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間一髪ゲートへと飛び込みセンチネル艦隊の追撃から逃げることが出来た。でも……テルスさん達の犠牲と引き換えに救われた。助けに来たのに、最後には命懸けで助けられた……。ままならないなぁ。
強制的に甲板に着艦させられて、今はハイパーレーンの中。極彩色の空間が広がってる。いつまでも落ち込んでいる訳にはいかない……よね。フェルを手伝わないといけないし……切り替えないと。
「よしっ!転移!」
ちょっと強めに頬を叩いて気合いを入れる。泣くのは全部が終わった後!、フェルに慰めて貰えば良いし。
今は、テルスさん達が命懸けで託してくれた生存者の皆さんを無事にアードへ送り届けることを優先しよう。
避難民が収容されている格納庫へ転移してみると、そこはまるで野戦病院だった。ちょっとでも動ける人達も手伝いながら、フェルが文字通り飛び回ってる。
「ティナ!」
「手伝うよ、フェル。何をすれば良い?」
「医療シートにはまだ余裕があるので、ティナは重傷者を医務室へ運ぶのを手伝ってください!」
「任せて!」
こんな時無重力だと本当に便利だ。患者の負担を最小限にしながら、重量何かをほとんど無視できる。
無重力だと平衡感覚を失いやすいなんて言われてるけど、私達には翼があるし空を自在に飛ぶ力があるんだ。地球人に比べれば適応しやすい。
今も担架に乗せた人を私が一人で搬送。おもいっきり飛びながら医務室を目指す。曲がり角では壁を蹴りながらショートカット。まるでハリウッドだね。
医務室では事前に積み込んであった医療ポットが4基稼働してた。良かった、ひとつ余ってた。全部で5基だからね。
「今楽になりますからね!」
「ごめんなさいね……ありがとう……」
担架に乗せた女の人の衣服を手早く脱がせて、台の上に横たえた。すると透明な半円の蓋が閉まり、中を液体が満たしていく。これは医療用のナノマシンと治癒魔法の効果が付与されたマナの混ざった液体……らしい。
詳しいことはわからないけど、要はカプセルの中で液体に浸されて怪我が治る装置だ。THE☆SFって感じだよね。私は利用したことがないけど、呼吸は普通に行えるみたい。
それと、治療の邪魔になるから利用する場合は全裸だ。いやまあ、医療ポットが必要なくらいの怪我人なら羞恥心なんかを気にしてる余裕はないしね。
治療開始を確認した私は、直ぐに格納庫へ引き返した。やれることがあるはずだからね。
そうやってしばらくバタバタして、ようやく手当てが一段落した。皆クタクタだよ。特に治癒魔法を惜しみ無く使い続けたフェルは、マナ欠乏症になりかけた。
要は貧血に近い症状だ。フェルはアード人はもとより、リーフ人の平均を遥かに上回る魔力を保有しているけど、当然限界はある。無理をさせてしまった。
こんな時は魔法の才能がほとんどなくて保有魔力も観測史上最低レベルの自分が恨めしい。転生特典は何処……?
一段落して回りを見渡したら、大半が女性だ。と言うより、子供が20人くらいは居るんだけど何人か男の子が居るくらい。成人男性は居ない。
アリアが私達の代わりに聞き取りをしてくれた。アリアによれば男性は皆武器を手に女子供を護るために戦い、亡くなったらしい。
……立派だと思う反面、どうにか出来なかったのかと自問自答してしまう。私一人じゃ限界があるのは当然なのに……はぁ、悪いなぁ。また暗いことを考えてる。
「ティナ、お疲れさまでした」
「フェルもね。休んでなくて良いの?」
「私はまだ大丈夫ですよら、ティナは?」
「私もまだ平気だよ」
今は皆に栄養スティックと地球で手に入れて保管していた地球産の保存食を振る舞っている。
塩漬け肉を中心に、ビーフジャーキーを用意してみた。お酒のお供だけど、純粋に美味しいんだよねぇ。喉が渇くけど。
アード人の皆も保存食の肉類に興味津々だ。お肉なんて食べられないもんねぇ。
「なにこれ!?塩味だけどとっても美味しいわ!」
「こんなに美味しいものは初めてよ!」
「お母さん、もっと食べたい」
「コラッ!贅沢を言わないの!」
「いーよ、どんどん食べて」
お腹が膨れたら安心するもんね。全部食べても構わない。この人達は地獄のような日々から助かったんだ。これくらいの贅沢は許されるべきだよ。
プラネット号の居住区は100人分の居住スペース、つまり部屋しかない。だから子供と特に怪我が重い人を優先した。これは皆が賛成してくれたから助かったよ。
それに談話室なんかのソファーもフルに活用して、私達の部屋も解放した。
これで何とか全員の寝床を確保できた。格納庫には充分な空調機能は無いからね。
私?フェルと一緒にブリッジで過ごしたよ。
「流石に眠くなってきたねぇ……」
「ですねぇ……休みますか?」
「んー、寝たら凍えちゃうよ」
お布団の類いも全部提供したからなぁ。この服のお陰で寒さは感じないけど、精神的には寒さを感じる不思議。
「これ、なんでしょう?」
フェルが抱えてるのは……えっ!?保温シーツ!?
「実は1つ余ったらしくて……一緒に使いませんか?」
気を使わせちゃったかな……ここは好意に甘えよう。
私達二人はブリッジの隅で壁偽を預けて座り、寄り添ってシーツにくるまった。
「暖かいね、フェル」
ついでにフェルの体も柔らかい。リーフ人は体温高めだから、なんだか安心する。
……短い付き合いだったけど、ついさっきの出来事が思い出されていく。テルスさん達パイロットの皆。もう助からないからと、自ら盾になった人達。皆、助けたかったな……。
そう思うと、自然と涙が流れてきた。駄目だなぁ、転生してから泣いてばっかりだ。
落ち込みながら泣いてると、柔らかくて暖かいなにかが私を包み込んだ。隣で座ってるフェルに抱きしめられたみたい。
「フェル……?」
フェルはニッコリ笑顔でなにも言わずに抱きしめてくれた。優しいなぁ……フェルの溢れる母性はなんなんだろう?フェルだって辛い想いをしたのに……どうしてこんなに優しく出来るのかなぁ……。
フェルの優しさに包まれて私は涙を流し続けた。情けなさ、不甲斐なさも全部包み込む優しさに甘えながら……うん、頑張ろう。テルスさん達の犠牲を無駄にしないためにも…。