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「さて、2人相手に、偏屈魔王はどう対処するのでしょうね?」
2人のサラフェは同時にムツキの方へと走り出す。同じ歩幅、同じ呼吸、同じ刀の振り方。完全にコピーといえる2人が双子なのか何なのか、ムツキには分かりかねていた。
ムツキでもまだ分身魔法は発明できていない。彼はそれが発明できていれば、自分の分身を作って自分の世話ができるかどうかを試してみたいと思っていた。
「中々の速さだな。でも、ダメだな」
サラフェたちの攻撃はムツキに掠ることなく、虚空を切り裂く。彼の近距離攻撃無効によって、すべての近距離攻撃はその威力や精度を問わず、外れてしまう運命にある。
「そんなバカな!」
「ありえないです!」
サラフェたちは次々とそれぞれがシンクロするかのように綺麗な攻撃を繰り出すが、いずれもムツキの服すら掠めることがない。切れる軌道のはずが、何故か、自分からその軌道をずらしているような気にさえ陥ってしまう。彼は1歩どころか指1つさえ動かしていないのだ。彼女たちは気が狂いそうになる。
「何で当たらないのですか!」
「躱されているわけでもないのに!」
「諦めるんだ」
ムツキは小さな子を戒めるかのような低い声でそう告げる。彼が彼女たちを掴もうとしたとき、咄嗟に彼女たちは後ろへ下がる。
「ちっ……面倒くさい」
「魔法も反射するし。反射……これなら」
サラフェの1人が気付くと、2人目にも以心伝心したかのように、2人の動きがピタリと合う。
「【ウォーターフォール】」
「【ウォーターフォール】」
サラフェたちがそう唱えると、ムツキの上から大量の水が襲い掛かる。
「あー、真上からか、確かにただの方向反射なら重力もあって、いずれは俺に当たるかもしれないな。まあ、方向反射ならな」
【ウォーターフォール】の水流は鋭さを増して、サラフェたちに襲い掛かる。
「軌道が変わった!? 【プロテクション】」
「【プロテクション】」
「俺のは……詠唱者反射だ」
「ぐうっ!」
「うぐぐぐぐっ!」
渦巻く水流がサラフェたちを押し潰そうとする。彼女たちは咄嗟に唱えた【プロテクション】で水圧の影響を軽減させることに成功した。しかし、魔法が全く効かないことへの精神的ダメージの方が大きいようだ。
「はぁ……はぁ……倒せるとか倒せないとかの次元ではないですね」
「まったく……割に合わない仕事ですね……」
サラフェたちは悪態をつくが、その力はとても弱々しい。
「分かったろ? 少なくとも、俺を攻撃することは難しいぞ。大人しく降参してくれ。悪いようにはしない。何なら2人とも俺の妻として迎えよう。みんなと仲良くしてくれれば、さっき言ったように、三食昼寝付きで家事手伝いなしだぞ?」
ムツキは再度提案する。ユウが決めた妻候補であるため、妻になる可能性は非常に高い。彼が断わればいいだけの話ではあるが、彼にとって良いことがある前提で彼女はサラフェを選んでいる。
つまり、良縁で強制力のある運命であるのならば、無理やりと感じさせるよりもお互いの合意の下になるよう努力をした方がよいと彼は考えている。
「……魅力的ではあるんですよね」
「そうですね……。ここにおいては、その選択が最も合理的かもしれませんね。上になれないのは残念ですけども」
「それに、モフモフし放題だぞ! 今なら、最近生まれたばかりのふわふわの妖精たちが、それはそれは愛くるしい姿で向かってきてくれるんだ。それはもう」
ムツキはもう一押しだと思い、最大限のアピールを始める。つまり、モフモフである。モフモフに囲まれる幸せを1時間ほどかけて説明しようと考えていた。
「いえ、それはいらないです。ところで、何番目の奥さんになるのですか」
「い、いらないだと……モフモフがいらない……っ……」
ムツキは言葉に詰まった。
「……何番目になるのですか」
「あ、っと、えーっと、4番目だ。さっきの獣人や半獣人のコイハやメイリよりも先で4番目だ。遅ければ、6番目とかだな」
ムツキがそう説明すると、サラフェたちは深い溜め息を吐いた。
「ダメですね。せめて1番目じゃないと」
「そうですね。せめてナジュミネよりも上じゃないと」
ムツキは笑顔が強張っていく。青筋を立てそうになるほどだが、笑顔は崩さないように必死だからである。
「……そういうワガママを言える立場だと思っているのか? 打ち負かして、奴隷にしてやってもいいんだぞ?」
「奴隷は困りますが、今の段階では、譲れるものと譲れないものがあるのです」
「仕方ない。面倒ですが、本気を出しますよ。キルバギリー! 合体です!」
忍び装束のような全身を布で覆っている方のサラフェがそう叫ぶ。
「え? が、合体?」
ムツキは何が起きるのか、まったく理解できなかった。