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「……アリアちゃんを、守る……。私が、アリアちゃんを守る……。アリアちゃんを守る、アリアちゃんを守る、アリアちゃんを守る、アリアちゃんを守る、アリアちゃんを……、……、……、……」
ダメだ! さっちゃんが壊れちゃったよ! ど、どうしよう!?
「さっちゃん落ち着いて! 大丈夫だよ! 大丈夫だから! 無理しないから!」
「アリアちゃんを……、……、……、……アリアちゃんは私が守る……」
「うん! わたしはさっちゃんと一緒だから、大丈夫だから!」
「……アリアちゃんは私が守る……アリアちゃんは殺させない……、……、……ねえ、アリアちゃん」
「うん、なに! 何でも言うこと聞くよ!」
もう何でも来い!
さっちゃんの願いは全部叶えるよ!!
「……死んで」
「は? え、なに? 死んでって……」
「私のアリアちゃんを殺すアリアちゃんはいらない……アリアちゃんは私が守る」
「ちょっと! さっちゃん落ち着こう! ね!」
どうしよう! 本格的にさっちゃんが壊れちゃったよ!?
「……私からアリアちゃんを奪おうとするアリアちゃんはいらない。……死んで」
「死なないよ! ずっとさっちゃんと一緒にいるから!」
「死なない? なら、私が殺してあげるよ、アリアちゃん」
うわっ! すごい殺気!!
あ、これが殺気なんだね……って、今殺気を感じても全然うれしくないよ!?
「さっちゃん、わたし、わたしだよ! 1人しかいないアウレーリア本人だよ!」
「アリアちゃんの皮をかぶった偽物……アリアちゃんは私が守る……アリアちゃんは殺させない」
ホントにどうしたらいいの!? 何を言っても伝わらない!
殺気が強すぎるのかわかんないけど全身から黒いオーラが立ち上ってるし、普通じゃないよ、これ!!
「アリアちゃんの形をした悪魔……アリアちゃんに免じて、一撃で首の骨を折って楽にしてあげる」
「悪魔じゃないよ、本人だよ! それに首って!? ちょっと! ホントに落ち着こうよ!」
「大丈夫だよ、アリアちゃん。私は落ち着いてるよ」
「ホ、ホントに落ち着いてるの……?」
すごくいい笑顔だ……。正気に戻ってくれたのかな……。
「うん、アリアちゃんは心配しないでいいよ、私が必ず守ってみせる。そこを動かいでね、怪我をしたら困るから。ちゃんと、一撃で殺してあげるから」
ダメだーーー!! 全然正気じゃないよ!?
殺気とか黒いオーラとか全然消えてないし!!
「さようなら、アリアちゃん――――」
「待っーーー……」
さっちゃんが瞬間移動みたいなスピードでわたしの目の前にきた。
……凄いなー、これが獣人さんが獲物を狩る時の目なんだね。凄く嬉しそうに、獰猛に笑ってるよ。
……わたし、これからさっちゃんに殺されるんだね。
一杯迷惑かけたし、一杯心配かけたし、最後には思いっきり泣かせちゃった……。
ずっと一緒にいるって言ったのに、わたしのせいでこんなお別れになるなんて……。
ごめんね、さっちゃん。わたしが死んだらちゃんと正気に戻ってね。
今までありがとう、わたしの一番の親友のさっちゃん、大好きだよ、さようなら……。
わたしの体は壁に叩きつけられた。
……痛いよ、さっちゃん。一撃で楽にしてくれるって言ったよね。
もういいよ、さっちゃんに殺されるなら本望だよ。早く楽にして。
死んだらさっちゃんの守護霊になるんだ。
さっちゃんが死ぬまでわたしが守ってあげる。
ずっと一緒にいる約束……一方的だけど、わたしが守るよ。
せめてもの償い。さっちゃんがわたしを殺してしまったことへの償い。
さっちゃんが天寿を全うしたら、一緒に天国に行くんだ。
そこで、今度こそずっと一緒に暮らす。
もう迷惑かけないし、心配もかけない。
絶対に泣かせないし、絶対に1人にしない。
「……さっちゃん、まだ? わたしはいつでもいいよ。いつでも首折っていいからね……」
……あれ? もしかして、もう死んでるとか?
最初の痛みで死んだのかもしれない。
「……今のわたしって、幽霊?」
「生きてますよ」
「わひゃ!? だれ!?」
「買い物から帰ったら、お友達同士で喧嘩していて驚きましたよ」
「あ、あの……」
声の正体はおばあちゃんだった。師範代の奥さん。
初めて会話らしい言葉を聞いたよ。
「お友達はベッドで寝てますよ」
「!? さっちゃん!!」
「スー……、スー……、スー……」
……良かったーーー。とりあえず落ち着いてくれたようだよ。
きっと、目が覚めたら何時ものさっちゃんに戻ってるよね……。
「ありがとうございます、さっちゃんを落ち着かせてくれて」
「ふふ、本当に仲良しさんですね。とりあえず、こちらに座って落ち着きなさい」
「……はい」
ベッドの横にあるテーブルに案内された。
おばあちゃんは正面に座っている。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」
……ふぅーーー、お茶が美味しい……。
色々と急展開過ぎて頭の中がグチャグチャだよ。
さっちゃんがおかしくなっちゃったり、魔術で死んでたとか……。
「はぁーーー、うぅーーー……」
さっちゃんを思いっきり泣かせてしまった。
泣かせない、迷惑かけないっていつも思ってるのに……。
わたしって学習能力ないね……。
「はぁーーー、ホントにゴメンね……」
ダメだ……。何を言っても何を思っても、号泣したさっちゃんの顔が浮かぶと気分はどん底になる。
目を覚ましたらなんて声をかければいいんだろ?
とりあえず、謝るのは絶対だよね。そこから謝って、また謝って……ダメだ、謝るしか思いつかないよ。
あんなに号泣した顔も、混乱した様子も初めての経験だ。どうすれば許してくれるのか全く想像がつかない。
「はぁーーー、どうしたらいいの……」
「いつも通りに接してあげなさい」
「へ?」
おばあちゃ……奥さんの存在を忘れてた。
目の前にいるのに失礼だったよ。
「お友達が目を覚ましたら、いつも通りに接してあげれば大丈夫ですよ」
「でも、あんなに泣かせてしまったのも、わたしを……殺そうとするほど混乱させてしまったのも初めてで……今までにないくらい心配と迷惑をかけてしまって……」
「大丈夫ですよ。泣かせてしまったことは謝れば許してくれます。その後、貴方を殺そうとしたことは覚えてませんよ」
「ほえ?」
……覚えて、ない? なんで? すっごい強烈な出来事だと思うんだけど……。
わたしとさっちゃんの事件簿で、間違いなくダントツ1位の出来事だよ。
わたしは今日のことを一生忘れない。さっちゃんだって同じだと思う。
「多少混乱していただけです、もう覚えてません。……貴方のお友達は、本気で貴方に殺意を抱くと思いますか? お友達を信じられませんか?」
「……さっちゃんはわたしの一番の友達です。わたしとずっと一緒にいてくれる、わたしを大切に想ってくれてるって信じてます。殺意がどうとか絶対にありません」
「それでいいのです。お友達を信じて、いつも通りに接してあげなさい」
「……はい」
でも、さっちゃんに殺されそうになったのは事実だ。
号泣させるさせるほどに心配をかけたせいで正気を失ってしまった。
いつも通り、接することが出来るかな……。
「もしも、お友達が貴方を殺そうとしたことを知ったらどうなると思いますか?」
「へ?」
「自分にとって最も大切な人を、正気を失っていたとはいえ殺そうとした。その事実に、お友達は耐えられますか?」
「……」
無理、かな……。
もしもさっちゃんから「アリアちゃんに殺されそうになった」とか聞かされたら、街から逃げ出して、2度とさっちゃんの前に顔を出せないと思う。そして、一生後悔し続ける……。
「貴方の思いとお友達の思いは一緒ですよ。一緒にいたいのなら、今回の事は話さないことです。貴方の胸の内にしまい、自分の糧にしなさい。2度とこのような事はさせない、そういった気持ちで行動するといいですよ」
「はい」
……うん、今日のことは絶対に話さない! さっちゃんの為にもわたしの為にも。
わたし達の夢は「一緒に強くなって、ずっと一緒にいる」だもん。
「ん…………」
「さっちゃん!!」
「……アリアちゃん? ……私、どうしてベッドで横になってるの?」
ホントにさっきのこと覚えてないんだ……。
あんなにハッキリと喋ってたのに、覚えてないなんて不思議なこともあるもんだね……そうだ、謝らないと!
「ゴメンね! わたしが魔術で無茶したせいでいっぱい泣かせちゃった。ホントにゴメン!」
「あ……思い出した……。アリアちゃん、本当になんともないの? 無茶してない? 大丈夫?」
……良かった。いつもの優しいさっちゃんだ……。
「全然無茶してないよ、ホントに大丈夫。もう二度と危ない事はしない。さっちゃんの言うことも、師範代の言うこともちゃんと守る。一緒に強くなってずっと一緒にいる。この夢の為にも、もう絶対に無茶しない、約束する」
「うん、アリアちゃんを信じるよ」
今度は普通に信じてくれた。混乱してた時はなにを言っても信じてくれなかった。
……よかった、ホントによかった、いつものさっちゃんだよ……。
「グスッ……ホントにゴメンね。ヒグッ……もう絶対に泣かせないから……」
「うん、私もアリアちゃんを泣かせない。だから、泣くのやめよう……アリアちゃんには泣いていてほしくない、笑っていてほしい、ね?」
「うん、ありがとう……」
……優しい、すごく優しい。 わたしを殺そうとするほど混乱したのは、それだけ大切に思われてるってことだよね。さっきのことは絶対に話さない。死んでも話さないよ。
「仲直り出来たようで良かったです。お友達は大切にね」
「はい」
「それでは、私は部屋を出てます。貴方達はゆっくりしてるといいですよ」
「ありがとうございます」
奥さんがお辞儀して部屋から出て行ったのでわたしもお辞儀で返す。
さっちゃんを止めてくれて、色々助言してもらった。師範代はただの奥さんとしか言ってないけど、きっとすごい人なんだろうな……。
「師範代の奥様と仲良くなったんだね」
「うん。さっちゃんが……倒れた時に、ベットまで運んでもらって、仲直りのアドバイスを色々してもらったんだ」
「そうなんだ……。私って、何で倒れたんだろう? アリアちゃんが死んでたかも知れないって聞いたら頭が真っ白になって……そこからの記憶がないんだよね。気づいたらベッドの上にいるし……」
頭が真っ白になるほどのショックだったんだね。
混乱してああなっちゃうのも仕方ないか……。
「……真っ白のショックで倒れたんじゃないかな? ホントにゴメンね、すごく心配かけちゃって」
「大丈夫、もう気にしてないよ。私が倒れた程度でアリアちゃんが無茶をしなくなるなら、倒れた甲斐があったよ」
「うん、もう倒れさせないよ。だから、さっちゃんも無理をしてわたしを倒れさせないでね。わたしはさっちゃんが一番大切だから」
「うん、ありがとう」
わたしが頭真っ白になったら暴走する自信がある。
わたしがさっちゃんを殺そうとするとか絶対嫌だ。そうなるくらいなら自分で死ぬ。
……そういえば、あの日の事件も頭が真っ白になった気がするな……。
後先考えずに剣を振り回した男の人の前に飛び出して、さっちゃんに助けられた。
あれって、もしかしたらさっちゃんが怪我してたかもしれないんだよね……。わたしの暴走や考えなしで、さっちゃんが怪我したり死んだりしたら一生後悔委する。
「もし、もしもだよ。わたしがおかしくなって、さっちゃんを傷付けそうになったら見捨てていいからね。自分を大切にしてね」
「大丈夫だよ。前にも言ったけど、私はどんなに傷付けられても大丈夫。私の為にやってくれてるって信じてるから。おかしくなったら元に戻してあげる。何度でも何回でも。だから安心して、絶対にアリアちゃんを見捨てない、ずっと一緒にいるから」
「……うん」
ホントにさっちゃんはすごいな……。自分で決めたことは絶対に貫くって意思を感じるよ。
わたしなんか、ああしよう、こうしようって決めてもすぐに違うことをする。
今までに何回決めたかな……さっちゃんに迷惑をかけない心配させないって……。
いつも思ってるけどすぐに破っちゃう。わたしって、何でこんなにバカなのかな……。
「……深く悩み過ぎないでね。アリアちゃんは二度と無茶しないって言ってくれた。それは嘘じゃないって信じてる。でも、素直過ぎるからついつい違うことをしちゃう時もある。それでいいよ、少しずつ頑張ろう」
「……うん、ありがとう」
何回落ち込んで、何回同じように励まされたかな……。ホントに優しすぎるよ……。
少しでも成長しよう。これからも、ずっと一緒にいるって決めたんだから。