テラーノベル
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世界を外界の脅威から守護する、巨大な魔導結界――その最果ての縁。
そこは、世界の法が支配する「神秘の静寂」と、荒れ狂う原生精霊たちが蠢く「昏き闇」が背中合わせに隣り合う、危うい境界線だった。
「……周囲、魔力濃度の変動、なし。異常、認められず」
ウィザード見習いの少年ノアは、自身の背丈よりも遥かに大きな魔導杖を愛おしそうに抱え、淡い燐光を放つ巡察街道を歩いていた。冷涼な夜風が、彼の癖のある髪を優しく揺らす。いつも通りの、退屈で、それゆえに平和な夜になるはずだった。
だが、その静寂は、天の頂から文字通り「引き裂かれる」。
――轟ッ!
突如、夜空の帳を割って、一筋の狂おしい雷光が降り注いだ。
結界の防護網、その僅かな綻びを縫うようにして落ちてきた「それ」は、轟音と共に白銀の砂地に激突する。
爆煙の向こう側、ノアが目にしたのは――いかなる文献にも記されていない、異形の姿だった。
美しくも冷徹な輝きを放つ、銀色の……。
それは、魔法で形作られたものではない、見たこともない未知の素材でできた、強靭な翼のようだった。
それが、一人の少女の背から生えていたのだ。
「……だれ、ですか……?」
怯えを押し殺し、ノアが声をかける。
菜の花を思わせる鮮やかな金髪を砂に散らし、満身創痍の少女が、うっすらと鉛色の瞳を開いた。
折れ曲がった銀色の翼の隙間から、「チリ、チリ」と不吉な音を立てて、青白い、これまで見たこともない種類の電弧が漏れ出している。それは彼女の生命力を内側から削り取っている灯火のようだった。
「もう……いいの……。空から、堕ちた時点で……わたしは、廃棄……」
「ダメです! そんなこと、絶対にダメです!」
絶望に濡れた少女の細い手を、ノアは衝動的に、しかし強く握り締めた。
息を切らし、肺を灼きながら、ノアは必死の思いで少女を背負って走り続けた。
目指すは、彼が師と仰ぐ大魔女アステリアの工房。古びた堅木の扉を、文字通り体当たりで弾き飛ばすようにして彼は転がり込んだ。
「師匠! アステリア師匠、おねがいします……!」
静謐な工房の奥に佇んでいた女性が、ゆっくりと振り返る。
その瞳は、年若き弟子が背負ってきた「異物」――冷たい金属の翼を、一瞥しただけでこの世界の物ではないと見抜いていた。
「……機械、ですか。ただの迷い子ではなさそうですね」
アステリアの声は、酷なほどに冷静だった。
悠久の時を生き、世界の理を知り尽くす彼女にとって、天から人が降ってくるなど、長い歴史のほんの一幕、「時々あること」に過ぎない。しかし、ノアにとっては違った。目の前で消えかけようとしている命は、世界の理を揺るがす、決して見過ごせない異常事態だった。
「師匠、彼女を……彼女の傷を治してください!」
嘆願する弟子を見つめ、大魔女は静かに首を振った。
「これは怪我ではありません、ノア。故障というのです。」
アステリアの薄い唇から漏れた不穏な単語に、ノアは喉を詰まらせた。
「故障……? ですか?」
「ええ。壊れているのでしょう」
ノアは首をかしげた。人が壊れる?
アステリアは、彼の不思議そうな表情を一瞥するとふたたび少女を見た。
「彼女の壊れた機械の核に、私の魔力を直接流し込み、この世界の法則に従う『魔導回路』へと強引に作り替える。……成功の保証はありません。失敗すれば、彼女の魂は形を保てず、文字通り泡となって消えるでしょう」
残酷な選択肢。
もし自分がここで頷けば、彼女を殺してしまうかもしれない。だが、逃げるわけにはいかなかった。消え入りそうな彼女が求めたあの切ない温もりを、少年は今も右の掌に覚えていたから。
「師匠。……僕に、僕にも手伝わせてください。彼女を、この世界に繋ぎ止めたいんです」
少年の、一点の曇りもない真っ直ぐな瞳。
それを受け止めたアステリアは、ふっと微かに、慈愛とも不敵とも取れる笑みを浮かべて口角を上げた。
「……よろしい。位置につきなさい、ノア。一瞬たりとも、集中を切らすことは許しませんよ」
それは、世界の境界が溶け合い、新たな時代が産声を上げる――ほんの始まりに過ぎなかった。
コメント
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ノアくんの「絶対ダメです!」って叫びにまず胸が熱くなったよ〜!😭💕 自分の命がけで、初めて会った見知らぬ少女の手を離さない優しさが眩しすぎる……! しかもアステリア師匠の冷静な「故障」発言も、世界観が一気に広がってすごく引き込まれた。この出会いがどう転んでいくのか、続きが待ちきれないよ! さこ吉さんの世界設定、細やかでマジでエモい……!!🌸✨