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はる☻
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🩷🤍 / 学パロ 以前投稿していた作品のオマージュ
ー 🤍 ーー
彼のことを思い出すだけで胸が熱い。
これは、ニカッという効果音が聞こえるような太陽みたいな素敵な笑顔を持っている、これは彼に困るぐらい引き寄せられた甘くて少しだけ爽やかで、でもほろ苦いそんな俺の恋の話。
事の初めは2年前の高一の春だった。中学校を卒業して1ヶ月も経たないうちに始まった入学式。俺が入った高校は、学力ごとにクラスが厳格に分かれている私立校。
❤️「じゅうほんまにいけるん?
絶対一緒に受からんとやで!?約束な!!笑」
そう言って笑っていた幼馴染の舜太と同じ
景色を見たくて、俺なりに必死に机に
かじりついたつもりだった。でも、結果は残酷で。
🤍「……はぁ。やっぱり、そう上手く
はいかないよねー、、」
掲示板の前で、俺は小さく溜息をついた。
私立校には幸いながら受かったが、舜太はレベルが一番上のクラスで俺は、その二つ下のクラスだった。舜太と一緒のクラスになれる確率がなくなって悲しみながら新しいクラスの教室にしぶしぶ入る。
🤎「え!!○○じゃん!!!!覚えてる!??
小学校一緒だったじゃん!」
🤎「うそ!!!ひさしぶり!!!!!!え、中学さ…」
教室に入った瞬間大きな笑い声と話し声に包まれた。教室内は、すでにいくつかのグループが出来上がっているようだった。あちこちで響く高い笑い声。再会を喜ぶ叫び。知り合いが一人もいない俺にとって、その賑やかさはまるで高い壁のように感じられた。
……終わった。これ、一年間ぼっちやん。詰んだ。
窓際の特進クラスの教室がある校舎を眺めながら、俺は自分の席を探した。
🤍「……あ、あった。」
ラッキーなことに、指定された席は一番窓側の後ろの席だった。ここなら、目立たず静かに一年間をやり過ごせるかもしれない。とりあえず居場所を確保できたことに安堵して、俺はすとんと椅子に腰を下ろした。
とはいえ、周りは相変わらずの喧騒。
前の席の子達は中学が一緒だったのか、
身を乗り出して大声で盛り上がっている。右隣の席の子も、もう前後の席の子と打ち解けているようだった。この、世界に自分一人だけが取り残されたような独特の気まずさ。
……あー、無理。耐えられんってこれ。。
舜太と一緒ならよかったのに。でも今頃舜太は持ち前のコミュ力で打ち解けてるんだろう。俺は逃げるようにカバンを机のフックにかけ、中から新しい教科書を数冊取り出した。
頭良いわけでも勉強がこれといって好きな
わけでもないのに「勉強する気あります」という、誰に向けたわけでもない動き。
そのまま教科書を盾にするように立てかけ、机の下でスマホを取り出した。画面を
タップして、いつものゲームを起動する。
アバターを変えながら呟く。
🤍「ずっとこの席がいいな、、、」
画面に集中して、外の世界をシャットアウトする。でも、そんな淡い期待は、ある一言によってあっけなく打ち砕かれることになった。
?「えちょ、待って。やば。レベル高くね??」
突頭上から降ってきた明るい声に、俺の心臓はドキンと跳ね上がった。驚いて勢いよく顔を上げると、そこには整った顔をした男の子が、目をキラキラ輝かせて俺のスマホの画面を覗き込んでいた。
?「あ、わり。笑 いきなり声かけてごめん。俺もさ、このゲーム好きなんだわ。笑」
彼は頭を掻きながら、ニカッ、と効果音が
聞こえそうな満面の笑みを浮かべた。……眩しい。陽の光をそのまま詰め込んだような、ザ・陽キャの圧倒的なオーラ。あまりの笑顔の眩しさに、俺は一瞬言葉を失ってしまった。
🤍「あ…、… ……全然、大丈夫だけど……、」
人見知りが発動して、消え入りそうな声しか出ない。そんな俺の引き気味な態度なんて気にする様子もなく、彼は「俺、佐野勇斗。 よろしく。笑 」とだけ言って
隣の席の椅子を器用にくるりと反転させ、
俺の机に肘をついた。
🩷「ねえてかさ、その限定アバター持ってるのガチで凄くね!? 俺、何回ガチャ回しても出なくてさー。それってやっぱりイベント周回しまくった感じ?」
ぐいぐいと距離を詰めてくる佐野くん。
いつもなら「苦手なタイプ」だとまとめて
シャッターを閉めるところなのに、佐野くんは不思議と嫌な感じがしない。それどころか、彼の屈託のない笑顔を見ていると、胸の奥がじんわりと熱くなっていくような感覚に囚われた。
🤍「そう。無課金だから徹夜でずっと周回して、なんとか…… ゲットしたって感じ…。 」
🩷「徹夜マジ??すげぇわ、…そりゃ当たるわ。笑」
佐野くんは自分のことのように大はしゃぎして、またニカッと笑った。その笑顔があまりにも素敵で、困るくらいに視線が引き寄せられてしまう。特進クラスの校舎を眺めて「舜太がいればな」なんて
さっきまでメソメソしていた自分が、一瞬でどこかへ飛んでいってしまった。
そこから2年後。高3になった今、呼び方もいつの間にか、お互い「はやちゃん」「柔太朗」になっていた。
はやちゃんは相変わらず、絵に描いたような陽キャだ。誰にでも等身大で優しくて、面白くて、気づけば今年も満場一致で学級委員長。クラスの全員から慕われていて、常に彼の周りには人が集まっている。
それに比べて俺は、相変わらずゲームなどをして、静かに過ごすのが好きなタイプのまま。
だから、お昼休みになるといつも少しだけ気まずい。
🤎「 今日購買のパン新作出るらしいよ!食べ行こ!」
🤎「佐野くん、こっちの机くっつけよ!」
4時間目のチャイムが鳴った瞬間、はやちゃんの席には当然のように人が群がる。俺はそれを見ながら、なんとなく自分の机にお弁当を広げた。……やっぱり、
俺みたいな日陰者がはやちゃんを独占しちゃ駄目。そう思って、一人で食べようとした、その時。
🩷「わり、俺、今日も柔太朗と食べるから。また次でい?ごめん!さんきゅ。笑」
はやちゃんは群がるクラスメイトたちに手を振ると、自分の机をガタガタと引いて、まっすぐに俺の席の前までやってきた。当然のように椅子を反対向きにして座り、ニカッとあの太陽みたいな笑顔を浮かべる。
🩷「ごめん。待たせて。柔今日のお弁当何?」
🤍「……はやちゃん…、いいのに。みんなと
食べなよ、俺は一人でも大丈夫だよ?」
本心だった。はやちゃんに気を遣わせたくないし、何より人気者の彼を縛り付けているような罪悪感が少しだけあったから。
だけど、はやちゃんは持っていたお箸を置くと、少しだけ眉を下げて、俺の目をじっと覗き込んできた。
いつもより少しだけでも優しくて低くて、甘い声。
🩷「……俺が、好きで柔太朗と食べたいの。だめ?」
🤍「っ………え………、」
🩷「俺はみんなと食うのも好きだけど、柔太朗と話しながら飯食うのが一番楽しいの。だから柔太朗がやだっていっても聞かないもんね。 」
首を少し傾げて、悪戯っぽく、でもどこか真剣な目でそう言われて、俺の心臓はうるさいくらいに跳ね上がった。ずるいよ。はやちゃん。
そんなの、他の子だったら勘違すると思う。ただの友達に向けられるものにしては、あまりにも独占欲が強くて、あまりにも優しすぎるその体温。頭のてっぺんまで熱くなっていくのが分かる。
🤍「べつに…、……やじゃないけど …………、」
🩷「んは 笑 だろ?笑 あ、その卵焼き美味そ!俺も食べたい! 」
そう言ってまた子供みたいに無邪気に笑う
はやちゃんを見つめながら、俺は胸の奥が
キュンと締め付けられるのを感じていた。
最初はただの憧れだった。でも、毎日こうやって特別扱いされて、彼の一挙手一投足に一喜一憂して。
そんなの、好きにならない方が無理だよ。
🤍 「あ、ちょ 、はやちゃん!」
🩷 「俺のウィンナーと交換な。笑」
はやちゃんは、俺のお弁当箱に自分のタコさんウインナーをぽんと置くと、俺が箸をつけていた卵焼きを器用に掠め取って口に運んだ。
🩷「んー!うまっ!柔太朗のお母さんの卵焼き、ガチで世界一だわ。 」
美味しそうに頬張る姿を、俺はただ耳まで真っ赤にしながら見つめることしかできなかった。今、それ、俺がさっき口つけようとした箸じゃん…、
なんて、間接キスを意識しているのは俺だけで、はやちゃんはこれっぽっちもそんなこと気にしていない様子で、もぐもぐと口を動かしている。
こういう無自覚な距離の近さが、俺の心をいつもかき乱す。甘くて、心地よくて、でも時々「彼は誰にでもこうなんじゃないか」という不安が胸をチクリと刺す。ほろ苦い、片想いの味。
昼休みが終わり、放課後のチャイムが鳴ると、はやちゃんは「柔太朗、ちょっと待ってて!すぐ終わらせて戻るから!」と、学級委員の仕事があるらしく慌ただしく教室を出て行った。
一人残された夕暮れの教室。
オレンジ色の光が差し込む窓辺に寄りかかり、俺はなんとなく外を眺めていた。ふと、グラウンドを挟んだ向こう側の校舎――特進クラスのある建物に目が留まる。2年前、あの場所を見上げて「終わった」と
絶望していた自分を思い出す。
あの時、もし俺が舜太と同じ特進クラスに受かっていたら。もし、この一般クラスの、一番後ろの窓際の席に座っていなかったら。きっと、俺ははやちゃんと出会うことはなかった。言葉を交わすことも、こんな風に名前を呼び合うことも、お弁当を分け合うこともなかったはず。
そう思うと、あの日、掲示板の前で絶望した最悪の結果さえも、神様がくれた最高のプレゼントのように思えてくるから不思議だった。
🩷「……何一人でたそがれてんの。笑 」
聞き馴染んだ声に振り返ると、教室の入り口に、少し息を切らせたはやちゃんが立っていた。夕日を背に浴びて、笑顔を浮かべる彼。その姿は、2年前のあの日、スマホの画面を覗き込んできた瞬間の彼と、何一つ変わらず眩しい。
🤍「おかえり、はやちゃん。早かったね」
🩷「だって、柔太朗待たせてるし。ダッシュで片付けてきた。」
そう言って俺の隣まで歩いてくると、はやちゃんは窓枠に肘をついて、俺の顔をじっと覗き込んできた。
🩷「何考えてたの? さっきからさ、
なんかすげぇ優しい顔して外見てたから。」
🤍「……べつに。2年前のこと、ちょっとね」
🩷「2年前? あー、俺らが初めて会った時のこと?」
にこっと笑う。正解、と言わんばかりに。
🩷「え、てかさ。あの時柔太朗、めちゃくちゃ話しかけんなオーラ出してたよね。俺、一瞬ビビったもん。」
🤍「嘘つけ。全然怯んでなかったじゃん。
ぐいぐい来たくせに。」
🩷「だってさ、こんな綺麗な顔した奴が、
俺の好きなゲームの限定アバター持ってんだよ?話しかけないわけないじゃん。」
さらりと「綺麗な顔」なんて言うから、また心臓が変な跳ね方をする。はやちゃんは、夕日に照らされた俺の横顔を、少しだけ真面目な目で見つめた。
🩷「でも、俺、あの時、柔太朗に声かけて
マジで良かったって思ってんだよ。」
🤍「……え?」
🩷「柔太朗じゃなきゃダメなんだよね。なんか。落ち着くっつか。本来の俺を見せれるっつーか。」
オレンジ色の世界の中で、はやちゃんの声がいつもより低く、鼓膜を揺らす。その瞳は、お昼休みに「俺が、好きで柔太朗と食べたいの」と言った時よりも、ずっと真剣で、熱を帯びていて。
ただの友達に向けるには、あまりにも過保護で、あまりにも独占欲が強くて、あまりにも愛おしそうなその視線。胸の奥のキュンとする痛みが、今度ははっきりと、熱い期待へと変わっていく。引き寄せられて、囚われて、もう引き返せない。
いつかこのほろ苦さが、全部甘い思い出に変わる日が来る予感を抱きながら、俺は赤くなる顔を隠すように、夕暮れの街へと視線を戻した。
🤍「……そういうこと、さらっと言うのずる。」
🩷「ん?何が?笑」
心臓のバクバクが本人に聞こえてしまうん
じゃないかってくらい、教室中に俺の鼓動が響いている気がする。それなのに、当の本人はまたニカッと子供みたいに笑って、何事もなかったかのように「よし、帰ろ!」と俺のカバンを棚から引っ張り出してきた。
本当に、この人はずるい。振り回されているのは俺だけ。そう思うと、なんだか少し悔しくなって、俺はわざとゆっくりとカバンを受け取り、トボトボとはやちゃんの後ろを歩いた。
夕暮れ時の校舎は、さっきまでの喧騒が
嘘みたいに静かだ。階段を降りて、昇降口でローファーに履き替える。
🩷「まって。うわ、もうこんな時間じゃん。急がないと店閉まっちゃうかも。」
🤍「お店? どこ行くの?」
🩷「ほら、駅前に新しくできたクレープ屋!今日まで限定のやつあるって言ったじゃん。笑」
忘れてた。そういえばお昼休みにそんな話
してた気がする。はやちゃんは「ほら、はやく!」と楽しそうに笑いながら、長い足でぐんぐんと先に歩いていってしまう。
🤍「ちょ、待ってはやちゃん……っ 、」
ただでさえ歩くのが早いはやちゃんに、考え事をしていて出遅れた俺の足が追いつくわけもない。少しだけ焦って、伸ばした俺の手。
その瞬間。前を歩いていたはずのはやちゃんが、不意にピタッと足を止めて振り返った。
🩷「…もー…柔太朗遅い !」
ちょっとだけ拗ねたような、でも、どこか愛おしそうな顔。そして、差し出された俺の手を、はやちゃんは逃がさないように、下からすくい上げるようにして包み込んだ。
🤍「っ……!」
驚いて息が止まる。でも、それだけじゃなかった。はやちゃんは、俺の手のひらに自分の手のひらをぴったりと重ね合わせると、お互いの指の間に、一本ずつ、自分の指をすべり込ませてきた。
指と指が深く絡み合う。隙間なく、お互いの体温がダイレクトに伝わってくる、完全な『恋人繋ぎ』。
🤍「……え、あ、はや、ちゃん……??」
🩷「ん?」
心臓が跳ね上がるなんてレベルじゃない。頭の中が真っ白になって、繋がれた手があまりにも熱くて、じわじわと指先から痺れていくような感覚。
男子高校生同士が、放課後の帰り道に、しれっとする繋ぎ方じゃない。
焦ってはやちゃんの顔を見上げると、彼は何食わぬ顔で前を向いた。でも、よく見ると、彼の綺麗な耳の裏が、夕日のせいだけじゃないくらい、真っ赤に
染まっている。
🩷「 ……こうしてりゃ、置いてかれないっしょ?笑」
繋いだ手に、少しだけぎゅっと力がこもる。いつもみたいにニカッと笑う余裕すらないみたいに、前を向いたままのはやちゃんの横顔。繋いだ手の熱さで、一瞬にして全部とろけていくのが分かった。
🤍「……うん。笑 」
溢れそうになるニヤけ顔を隠すように、俺も、繋がれた手にそっと力を込めた。繋いだ手から伝わってくる、はやちゃんの体温。トク、トク、とどっちのものか分からない鼓動が、手のひらを通じて俺の身体中に響き渡っている気がした。
駅までの短い道のり。はやちゃんは、時折「あ、あそこの店、新しくなったんだ」とか「明日の小テストの範囲どこだっけ」
とか、いつも通りの他愛もない話を振ってくる。
でも、繋いだ手は絶対に離そうとしない。
俺の歩幅に合わせて、いつもより少しだけゆっくり歩いてくれるその優しさが、今の俺にはどうしようもないくらい愛おしくて、そして、苦しかった。
隣を歩く彼の、整った横顔を盗み見る。
こうして優しくされるたびに、俺の中の『好き』という気持ちは、止めどなく膨らんでいく。まるで、容量の決まったコップに、溢れるほど甘い水を注がれ続けているみたいに。
これ以上、優しくしないでよ。胸の奥で、
小さな悲鳴が上がる。これ以上優しくされたら、俺、本当に隠しきれなくなっちゃうよ?「はやちゃんが好き」って、この気持ちが口から溢れちゃいそうになる。
でも。もし、この想いを全部ぶつけてしまったら、俺たちの関係はどうなるんだろう。
ふと、冷たい現実が頭をよぎって、繋いだ手に少しだけ冷や汗がにじむ。俺たちは、男同士。いくら今、こうして特別扱いしてくれているからって、それはあくまで「親友」としての距離感なのかもしれない。男が、男を好きになる。
ましてや、クラスの真ん中にいて、みんなから慕われている「佐野勇斗」を、この俺が恋愛対象として好きだなんて。もし伝えてしまったら、はやちゃんは引いてしまうだろうか。あの太陽みたいな笑顔を曇らせて、困ったように眉を下げて、俺から離れていってしまうのだろうか。
想像するだけで、足元がガラガラと崩れ落ちるような恐怖に襲われる。それなら、この胸を締め付ける苦しさにずっと耐えてでも、言葉にせず、「一番の親友」の枠に収まっていた方が、ずっと安全で、ずっと賢い選択に決まってる。
🩷「……どした?手冷たくなってっけど。 」
立ち止まった俺に気づいて、はやちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。その瞳は、どこまでも澄んでいて、どこまでも優しい。ほら、またそうやって優しくする。
🤍「……なんも、ない。ちょっと風冷たいなって思っただけ。 」
嘘をついた俺に、はやちゃんは「そっか」と呟くと、繋いでいた手を一度離した。一瞬、胸がキュッと冷たくなる。でも、彼はすぐに俺の隣に一歩踏み込むと、離したばかりの俺の手を、今度は自分の制服のブレザーのポケットの中に、無理やり一緒に
突っ込んだ。
🩷「これなら温かいっしょ?」
ポケットの中で、もう一度、深く、指が絡み合う。「恋人繋ぎ」のまま、狭いポケットの中で密着する手。
🤍「っ……、 !! 」
もう、限界だった。引かれるかもしれない。拒絶されるかもしれない。そんな恐怖よりも、この優しさに溺れてしまいそうな
自分の気持ちの方が、とうにキャパを超えていた。
ポケットの中の、はやちゃんの手を、今度は俺の方からぎゅっと、壊れそうなくらい強く握り返した。はやちゃんが、少し焦ったように俺の顔を覗き込んでくる。ポケットの中で俺が不自然に手を強く握りしめたから、何かを察したんだろう。
🩷「柔?……やっぱ具合悪い?」
心配そうに細められたはやちゃんの瞳が、間近に迫る。次の瞬間、ポケットから抜かれた彼の大きな手のひらが、俺の前髪を優しくかき上げて、おでこにそっと触れた。ひんやりとした空気に、はやちゃんの体温がじかに触れて、それだけで心臓が口から
飛び出しそうになる。
🩷「熱はー……ないか…。でも、顔、真っ赤じゃん。」
おでこから、今度は頬へとスライドしていく手。その一挙手一投足が、俺の「好き」という気持ちを限界まで煽っていく。はやちゃんは、俺の様子をじっと観察するように見つめながら、少し困ったように眉を下げた。
🩷「クレープ……食べ歩きしんどいよな。あ、いったん、あそこのベンチ座る?」
すぐ近くの小さな公園にあるベンチを指差しながら、どこまでも俺を最優先にしてくれるはやちゃん。その優しさが、今は嬉しくて、それと同じくらい、胸がちくちくと痛む。
🤍「……ごめん……っ、」
掠れた声で、なんとかそれだけを絞り出す。おでこに触れていたはやちゃんの手を、俺はそっと両手で包み込むようにして、自分の顔から離した。でも、完全に離してしまう勇気はなくて、胸の前で、彼の大きな手を引き止めるように握りしめる。
🤍「具合、わるくない…、大丈夫…、だから……、」
それ以上、言葉が続かない。「大丈夫」なんて言っているのに、俺の視線は完全に泳いでいて、繋いだ手は小さく震えていた。
嘘をつくのが下手くそな俺を、はやちゃんはただじっと見つめている。夕暮れのオレンジ色の光が、二人の影を長く地面に引き延ばしていた。
はやちゃんの手は、相変わらず温かい。
このまま、何も言わずに「友達」としてクレープを食べに行けば、明日も、明後日も、この優しい日常は続く。でも、ポケットの中で深く絡み合ったあの指の感触が、俺の頭からどうしても離れない。ただの親友に、あんな繋ぎ方する?
ただの友達の、おでこや頬に、こんな風に
愛おしそうに触れる……?期待してしまう。もし、はやちゃんも俺と同じ気持ちなのだとしたら。もし、この苦しい迷路の出口が、すぐ目の前にあるのだとしたら。
俺はゆっくりと顔を上げて、夕日を反射してきらきらと光る、はやちゃんの瞳をまっすぐに見つめた。言葉にするのは怖い。でも、これ以上、この気持ちに嘘をつき続けることなんて、もう俺にはできなかった。視界が急にじわっと歪んで、堪えきれなくなった大粒の涙が、ポロっと頬を伝って落ちた。自分でもびっくりするくらい、感情が限界を迎えていたんだと思う。
はやちゃんの真っ直ぐな言葉が、嬉しくて、でも怖くて、胸の奥がぐちゃぐちゃになって、涙を止めることができなかった。
🩷「……あ、……え?」
隣で俺の手を握っていたはやちゃんが、俺の異変に気づいて息を呑む。すぐに歩くのを完全にやめて、繋いでいた手を離すと、今度は俺の背中に大きな手のひらをそっと添えてくれた。
🩷「柔……? ……… あーー……やっぱしんどいな。もっと早く気づけばよかったな。ごめん。 」
はやちゃんの声が、焦りと後悔で目に見えて震えている。背中を優しく、一定ののリズムでさすってくれる手のひらが温かくて、その優しさがまた胸にツンとくる。
🤍「ちが……、おれ……、ほんと大丈夫だから……っ、具合、悪くない………から……、だいじょうぶ…、」
掠れた声で必死に否定するけれど、ボロボロと溢れてくる涙のせいで、全く説得力がない。体はどこも痛くないし、熱だってない。ただ、はやちゃんへの気持ちが溢れて止まらないだけなのに、彼をこんなに不安にさせていることが申し訳なかった。
🩷「いいから。ちょっと落ち着こ? ほら、
あそこのベンチ座ろ。な? 」
はやちゃんは俺の肩を優しく支えるようにして、ロータリーのベンチへと誘導する。すとん、と木製ベンチに腰を下ろしたけれど、涙は一向に止まってくれない。それどころか、視界が少しクリアになった
瞬間、最悪な事実に気づいてしまった。
……最悪……、ここ、結構目立つ…。
駅前のロータリー。夕方の帰宅ラッシュが始まりかけていて、部活帰りの他校の生徒や、買い物帰りの人たちがそれなりに行き交っている。男子高校生が二人でベンチに座って、片方がボロボロ泣いている
なんて、どう見ても目立つ。すれ違う人たちの視線がなんとなくこちらを向いているような気がして、急に怖くなった。
どうしよう、どうしよう。もし、同じ学校のクラスメイトにでも見られたら。
「佐野くんが、山中を泣かせてる」とか「あの二人、何やってるの?」とか、変な噂が立ってしまうかもしれない。クラスの人気者で、誰からも慕われているはやちゃんの足を、俺のせいで引っ張ることになったら。
そんなネガティブな思考が頭をぐるぐると駆け巡り、焦れば焦るほど、余計に涙が溢れて止まらなくなってしまった。
🤍「っ…、…、、…っ…、、…… 」
🩷「柔太朗?」
周囲の目が気になって、顔を伏せて肩を震わせる俺を見て、はやちゃんは何かを察したようだった。
🩷「……ちょっと、ごめん、 」
低い声が鼓膜を揺らした直後、フワッと、
はやちゃんの制服の匂いに包まれた。大きな腕が俺の背中に回され、ぐい、と強い力で引き寄せられる。
🤍「っ……!」
気づけば、俺の顔ははやちゃんの広い肩口にすっぽりと埋められていた。はやちゃんは自分の体を壁にするようにして、周囲の視線から俺の顔を完全に隠してくれた。
🩷「大丈夫だから。誰も見てないよ。
俺が隠してるから、な?」
耳元で囁かれる、優しくて、でも包み込むような頼もしい声。はやちゃんの肩に額を預けたまま、俺はただ、彼のブレザーの生地をぎゅっと 握りしめることしかできなかった。はやちゃんの肩に顔を埋めたまま、しばらくの間、俺はただ静かに涙がひくのを待っていた。トクトクと響く彼の心臓の音と、背中を優しくさすり続けてくれる手のひらの温かさだけが、今の俺のすべてだった。
しばらくして、ようやく呼吸が落ち着いてくると、はやちゃんは俺の肩をそっと抱き起こした。
🩷「……落ち着いた?」
覗き込んできた彼の顔は、本当に心配そうで、どこか申し訳なさそうに歪んでいる。
俺が小さくコクンと頷くと、はやちゃんは自分の大きな手のひらを俺の頬に添えた。そして、目元に残っていた涙の跡を、親指の腹を使って、ふわりと優しく、 労るように拭ってくれた。その指先があまりにも柔らかくて、また胸の奥がキュンと切なくなる。
🩷「ごめんな。俺が無理に付き合わせちゃったから……。しんどかったよな。 」
眉を下げて、本当に自分のせいだと思い込んでいるはやちゃん。いつもなら「ニカッ」と笑っているはずのその表情を、俺のせいで曇らせてしまっていることが、何よりも苦しかった。
🤍「ちが……、っ……、だから……、はやちゃ……んのせいじゃない………、………、」
慌てて首を振るけれど、涙を堪えるためにぎゅっと唇を噛み締めていたら、上手く言葉が繋がらない。はやちゃんのせいなんかじゃない、むしろ嬉しくて、でも怖くて、感情が迷子になってしまっただけなのに。
そんな俺の様子をじっと見つめていたはやちゃんは、ふっと少しだけ表情を緩めると、俺の目線を合わせるように顔を近づけてきた。
🩷「じゃあ、なんで泣いちゃったの? ちゃんと俺に教えて?」
まるで小さな子供をあやすような、どこまでも甘くて、優しい声。はやちゃんのその真っ直ぐな瞳が、優しすぎるその声が、俺の心の決壊を完全に防ぎきれなくさせた。
もう、隠せない。これ以上、嘘をつけない。
もしこれで全てを失うことになっても、この気持ちを抱えたまま、これ以上「親友」のフリをして彼の隣にいるなんて、もう限界だった。
🤍「おれ……っ、へんなんだよ……っ …、」
ボロボロと再び溢れ出した涙を拭うこともできず、俺は必死に言葉を紡いだ。
🤍「女の子じゃなくて……はやちゃんが、……、好き。はやちゃんが、俺のこと親友だって接してくれてても俺、そういう意味で捉えられてないよ……っ……、ただの友達の距離じゃないのかなって、勘違いして……っ、期待して、苦しくて……っ…、」
一気に捲し立てる俺の言葉を、はやちゃんは遮ることなく、ただ黙って聞いてくれている。その無言が怖くて、嫌悪感を抱かれたんじゃないかと怖くなって、俺の口からは謝罪の言葉しか出てこなかった。
🤍「男同士だから……きもいって思われるかなって…、……でも、止められなくて……っ。ごめ……、…、」
また視界が涙でぐしゃぐしゃになって、頭を抱えて俯こうとした、その時。
🩷「っ、柔太朗 …、」
焦ったような、でもどこか深く安堵したような声が聞こえた直後、視界が強引に奪われた。隙間もないくらい、ものすごい力で、俺の身体がはやちゃんの腕の中に引き込まれる。あまりの勢いに息が詰まったけれど、はやちゃんは俺の背中に回した手にぎゅっと力を込め、さらに強く俺を抱きしめた。
🤍「はや……ちゃん……?」
🩷「何がごめんなんだよ、バカ……っ !」
耳元で響いたはやちゃんの声は、少しだけ震えていた。俺を抱きしめる彼の腕が、かすかにカタカタと震えているのが伝わってくる。
🩷「きもいわけねぇし。っていうか、気づくの遅すぎて、俺がどんだけ焦ったと思ってんの?」
🤍「え……?」
パニックになりそうな頭で、俺は彼の言葉を何度も反芻した。気づくの遅すぎて焦った?それって、どういうこと?はやちゃんはゆっくりと体を離すと、今度は俺の
両肩をがっしりと掴んで、じっと俺の目を覗き込んできた。夕日に照らされたその顔は、いつもクラスのみんなに見せる完璧な優等生の笑顔じゃなくて、少し耳まで赤くして、必死に感情を堪えているような、
そんな表情だった。
🩷「俺さ、ずっと待ってたんだけど。柔太朗が俺のこと、ただの友達以上の目で見てくれるのを」
🤍「……え、待って……待って、はやちゃん…、 」
頭の処理が追いつかない。
はやちゃんはふっと眉を下げて、困ったように、でもたまらなく愛おしそうな目で俺を見つめた。
🩷「気づいてなかった? 俺、誰にでもあんな恋人繋ぎしたり、お弁当の卵焼き欲しがったり、ポケットの中に手突っ込んだりしねぇよ。」
🤍「それは……だって、はやちゃん距離感バグってる陽キャだし、親友だから、かと……」
蚊の鳴くような声で返すと、はやちゃんは
「はぁー……」と、これ以上ないくらい大きな溜息をついて天を仰いだ。
🩷「あのさぁ、柔太朗。俺が、他の奴に
あんなことしてるとこ、一回でも見たことある?」
🤍「……ない、けど」🩷「だろ?」
はやちゃんは、呆れたように、でも嬉しさを隠しきれないといった様子でニカッと笑った。2年前、一番後ろの窓際の席で俺を捕まえた、あの太陽みたいな笑顔。
🩷「俺さ、2年前の春、あの教室で柔太朗を見た時から、なんか柔太朗は他の奴らとは違うなって。」
夕暮れの街の喧騒が、急に遠ざかっていく気がした。耳元でトクトクと鳴り響く心臓の音が、さっきまでは恐怖の音だったのに、今は信じられないくらいの幸福感に変わっていく。
🩷「男同士だからとかキモいとか、そんなこと1ミリも思ったことない。女とか男とか関係ねぇよ。俺は、山中柔太朗っていう人間が、どうしようもないくらい好き。 」
🤍「っ……、はやちゃん……、」
また視界がじわじわと歪みそうになって、慌てて目元をブレザーの袖で擦った。そんな俺の手を、はやちゃんは優しく制して、自分の大きな手で包み込む。
🩷「俺と、付き合って。親友じゃなくて恋人として。」
まっすぐに放たれたその言葉は、甘くて、少しだけ照れくさそうで、でも、2年間俺がずっと心の奥底で欲していた、何よりも確かな答えだった。
🤍「……ずるい、よ……。そんなの、
断れるわけないじゃん……」
涙混じりの声でそう呟くと、はやちゃんは本当に嬉しそうに、今日一番の満面の笑みを浮かべた。
🩷「ん。じゃあ、両想いってことで。笑」
ポケットの中で、もう一度、指と指が深く深く絡み合う。今度の『恋人繋ぎ』には、もうさっきのような切なさも、ほろ苦さもなかった。ただ、お互いの体温が心地よくて、甘いトリートメントみたいに胸の奥を優しく満たしていく。
🩷「よし! じゃあ、泣き虫な俺の柔太朗の
ために、限定クレープ買いに行きますか!」
🤍「っ、もう泣いてないし……!」
🩷「んはは、顔真っ赤。かわいい。笑」
そう言って俺の髪をくしゃくしゃと撫で回すはやちゃんは、やっぱり無自覚でずるくて、でも、世界で一番愛おしい。2年前、特進クラスに行けなくて絶望していたあの日の俺に、教えてあげたい。あの最悪だと思った結果の先には、こんなにも眩しくて、甘い、最高の未来が待っているんだよって。
手を繋いだまま、俺たちはゆっくりと駅の方へと歩き出した。夕日に伸びる二人の影は、ぴったりと寄り添って、どこまでも長く続いていた。