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「遠路遥々ようこそ、隣国の侯爵」
扉の先、正面奥に座る男が顎の下で手を組んだ姿勢のまま歓迎の言葉を放ち、促されるまま席に着く。相変わらずこの男はいけ好かない。
端正な顔立ちに高身長、それに加えて甘い低い声……これで呪いにかかっていなかったらどんなに世間を騒がせる存在だったことか。
双方穏やかな笑みの仮面をつけたままテーブルに並べられた料理を口に運ぶ。辺境とはいえさすが公爵家と言うべきか、料理の一つ一つに無駄がない。
「失礼します」
メインの肉料理を食べ終わったところで、執事がグラスにワインをつぎ足していく。その姿に不思議と欲が沸く。相手は男だ、ありえないと思いつつもそれを一気に飲み干し、公爵は正面に座る屋敷の主に視線を向けた
「…ワイン美味すぎて飲み過ぎたようだ、少し休みたいのだが」
「気に入って頂けたなら幸いだ。では部屋に案内させようーーー執事、侯爵を部屋まで案内してくれ」
主の声に、後ろで控えていた執事がスっと前に出て一礼すると、微かに微笑んで「こちらへ」とドアを開けて促す。
重厚な扉が音も無く閉められ、廊下にただコツコツと2人の足音のみが響く。
前を歩く執事は、何やら説明しているようだがそんなものは今の侯爵の耳には届いていない。
「……如何なされましたか、侯爵さー」
返事をしない侯爵を不思議に思い、立ち止まって振り返ろうとした執事の頭に衝撃と痛みが走り、執事はその場に片膝を着いて微かに呻き声をあげた
「……な、に…を」
ポタポタと、上質なカーペットの上に赤い雫が落ちる。頭が痛い。クラクラする……殴られたのだと気づいたと同時に執事はその場に倒れ、意識を失ってしまった
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