コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
宙域へと現れたセンチネルの増援艦隊は、軽く万を越える絶望的な規模であった。ワープアウトを示す閃光は止まることがなく、今まさにティナ達が相手にした哨戒艇クラスからキロ単位の全長を誇る戦艦クラスまで種類もまた多種多様であった。
『ワープアウトした艦艇より多数の高速物体放出を確認しました!スターファイターと思われます!数、測定不能!』
《大丈夫だ!ゲートは目の前だ!間に合う!》
『いいえ、間に合いません。輸送船がゲートを潜るには15分必要です。センチネルスターファイターが我が艦隊へ到着するまで凡そ10分。また同時に戦艦クラスの主砲射程に入ります』
《そんなっ!?》
《なんだと!?》
フェルの悲鳴とテルスの驚愕の声が流れる。ようやく危機を脱した直後に現れた絶望は、皆の心を今まさにへし折られようとしていた。
『ティナ、本艦及びスターファイターのみによるゲート使用を推奨します。このままでは全滅します。生存者を助け出すと言うタスクは成し遂げられます』
「いいや!皆を見棄てることなんて出来ない!アリア!今すぐに……そう!格納庫内部の映像を輸送船の皆に見せて!早く!」
ティナと言う少女以外は。
《どうするつもりだ!?ティナ嬢!》
「テルスさん!あの数の敵を相手に5分も持ちません!輸送船を捨ててプラネット号へ生き残った皆を収容します!」
『無理です、プラネット号に300人も収容する能力はありません』
重武装、重装甲化の弊害で居住出来るエリアの収容能力は100名前後が限界である。
「少し我慢して貰うしかないよ!格納庫なら無理をすれば収容できる!」
『しかし……』
「議論してる暇はないよ!出来るだけ輸送船にプラネット号を近付けて!皆には格納庫まで転移して貰う!まさか私より下手なアード人は居ないよね!?」
『……危険ですが、ティナですからね。すぐに取りかかります』
「ありがとう!フェル、ごめん。また危険に巻き込むよ!」
《どこまでも一緒ですよ。以後、制御を完全にアリアさんに任せます。私は格納庫で準備しますね!》
《ならば我々は少しでも時間を稼ごう!いくぞみんな!》
《《《おうっ!!!》》》
「テルスさん!?」
《ティナ嬢!そちらは任せたぞ!》
僅か10機の戦闘機が、センチネルの大軍へ向かっていく。
『ティナ、準備が整ったと輸送船から連絡が来ました』
既に5分が経過しており、最早躊躇している時間はなかった。
「直ぐに始めて!時間がないから一気に」
プラネット号格納庫。ギャラクシー号を収容するための広い空間に様々な機材が安置されている。フェルは万が一に備えて格納庫内部の重力装置をオフにして無重力空間にしていた。
「アリアさん!受け入れを始めて!」
『了解、受け入れ可能を通達……マナ粒子観測。転移開始』
次の瞬間格納庫内部に無数の魔方陣が展開され、次々とアード人達が転移してきた。
ティナの転移限界距離100メートルはアード人としては最低の距離であり、成人したアード人ならば最低でも500メートル。平均すれば1キロ前後の転移が可能である。
この数値はティナの魔法適性が如何に平均を下回っているかを物語っている。
「来た!……!?」
現れたアード人の大半は女性であり、少数ではあるが子供の姿も見受けられた。そして子供以外は痩せ細り例外無く怪我をしていた。
センチネルは最初の攻撃でトランクがある保管庫を破壊したが、そこには主要な食料品も納められており、僅かに残された食料は子供達に食べさせ、センチネルの猛攻から子供達を護るために戦い抜いた結果である。
「先ずは怪我の手当てを!深い怪我をされている人は医務室へ案内します!もし動ける人が居るなら、食事や医療シートを運ぶのを手伝ってください!」
フェルは予定通り非常用に積み込まれていた医療シートを全て解放し、食料品も解放した。とは言え、非常用の栄養スティックではあるが。
次々と転移してくる彼女達の中で比較的軽傷の者はフェルを手伝い、避難は順調に進んでいた。
プラネット号の直ぐ側にギャラクシー号を待機させハラハラしながら様子を観察しているティナ。既に時間は迫りつつあった。
その時、突如として輸送船が進路を変えてプラネット号とは真逆の、つまりゲートから遠ざかるように動き始めたのだ。これにはティナも驚愕した。
「ちょっ!?フェル!アリア!何があったの!?」
『マスターフェルの代わりに状況を説明します。避難してきた生存者は凡そ200名。輸送船にはまだ70人前後が残されたままです』
「ならどうして!?」
『簡易バイタルチェックと避難民から簡単な聞き取りを行いました。結果、残された人々は手遅れです。最善の治療を施しても生存する可能性は極めて低い。彼らは自らの意思で、他の皆を逃がすため囮になると』
「そんなことはさせない!私が……!?」
輸送船へ向かおうとするが、突然ギャラクシー号が制御を受け付けなくなり、プラネット号の甲板へ強制着艦させられた。
「なにこれ!?アリア!」
『残念ですが、時間切れです。間も無くセンチネル艦隊の射程に入ります。ゲートへ突入、同時にゲートを爆破します』
「っ!テルスさん!引き返してください!時間切れです!」
《そのまま行ってくれ!》
「そんな!?テルスさん!」
《君たちは危険を冒して助けに来てくれた。これがせめてもの恩返しだ!……済まない、皆を頼む》
「テルスさんッッ!!!」
『ゲートへ突入します!』
ゲートへ入る直前ティナが見たのは、視界を埋め尽くすほどのビームの雨とそれに晒されるテルス達の姿であった。
悲劇は繰り返される。だがセンチネルの攻撃を受けた居留地から200名弱の生存者を保護できたことは、奇跡に等しい成果である。
最も、それを成し遂げた少女達の心に傷が遺されたのは言うまでもない…。