いつもの日課で夜空に祈っていたある日、「多賀大社に来い」という声を聞いた私たちは、“日本を創った神”であるイザナギさんに出会った。そんな彼からお願いされたこととは、イザナギさんの妻、「イザナミさんを救う」ということだった。
「え、でも私、そんなことが出来る力なんて持ってないですよ…?」
そりゃそうだ。私はただの人間。神様を助けるだなんて、そんな大層なことが出来るわけがない。しかしイザナギさんは、
「ううん。君にはそれが可能な力があるんだよ。」
と言う。だから力なんて持ってないって…。
「…琳寧。」
しばらく黙っていた凛音が、急に口を開いた。そこから何を言い出すのかと思えば…
「俺と代わってくれ。俺とこいつで話をしたい。」
なんてことを言い出す。凛音は思ったことをすぐに口に出す。私のことなら尚更だ。何をするのか分からないから、凛音と変わることは正直不安だ。でも…こんな真剣そうな凛音は見たことがない。
「いいよ。わかった。」
…さぁてと、俺の言いたいことを言えるターンがやっとで来た!
「おや、やっとお出ましかい?もう1人のリンネクン…いや、悪魔くんと言った方がいいかな?」
「はっ。どうとでも呼んでろ。」
たかが悪魔呼ばわりされたところで、別に俺は気にしない。俺は心が広いからな!
イザナギはどちらかと言えば頭が悪い。その代わり、妙に勘だけは鋭いんだよな。ふとした時にとんでもないことを言ってくる事も多々ある神だ。話しすぎないように気を付けないとな。
… ん?俺がなんでこんなにイザナギの事を知ってるかって?それは秘密だ。いつか分かるときが来るかもな。
「ところで話は変わるが…お前はイザナミを蘇らせたいと思っているのか?」
ま、遠回しにいうよりは楽だろ。俺はダイレクトにそう聞いた。するとイザナギは、少し目を伏せて、
「そうともいうが…私はそう思っていない」
意味が分からない。何言ってんだこいつと思っていると、イザナギは話し続けた。
「確かに私はイザナミを蘇らせたい。でも、もう一度神として蘇らせたい訳じゃない。ただ…もう一度、愛する妻と共に過ごしたいだけだ。」
…なるほど。俺は前言撤回をする。俺、心広くねぇわ。
「お前、自分の言葉に責任持ってねぇだろ。」
厳しいことを言うようだが、これもイザナギのためだと思って言うしかない。…まぁそんなこと全く思ってないんだがな。正直ちゃんとキレてる。
「お前、イザナミが死んだ時、真っ先に何をした?」
「もちろん、すぐに助ける方法を探した。」
「いいや、違うな。お前は1番最初に絶望した。違うか?」
俺がそう言うと、イザナギは目を伏せた。
「本当にイザナミを救いたいと思うなら、お前が言った通り、すぐに助ける方法を探すのが1番だろ?それでその方法を見つけた時、お前は先走った。その先に何があるのかなんて全く考えずに。」
「今の状態にしたのも、全部お前の判断ミスからだろ?そんなもので俺らを巻き込むなよ。第一…」
と言いかけてから、俺は少し冷静になった。一応こいつ神だし、ちょっと言い過ぎたかもしれねぇ。言葉選びは慎重に…。
「…まぁ、お前の言いたいことが全く分からない訳でもない。でも、さっきから琳寧が言っての通り、イザナミを助けれるような力は持っていない。別に琳寧に頼らずとも、それぐらいならお前1人で出来るだろ?」
「出来るのならもう既にやっている!!!でも…出来ないんだよ…。」
おぉおぉ、こいつ半泣きじゃねぇか。もしかして俺、地雷踏んだか?
「なぜ出来ないんだ?」
「それは…私とイザナミでは、どちらかと言えばイザナミの方が力が上なんだ。私が黄泉の国の時間を戻して、イザナミが黄泉の国の住人になる前まで戻そうとしたところ、イザナミがそれを打ち消したんだ。『戻りたくない』と、そう言っていた。」
なるほどな。この夫婦は絶賛大喧嘩中ってことだ。てかイザナギ、イザナミより弱いのかよ…。
「だったら尚更、なぜそれを琳寧に頼るんだ?あいつは神でもなんでもない。ただの人間だ。出来るわけがー」
「いいや。出来る。」
…即答ですか。
「そう思った根拠は?」
「彼女が『救い主』だからだよ。」
救い主…。ざっくり言うと、この世界はいつか狂った奴らによって崩壊する。だが、それを止める奴らもいる。その止める奴らのリーダーを救い主と言うらしい。救い主は全ての種族を味方につけ、そして誰でも救おうとするお人好しなんだとよ。まぁ予言みたいな伝承ってだけだし、正直俺はあまり信じていない。
「救い主だって?それを裏付ける根拠でもあんのかよ?俺の知る限り、救い主の特徴なんかは伝承に書かれていなかったぞ?」
「君、この伝承をよく知っているような口ぶりだね。人間界でも出回っているってことかな?」
「あ“〜…まぁそんなところだ。」
正直、人間界にはそんな話は広まってない。ということで、適当に誤魔化しとけばいいだろ。
「それより、琳寧が救い主だという根拠をさっさと言え。」
「あぁ、そうだったね。ま、これに関してはほとんど私の直感ってだけだよ。凛音くんのいう通り、救い主の特徴とかは誰も知らない。それに、今この時代に救い主が居るのかさえも分からない。でもね…何故だろうね。琳寧ちゃんなら絶対にやり遂げるって、私の直感が叫んでるんだよ。」
まぁた意味のわからないことを言ってる。でも…琳寧が救い主か。それは面白そうだ。
「いいだろう。その願いに付き合ってやるよう、俺からも琳寧を説得してみるよ。」
「本当か!?」
ホント、こいつは感情を表に出しやすい奴だな…。
「ただし、3つの条件がある。1つ、もし琳寧が断ったら、脅迫やしつこく説得するのはやめろ。断られたらそれまでと思え。」
「わかった。」
「2つ、交渉の結果がどうなろうと、必ず琳寧には居場所を作ってやってくれ。」
「3つ、まぁこれは今後の話なんだが…。」
俺はイザナギに3つ要求をした。するとイザナギは、
「あぁ。わかった。」
と、快く承諾してくれた。
「それにしても、あの悪魔くんが人の為に頭を下げる日が来るなんて…世の中不思議なこともあるものだね。」
「一応俺、優しい方だからな?一体お前らの方でどんな噂が出回ってるかは知らねぇが。」
「なるほどね。噂をなんでも鵜呑みにするのは良くないと言うし…君は思っていたよりもいい奴なんだね。」
だからそうやって言ってるだろ…。
「それでは、頼んだよ。」
「おう、任せとけ。」
…とは言ったものの、あいつなら多分……まぁいいか。
一度瞬きをしたと思ったら、イザナギさんはなんだか嬉しそうな表情をしていた。
前も言った通り、凛音に変わっている時は記憶がない。時間感覚もないため、どのくらい時間が経ったのかも、それまでに何があったのかも何もわからない。だから、私からしてみればこの状況はかなり不思議な気持ちになる。ということで、まずは状況を聞くべきだと思った。
「それで、一体何を話していたんですか?」
そう聞くと、イザナギさんは悪巧みをしていそうな顔をして
「聞きたい〜?」
と、質問を質問で返してきた。もちろん私は「はい」と言う。するとイザナギさんは、思いがけない一言を言ってきた。
「琳寧ちゃん、君…