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「ディルクを尋問したいところだけど。リリーが先だね」
床に転がるリリーに歩みより、ルシアンが口を塞ぐテープを剥がした。
「ぷはぁ、ルシアン様、助けてください。イソトマ様とディルク様が僕を人買いに売ろうとしていたんです」
リリーが涙目でルシアンに身を寄せる。
ルシアンが、軽く息を吐いた。
「さすがに今更、その言い訳は苦しいよ、リリー。君がレイヴン商団の一員である証拠は掴んでいる」
リリーの顔色が蒼褪めた。
「残念ながら商団の他の団員は逃げたようだ。このテントには、リリーしか残っていないよ。団長に逃げられたのは、残念だよ。君は足枷にすらならなかったようだね」
「そんっ……な」
リリーの表情に落胆が降りた。
いよいよ、逃げられない状況だ。
「学園で私に擦り寄ってきた君を拒まなかったのは、寄ってきた目的を知るためだ。危険な君をイソトマに近付かせたくなかったというのも、理由の一つだよ」
ルシアンの淡々とした説明に、リリーが俯いた。
その声は、イソトマにも刺さった。
(だから、一緒にいたんだ。絆も信頼もない。お互いに、打算だ)
リリーは王妃の座を得るためにルシアンとの婚約を望んだ。
ルシアンはリリーの素性を調べたかった。
それだけだ。
ルシリリは二次元だけ。そう割り切ったつもりでも、目の前に現実を突きつけられると、辛い。
目が潤みそうになるのを、必死に耐えた。
「私に寄ってきた理由を、教えてもらおうかな。そうまでして、王妃になりたかったか?」
普段のルシアンからは想像もできないような冷たい声だ。
イソトマの心が凍える。
リリーが、ぎりっと歯軋りした。
「孤児院……」
リリーの呟きに、ルシアンの眉がピクリと動いた。
「孤児院のガキは、いまだに売られるし、すぐに死ぬんだよ。王様にでもならないと変えられないだろ」
リリーの言葉に、イソトマは息を飲んだ。
そんな話、これまで一言もしていなかった。
(ゲームでもリリーは孤児院の出身だけど。ストーリーに絡むような設定じゃなかった)
けれど、何よりのリリーの本音なんだと思った。
リリーの目も、声も、態度も、全部がイソトマの知っているリリーだったからだ。
『これ花』の主人公のリリーが、そこにいた。
「アンタは、変えるって言った。どうせ覚えていないだろうけど、俺は覚えていたから。だから会いに行ったんだ」
ルシアンが、ふっと息を吐いた。
リリーが眉を顰めた。
「十年前、かな。僕が未来を変えるから、見ていて欲しい。そう、話したね。あの時、温室育ちの王子の言葉を目を輝かせて聞いてくれた子が、一人いた。あの子は、君だったか」
リリーが目を見開いた。
「アンタ、覚えて……」
「色仕掛けで近付かれるより、最初からその話をしてくれたほうが、よっぽど良かったよ」
リリーが、強く唇を噛んだ。そのまま、そっぽを向いた。
「俺は最初から王妃狙いの打算だったんだ。それに、アンタが覚えてたら身バレする。言えるわけないだろ」
そっぽを向いたリリーの目の端が、光った。
目が潤んでいるように見えた。
「あと、ほんの少しでいいから、違う出会い方……いや、再会をしたかったね」
リリーの目から、透明な雫が零れた。
ルシアンが眉を下げて微笑んだ。
そんな二人を見詰めて、イソトマの胸が熱くなった。
(僕には見える。二人の間にしかない絆が、見える……!)
リリーの性格も、ルシアンとの関係性も、公式とは違うけれど。
出会い方を間違っていなければ、きっとあの展開になっていたはずだ。
これからだって、リリーはルシアンルートを歩ける。
そう思える片鱗を見た。
(あぁ……やっぱり、あった。二人の間には、ちゃんと信頼と絆があったんだ)
そう実感して、イソトマは号泣した。
「どうしたんだ、イソトマ。傷が痛むのか?」
隣でディルクが慌てている。
「てぇてぇ……尊いよ、ルシリリは尊いんだ」
「……そうか、良かったな。体の痛みは、ないんだな?」
「心が痛いけど、温かいよ」
ルシアンとリリーの新たな絆の可能性に、胸が締まって苦しいし、熱い。
「いつものイソトマか」
ディルクが安心したように息を吐いた。
ルシアンが、転がるリリーの前に屈んだ。
「リリーは捕縛なんだけど、私の計画に付き合ってくれるなら、減刑を考えてもいいと思っているんだ」
感動的な話をした後で、ルシアンも大概現実に引き戻す人だと思う。
「どうせ拒否権、ないだろ。好きに使ってくれて構わねぇよ」
吐き捨てるように言って、リリーが開き直った。
「そうかい、ありがとう。それじゃぁ、リリーはこれまで通り学園に通って、私の傍にいるようにね。恋人ごっこ継続だ。勿論、元のキャラでね」
ルシアンがニコリと笑む。
リリーが訝しむ顔を上げた。
「は? 同情か? そういうのは要らねぇんだけど」
「違うよ、計画さ」
ルシアンが、イソトマとディルクを振り返った。
「二人にも協力してもらうよ。大捕物だからね」
ルシアンの笑顔は不穏だったけど、迫力があり過ぎた。
イソトマとディルクは、首を縦にしか振れなかった。
コメント
1件
うわぁ…第24話、めっちゃ良かったです😭💕 リリーとルシアンの真実の関係が明かされるシーン、胸が熱くなりました…!孤児院の話とか、ルシアンが覚えてた再会の話とか、もう「てぇてぇ」以外の言葉が出てこない…!イソトマと一緒に号泣しそうになりました✨ ルシアンが計画にリリーを巻き込む流れも、不穏だけど続きが気になりすぎます!次回も楽しみにしてますね〜🌸