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憎らしいほどの純朴
それからというものゴンくんの
異食症はもの静かに進行した。
最初は無理やり食べさせられていた大便を、三日後には自分から手に取るようになった。なぜそうなったのか。理由は単純で、僕が食事を与えなかったからだ。
クラピカと名乗った金髪の男からの仕送りが途絶えていた。振り込みが止まり、メールの返信もなくなった。おそらくハンターの仕事で忙しくそんな余裕がないのだろう、金の流れを断ったのだろう。銀行口座には数千円しか残っていなかった。
食うものがなくなると、ゴンくんは床を這って自分の絵排泄物を探した。便器の縁に顔を突っ込んで舐め取り、壁にこびりついた汚れを指で削ぎ取って口に運んだ。強化系の念能力者だった身体は、本来ならば毒物など即座に排出するはずだった。しかし脳の機能が壊れたことで消化器系の制御も崩壊し、有害なものがそのまま体内に留まるようになっていった。腹は常に下り、口臭は耐え難い悪臭を放ち、皮膚はかぶれて爛れた。
僕の性奴隷共の誰よりも穢れていて愛くるしい存在。
「…たべ…たべ…いい?」
ゴンくんが許可を求めるようになったのは、僕の躾を恐れてのことだった。勝手に食べると怒られる。だから毎回聞く。うん、と答えれば嬉しそうに食べ、だめだと言えば絶望する。
─────────
その日の夕方、僕はいつもの無理やり地声を高くした猫撫で声を出した。
「ゴンくん、今日はサプライズがあるよ。目隠しするからじっとしててね。」
ゴンくんは警戒心のかけらも見せなかった。視力を失い、言葉も奪われ、野生の勘すら錆びついた少年にとって、世界とは僕の声と手の温度だけで構成されていた。だから、目隠しの布が顔に触れたとき、わずかに首を傾げただけで、おとなしく両目を覆われた。
「な、なぁ…に?」
返事を待たず、僕はゴンくんの背後に回り込んだ。両手を首に巻きつけ、力を込める。
「ぅ……っ」
最初、ゴンくんには何が起きているかわからなかったようだ。首を締められるという経験が、障害者になってから一度もなかったから。呼吸が遮断されて、肺が反射的に空気を求めてもがくまでに数秒かかった。手足がばたばたと車椅子のアームレストを叩き、金属が壁にぶつかる甲高い音が地下室に響いた。
「あ、あ……パ、パ……?」
声にならない声で名前を呼んでいた。恐怖と困惑が入り混じった、幼い子供そのものの反応。ゴンくんの手は闇の中で僕を探すように虚空を掻いたが、焦点の合わない目では方向すら掴めず、ただ自分の首に食い込む腕の存在だけを必死に感じ取っていた。
「や……やだ……こわい……」
指が喉仏の横の柔らかい肉に沈み込み、気管が圧迫される─────。
「ゴンくん、もう。
ラクにしてあげるからね」
僕は微笑んで、唇の端が持ち上がり、目尻には皺が寄り、それはどこからどう見ても優しい大人の顔な気がした。
「………?」
言葉の意味を咀嚼するのに時間がかかっているようだった。「らく」という音の連なりが、ゴンくんの中にある辞書のどこにも該当しない。首を絞められて酸素が薄くなった頭で考えられることなど、たかが知れている。
だがゴンくんの腕は緩まない。「大丈夫だよ」と繰り返す声だけが優しく、行動はその真逆を突き進んでいる。ゴンの頸動脈が手首の内側で脈打つのがわかった。まだ速い。子供の心臓は回転数が高いのだ。
「…あう……あう……」
呼吸のリズムが崩れ始めていた。吸えない空気を求めて口が開閉し、唾液が顎を伝って落ちる。「あう」しか出ない喉が、最後の言葉を探しているようでもあり、ただの痙攣のようでもあった。
ゴンくんの身体がびくんと一度大きく跳ねた。車椅子が床の上を滑り、車輪がぎいと鳴く。足の指が靴の中で丸まり、つま先が震えている。顔が赤くなり始め、こめかみに血管が浮き上がった。
「……だい、しゅき……」
最後にそれだけ呟いて、ゴンくんの頭がかくんと前に垂れた。
腕を解いた。ずるりとゴンくんの身体が力なく前に倒れ、車椅子から半分ずり落ちかける。慌てて抱き戻し、目隠しの布をほどいてやった。
ゴンくんは眠そうな顔をしていた。舌がべろんと口から垂れ、涎が唇を光らせている。黒い瞳は半開きで、天井の蛍光灯をぼんやりと映していたが、もう何も見ていなかった。
穏やかな死に顔だった。苦悶の痕跡は薄く、最後に「だいすき」と言ったときの表情がそのまま凍りついたように残っている。眉間に皺はなく、頬はほんのり上気して、まるで本当に風呂上がりの心地よさに包まれているかのような……。
僕はその顔をしばらく見つめていた。心臓が動いていないことを確認するために指をゴンの首筋に当て、脈がないことを確かめ、それからようやく息を吐いた。長く、震える息だった。
部屋が静まり返っている。冷蔵庫のモーター音と、排水管を水が流れる低い唸りだけが空間を満たしていた。さっきまで「あうあう」と響いていた声はもうない。
僕がこの少年を殺すと決めてから、実行に移すまで、おそらく数ヶ月間の逡巡があったはずだ。殺すべきか、殺さざるべきか。いや、本当の葛藤はそこではなく、死体をどう処理するかという極めて現実的な問題にこそ費やされていたのではないか。12歳の少年とはいえ、骨と筋肉の詰まった身体は重い。山に埋めるのか、海に流すのか、あるいは細かく切り刻んで少しずつ捨てるのか。
僕はまずゴンくんにキスをした。冷たくなりかけた唇は乾いていて、かすかに糞便の匂いが残っていたが、構わなかった。何度も、何度も。額に、瞼に、鼻先に。
それから携帯電話を取り出し、カメラを起動した。尿失禁でズボンを汚したゴンくんの姿を、角度を変えて何枚も撮影した。太腿を伝う小便の流れ、脱力してだらしなく開いた足、力なく垂れた舌。シャッター音だけが無機質に地下室を満たし、ゴンくんはもう瞬きすらしなかった。
撮影を終えると、僕は画面をスクロールして写真を眺めながらズボンの前を開いた。もう何百回とやってきた行為だ。ゴンくんの無垢な死体は、生前のどんなポルノよりも僕を興奮させた。壊れる前のあの笑顔、キルアと走り回っていた頃の元気な姿、そして今のこの、人形のような脱力。その落差が脳を焼く。
「……あっ、うっ」
射精した後、僕はティッシュで手を拭きながら天井を見上げた。賢者タイムの虚しさと罪悪感が波のように押し寄せてくるが、それは一瞬のことだ。すぐに思考は実務的な問題に切り替わる。この死体をどうするか。
腐るまでの猶予は短い。夏が近いこの季節なら、なおさらだ。地下室の換気扇は弱く、排水口にはゴンくんが食事のたびにこぼした汚物が溜まっている。死体から出る液体はその比ではない。匂いは上の階まで上がるだろうし、そんな事を考えながら眠りについた。
────────
僕は結局、死体と一緒に過ごすことを選んだ。
もう数ヶ月も経ち、匂いの問題は想像以上だったが、どうでもよかった。もう終わりなのだから。冷たくなっていくゴンくんを膝に乗せ、時折キスをし、写真をぼんやり眺めた。腐敗が進むにつれ身体は膨張し皮膚が緑色に変わり、蛆が湧き、地下室は人間が住む場所ではなくなったが、僕にとってはどうでもよかった。
「ゴンくん、大好きだよ…」
そう囁きながら、僕はゴンくんの可愛いおめめにキスを落とした。
近づいてくるパトカーのサイレンが聞こえている。遠くから近づいてくる音の束が、夕暮の空気を切り裂いていた。次いでタイヤが路面を噛む音、ドアが閉まる音、複数の足音。そして、チャイムの音。
「あのー、警察の者ですが今よろしいでしょうかね。」
僕にはその声は聞こえなかった。いや、聞こうとは出来なかった。
僕とゴンくんだけの純朴な世界が終わるような気がしたからか、それは僕自身にもわからなかった。
ただ一つだけわかること、それは
僕の中でこの【憎らしいほどの純朴】は
永遠に生き続けていることだけだ。
End
コメント
3件
ものすごく素晴らしいです。
いやー狂ってますね(褒め言葉) 白痴レイプの良さを限界まで引き出した最高の作品です クラピカやっちまったなあ
読了しました……。正直、息が詰まるような話でした。ゴンくんの“だいしゅき”が胸に刺さって、何度も読み返してしまった。純粋な執着が、ここまで静かに美しく、そして悍ましいものになるんだなって。三笠さんの描く“穢れと無垢の境界”が、本当にやるせないです。読後、しばらく動けなかったです。
#HUNTER × HUNTER
すまくま
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