは起きた時泣いてなんていないし、こんな汗だくになるのも珍しい。
僕はシャワーを浴びることにした。
ジャー、というシャワーの音がバスルームに響き渡っている。
『夜はあかん、朝考えよう』という誰かの有名な言葉があるが、僕は朝になっても正気だ。
やっぱり、まだ不安だったのだ。夢のことを不破さんに相談したことがあったが、例の彼には言っていない。かといって、不破さんにも夢の内容など伝えていない。当たり前だ。誰かに話していい内容ではない。引かれるに決まっているから。
「どうしたもんか……」
僕は頭を抱えた。どうして、彼が好きという気持ちを誤魔化したいのか。
それは、自分自身の気持ちに疑いがあるからだった。
僕が彼を好きになった理由は、心の底から恋をしたからなのか、それとも、夢のせいで恋ができない自分を否定したいからなのか。
この期に及んで、彼が好きなのかどうか答えが出ていなかった。
でも、今日その答え合わせが出来るだろう。
僕はシャワーの水栓を閉め、髪の水気を切った。
「……彼に、全部話そう」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
5話に続く
コメント
1件
うわー!最高です。!!!!もちさんならきっと、引かないでくれるよ!! 続き楽しみに待ってます♪♪