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ひっそり見てました!最高です0(:3 _ )~
棘くんと付き合い始めてから、私は彼に振り回されてばかりいる。恋人という関係になってから遠慮しなくなった棘くんは、それはもうグイグイ来るのだ。交際スタートしてからまだ一週間しか経ってないんだが?一日一回は抱き締められたり「好きだよ」ってメッセージ送られてきたり。あとおでこにキスするのも。あの日以降その行為が気に入ったのか、寝る前は必ずされるようになった。昨日は「俺にもやって?」と頼まれ、顔を真っ赤にしてプルプル震えながらやったんだけどめっちゃくちゃ恥ずかしかった…。あれを普通にやる棘くん何???そしてその時の棘くんの嬉しそうな顔が大変えっちでしたありがとうございます。
…まぁ要するに「私ばっかりドキドキさせられるのは悔しいのでやり返したい!」というわけである。
今日は普通に授業があるため、棘くんにやり返せるチャンスはいくらでもある。というわけで現在朝の八時二十分なのだが、早速やっていこうと思う。
まず一つ目。私は今、男子寮の棘くんの部屋の前に来ている。髪はコテで少し緩めに巻いてハーフアップにし、化粧はしてないけど前みたいに色付きリップを塗っている。今からやろうとしているのは、「彼氏のためにいつもと違う可愛い髪型をしてきた彼女が『一緒に教室に行こ?』と迎えに来た作戦」である。長いしセンスもクソもない作戦名だけどそれは許して欲しい。授業がある日は棘くんが来る時間はだいたい決まっている。だからそこを狙って迎えに来ればいいのだ!さぁ、前みたいに可愛い反応を見せてくれ!!
ガチャ、と部屋の扉を開けて中から出てきた棘くんに声をかける。
「棘くんおはよ!」
「ん、すじ…こ??高菜、ツナマヨ!?」
「へへ、一緒に教室に行きたくて迎えに来ちゃった。……ダメ、だったかな?」
「…っ、おかか!!」
よーしよし、出だしは順調では?「何でここに!?」と目を見開いて驚く棘くん可愛すぎじゃん。「迎えに来ちゃった」の辺りで周りにお花が飛んでるの見えた気がする。そんなに嬉しいのか。可愛いなぁ。
じゃあ行こっか、と棘くんと並んで廊下を歩く。そして私はさりげなく彼と手を繋ぐ。はい、ここで二つ目「手を繋いでドキドキさせよう作戦」!ポイントはただ手を繋ぐだけじゃなくて恋人繋ぎであることです!!いやぁ、恥ずかしいねコレ!!!!自分から繋いでおきながら顔が熱い。
チラッと棘くんの様子を見ると、棘くんも顔が真っ赤だった。耳まで赤い。よっっっし!!!いいぞこの調子だ。今日は私が主導権を握ってやるからな!
それにしても棘くんの手、私とは全然違うなぁ。大きさはもちろん指の太さとかも全然違うし。体温高めなのかな?めちゃくちゃ温かいんだけど。私冷え性だからこの時期は指先冷たくなっちゃうんだよね。体温奪っとこ。あと冬場だからか乾燥してるみたいだしヒビ割れ起こしちゃう前にハンドクリームあげようかな。棘くんどんな匂いのやつが好きかな。…………あっ、これ追加するか。
ふと思いついた考えを作戦に追加する。教室に行ったらたぶん乙骨くんいるけど、まぁ、気にしないようにしてもらお!ごめんね、乙骨くん!!
教室に入ると、やっぱり乙骨くんが一番乗りだったようで、既に椅子に座っていた。
「おはよ〜」
「あ、おはよ……う?」
乙骨くんは笑顔でおはよう、と返そうとして、私達を見て固まった。うん、そりゃあね?恋人繋ぎで教室入ってきたらね?驚くのも仕方ないよね。
「本当に仲良いね…」
「うん」
否定はしない。喧嘩とかしたことないし。私はよっぽどの事がなきゃ怒ったりしないからなぁ。最近怒ったのいつだ?中三の時か。部屋でアニメ観てたら兄さんに盛大なネタバレかまされて殴り合いの喧嘩したやつ。ネタバレ絶許。
棘くんは基本温和だし、怒るところ想像つかないなぁ。でも、もし怒るなら誰かのためだろうなとは思う。
繋いでいた手を解き、席に着いて鞄からハンドクリームを取り出す。急遽追加した三つ目「ハンドクリームを塗ってあげてドキドキさせよう作戦」!さっきからネーミングセンスが酷い。
「棘くん、手出して」
「?」
「手、乾燥してるみたいだったからハンドクリーム塗ってあげる」
そこまで匂いキツイやつじゃないから大丈夫、なはず。戸惑いつつも右手を差し出してくる棘くんの手を取り、クリームを適量出して丁寧に塗り込んでいく。ついでにマッサージしとこ。右手をやり終えたら次は左。いやぁ、楽しい!さてさて、肝心の棘くんの反応はどうだろうか?と見上げる。あれ、なんか、確かに顔赤いけど照れてるのとは違うような。すごい熱の篭った視線を送ってくるんだけど…。思ってた反応と違ったなぁ。んー、まぁいいか!
「シャンプーの香りのやつなんだけど、どう?いい匂いでしょ?」
「……しゃけ」
「冬場は乾燥しやすいからちゃんと保湿した方がいいよ。ヒビ割れすると痛いし。今度ハンドクリームプレゼントするね」
「……こんぶ」
んー、さっきまでと様子が違う気がするんだけど…。触られるの嫌だったかな?いや、普段あれだけくっついてくる人が触られるの嫌なんてことないか。じゃあどうしたんだろ。
様子のおかしい棘くんに、私は首を傾げる。棘くんはするりと私の頬をひと撫ですると自分の席へと戻って行った。
▷side 乙骨
「おはよ」と言いながら教室に入ってきた彼女は、狗巻くんと手を繋いでいた。しかも恋人繋ぎと呼ばれるもの。やっぱり狗巻くん積極的だなぁ、と思ったのだが、彼女よりも狗巻くんの方が顔が赤い。もしかして今回は逆だろうか?
仲が良いね、と言うと嬉しそうに「うん」と頷く彼女。それを見た狗巻くんは……あっ、周りに花が見える。まぁ、喧嘩してるところとか見たことないし。二人ともお互いの全肯定botだもんなぁ。
今日も授業が始まる前まで何かやるのだろうか、と見ていると、鞄からハンドクリームを取り出して狗巻くんに手を出すように言う彼女。どうやら塗ってあげるようだ。冬場は乾燥しやすいから保湿は大事だよね。
彼女は狗巻くんの手にクリームを塗り込むついでにマッサージをし始める。随分と慣れた手つきだなぁ、と思って見ていると、狗巻くんの様子が少しおかしいことに気付く。空いている方の手でめっちゃ制服のズボン握り締めてんだけど。なんで?そう思い彼の顔を見た僕は、瞬時に察した。
(理性と戦ってる……)
赤く染った頬は、照れているからと言うよりは火照っていると言った方が正しいだろう。うん、まぁ、好きな子に自分の手をあんな触られ方したら仕方ないのかな。親指でグリグリするだけじゃなくて思いっきり指絡めてるから。同じことされたらたぶん僕もあぁなる気がする。でも見ている限りだとそろそろ終わりそうだし、頑張れ狗巻くん!と思っていたら。
「じゃあ次は左手ね!」
第 二 ラ ウ ン ド 開 始 。
確かに右手にだけハンドクリーム塗るのはちょっとおかしいけど!でも気付いて!狗巻くんの様子がおかしいのに気付いて!ここ教室だし僕がいるからまだ良かったけど、もしどちらかの部屋で二人きりの状態でそれやってたら絶対押し倒されてるから!ちょっとえっちな展開に持ち込まれるやつだから!これ僕はどうするのが正解なの?狗巻くんの心の安寧のために止めればいいの?でも彼女すごい楽しそうだしなぁ…。
結局止めはせず(というか止める度胸が無かった)、僕は彼女達のやり取りを最後まで見ていた。狗巻くんすごい目がギラついてる…。それを見ても普通に話しかける彼女すごいな…。狗巻くん明らかにちょっと息荒いじゃん。もしかして気付いてない?…いや、気付くわけがなかった。あの子すごい鈍感だった。超が付くほどの鈍感だった。気付かないうちに狗巻くんのスイッチ入れていつの間にか食べられてそうで心配なんだけど。大丈夫?特に今日の放課後。
するり、と彼女の頬を撫でる狗巻くんを見て僕は確信する。あ、これ後でやり返されるやつだ……と。
三つ目の作戦はなんだか反応が微妙だったなぁ。いきなり追加したやつだったし仕方ないか。次だ次!四つ目は「縦読みメッセージ作戦」。相変わらずネーミングセンスが無さすぎて泣いちゃうね。
これは棘くんのスマホに短文でメッセージをいくつか送る。それらの頭文字のみを読むと本当のメッセージになるというもの。で、縦読みで「だいすき」ってやりたいんだけど、なんて送ればいいのかな。「だいふく」「いちご」「すじこ」「きなこもち」しか思いつかないんだよね。物の見事に食べ物ばかりである。食いしん坊か?
さすがにそれはなぁ、と授業中ずっと他に文章はないか考えていたが、結局思いつかなかったためその四つを送ることに。最後の授業終了と同時にスマホを取り出して棘くんにメッセージを送る。…なんか買い物のメモみたいだな。ごめんね棘くん、私のセンスが無いばかりに。するとすぐさま既読が付き、棘くんからメッセージが送られてくる。
《俺も》
「ん?」
え、”俺も”?待って、パッと見で縦読み文章って気付いたの?マジか。私だったらあの四つが送られてきたら絶対に「何それ買い物のメモか何か?」って返すぞ。さすが棘くんだなぁ、と感心していると、追加のメッセージが来る。
《縦読みやるの下手くそだね笑》
それな、自分でも思った。でも、ハマってる恋愛漫画で主人公の親友がやってたからやってみたくて…。一度はやってみたいじゃん!?けど縦読みメッセージはもう二度とやらないでおこう。そう決めた瞬間、またもやメッセージが送られてきた。
《ねぇ、このあと用事ある?》
《もし無いならさ、俺の部屋でちょっと話さない?》
棘くんからのお誘いに少しだけドキドキする。彼の部屋に行くのは初めてじゃないのに、なんか緊張してきた。微かに震える指で「いいよ」と文字を打ち返信すると、棘くんがこちらを振り返る。たぶん「じゃあ行こっか」と言いたいのだろう。
スマホの電源をオフにして教科書と一緒に鞄にしまう。そして棘くんに手を引かれ、私は教室を出た。
視界の端で乙骨くんが私に向かって合掌してたんだけど、もしかして今日は私の命日か何かなの?
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棘くんの部屋は黒を基調とした家具が多い、シンプルだけどカッコいい部屋。きちんと整理整頓されていて、本当に高校生の部屋か?と問いたくなる。うちの兄さんとは大違いだ。あの人、私よりも部屋がごちゃごちゃしてるんだよな。未開封のフィギュアがその辺に置かれたダンボールの中に山積みになってたり、机の上に堂々とエロ本置いてあったり。カバー掛けてあるからバレてないと思ってるんだろうけど、普通にバレてるんだよなぁ。妹にも母親にも性癖把握されてるのだいぶキツいと思うんだけど…。兄さん、強く生きてね……。
「お邪魔しまーす」と小声で言って部屋に入る。付き合う前は「推しの部屋だ…!」とドキドキしていたけど、今は別の意味でドキドキしている。だって彼女として来るのは初めてだし。高校生ってお家デートで何するの?ゲーム?恋愛に関しては漫画の知識しかないから全然分かんないんだよね。あ、でも棘くんメッセージで「少し話さない?」って言ってたからお話するだけかな?
なんて、呑気に考えていたのがいけなかったのか。棘くんにベッドの上に座らされたと思った次の瞬間には、肩を掴まれて押し倒されていた。
「と、げくん?」
混乱した頭で彼の名を呼んだ。紫色の瞳と視線が合う。熱を帯びたその視線は見覚えがあるものだった。
(初めておでこにキスされた時の目だ…)
その目に、心臓がうるさいくらいドクドクと脈打つ。自分の顔が赤くなるのが分かった。棘くんが右手の人差し指で私の左の掌をつー…と撫でる。くすぐったいような、背筋がゾクゾクするような初めての感覚が身体を巡る。
(待って、なんかえっちなんだけど……!)
私の反応が面白いのか、何度も何度も掌を撫でる棘くん。そのせいか、顔だけじゃなくて身体中が熱くて、全身の血が沸騰してしまいそうだった。
「…ゃ、あ、とげく、ん………」
再び彼の名前を呼ぶと、自分でも聞いたことの無い甘ったるい声が出た。猫と触れ合う時とはまた違った声。自分からこんな声出るんだと驚くと同時に、恥ずかしくなって両手で口元を隠す。
そして私がそんな声を出すのは予想外だったのか、棘くんの動きがピタリ、と止まりキョトンとした顔をする。それから笑みを浮かべると、私の頭にキスを一つ落とした。次に髪の毛、鼻、頬とリップ音を立ててキスをしていく棘くん。
(待っっっっってくれ!!!!)
もうこれ以上はキャパオーバーだ。しかし棘くんは止まることなく、私の制服の上着に手をかけボタンを外すと、喉と首筋、そして最後に手首にキスをした。
不意に、右手の人差し指で唇をなぞられる。顔を赤くして何も言えなくなる私に、棘くんは口パクで言う。
『こっちも、する?』
その表情はとても妖艶で、私は言葉を絞り出すので精一杯だった。
「こ、これ以上は、お腹いっぱいです……」
今日は私が棘くんを振り回してやろうと思っていたのに、結局、振り回されたのは私だった。