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「ただいま〜」
誰もいない空間に投げかける。当然返事は無い。
若干の寂しさを感じながら手を洗って、テレビをつける。
ふと、一人暮らしをしていた大学生の頃を思い出した。今は言と一緒に住んでいるけれど、1人だった時は、よくテレビをつけて寂しさを紛らわせていたものだ。
スマホを見ると、10分ほど前に言から『僕もそろそろ帰る』と連絡がきていた。僕はスタンプだけ返して、自分とこれから帰ってくる弟のためにキッチンに立った。
『今更だけど、君たち平均的な双子と比べて凄い仲良いよね』
昼休みの福良さんの言葉が何故か引っかかって、ぼーっとパソコンの画面を眺める。
距離が近いのなんて今更だ。福良さんのことだから、何の意味もなく言った可能性は低い。
「うーん…」
「お、なんか苦戦してる?」
突然背後から聞こえた声に、え?と振り向くと、そこには福良さんが立っていた。
「あれ、こっちの部署に何か用事ですか?」
そう尋ねると、福良さんは「うん。社長に呼ばれちゃったからねえ」と伊沢さんを見ながら笑う。
なになに、と困惑する伊沢さんをよそに、福良さんは話題を戻す。
「さっき唸ってたから、何か悩んでるのかなと思って」
「あー…声に出てました?」
「うーん…って言ってたよ」
ここは正直に相談するのが正解なのか、適当に受け流すのが正解なのか。受け流そうとしたところで、誘導尋問でポロッと言うのがオチな気がする。
定時を過ぎているからか、オフィスにはほとんど人がいない。今なら相談してもいいかもしれない。
「…実は、お昼に福良さんが言ってたことが何か引っかかってて」
「お昼?」
福良さんは、なんか言ったっけ、と頭をひねる。
「ほら、僕と問が仲良いって話です」
そう言うと、福良さんは何故か数秒固まってから、再起動したかのように「あー、言ったね」と意味ありげに笑った。
「ちょっと、真剣に悩んでるんですって」
「いや、もしかしたら僕の予想通りかもしれないと思って」
頭に疑問符を浮かべると、福良さんが僕に近づいて、「あくまで予想だけどね…」と小声で話し始めた。