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「またあした」
私に明日が来ることはない。
正確にいえば、私の時間は、あの日の社の裏で泥を啜った瞬間に、永遠という名の円環に閉じ込められてしまったのだ。
篠倉時季という名前は、季節を司る器として与えられたはずだった。
しかし、私の内側に季節が巡ることはない。
十七の春を、私はもう何度繰り返しただろうか。
窓の外で散る桜は、私にとっては既視感の残骸に過ぎず、新緑の瑞々しさも、死にゆく者の末期の夢のように酷く色褪せて見える。
私は所謂「忌み子」であった。
生まれつき、視界の端に澱のようなものが混ざっていた。
それは人の形をしていたり、あるいはただの黒い染みであったりしたが、村の大人たちはそれを「神の悪戯」ではなく「穢れ」と呼んだ。
幼い頃の記憶は、常に冷たい床の感触と、背後から突き刺さる拒絶の視線で構築されていた。
「神様」
「私は今まで度重なる苦痛に耐えてきました」
「私に同情してくださるなら」
「どうか」
「私を皆と同じく」
「成長させてください__」
小さな社の前で、額を地面に擦り付けながら願った。
その時、私の前に現れたのは、光り輝く慈悲の存在ではなかった。
時量師神。あるいは、伊弉諾。
彼は、悠久の退屈を紛らわせるために、私の時間を買い取ったのだ。
「成長したいと申すか」と、神は問うた。
私は強く頷いた。
人並みに老い、人並みに苦しみ、人並みに死にたかった。
だが、神の与えた「成長」とは、細胞が更新されることではなく、世界という名の劇場の観客席に、永遠に座らされることだった。