テラーノベル
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#溺愛
屋敷の外へ出ると、地平線の先まで広がる紅い海――特産品のチューリップ畑が風に揺れていた。 だが、そこへ続く道は最悪だ。大きな石が転がり、草は伸び放題。馬車を通すどころか、歩くのさえ一苦労である。
「きゃっ」
フローラが石に躓き、転びそうになったのを、私はすかさず支えた。
「大丈夫? 怪我はない?」
「お、お姉さま……ありがとうございますっ!」
「気にしないで。あなたが怪我をしなくてよかったわ」
(……もったいないわね。こんなデコボコ道じゃ、誰もこの絶景を見に来ようとは思わないわよ)
***
花畑の真ん中で、レオンが楽しそうに目を細めた。
「ねえ、バイオレッタ。王都で流行ってる『紅の真実』っていう小説、知ってる?」
レオンが語るその物語は、こうだ。――身分違いの皇太子と庭師の少女が、チューリップ畑で愛を誓い、永遠に結ばれる。 今、若い貴族の間では「チューリップ畑で告白すると結ばれる」というジンクスが熱狂的に支持されているという。
「これって……僕が君にここで告白したら、結ばれる運命ってことかな?」
レオンは私の瞳を捉えたまま、足元から摘み取った一輪を差し出した。 私がそれを受け取った瞬間、彼は私の手を引き、その指先に羽が触れるような柔らかなキスを落とした。
「……っ」
(……さすが、呼吸するように口説いてくるわね。まあ、彼にとってはただの『挨拶』みたいなものなんでしょうけど……)
「……そこまでだ、レオン」
背後から、氷点下の声が刺さった。どす黒いオーラを纏ったアレクが間に割って入り、私の肩を強引に引き寄せた。
「バイオレッタは俺の婚約者だ。貴様と結ばれるなど、万が一にもありえん!」
「お姉さまは私のものです! お二人とも離れてくださいっ!」
フローラまで私の腕にすがりつき、花畑の真ん中で三つ巴の引っ張り合いが始まった。
(……ちょっと、みんな落ち着いてってば!)
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