貴族のような服装をしていたサラフェの方が急に別人になる。髪は灰色のポニーテイルに、瞳も同じように灰色へと変わっていく。先ほどまで完全に人肌だった表面は少し光沢のある薄い虹色の金属へと変わって、顔やプロポーションは完全に別人となった。
「…………」
ムツキは開いた口が塞がらない。電動も蒸気機関もないような、およそ機械と無縁なこの異世界に突如現れたオーバーテクノロジーに唖然とする。出てくる世界を間違えていないかと、自身は白昼夢を見ているのではないかと思い込むくらいに衝撃的だった。
「キルバギリーは偽装モードから外装モードへと移行します」
「キルバギリーを私の双子か何かと思ったのですか? 彼女はサラフェの真似をしていただけに過ぎません。本来は相性の良い人族と合体して真価を発揮する人造兵器ですよ」
一方のサラフェは当たり前のような表情で淡々と説明する。その間にもサラフェであったキルバギリーという人造兵器はさらに姿形を変えて、バラバラに分離したかと思えば、サラフェの頭や胴体、関節部分を鎧のように覆う。その際に、サラフェが着ていた忍び装束のような黒無地の服装から、青系のフリルワンピースにスパッツという出で立ちになったかと思えば、鎧から6枚の金属の翼が生え始める。
サラフェが上空へと飛び上がる。彼女はムツキを見下ろしつつ、彼の表情をまじまじと眺めていた。
「…………」
ムツキはいまだに開いた口が塞がらない。
「あまりにも驚きすぎて声も出ないようですね」
「いや、いやいやいや、急にメカとかロボとかって世界観が違い過ぎるだろ……。俺でもついていけないぞ。だいたい服装も変わっているじゃないか」
ムツキがようやく言葉を口にすると、前世のアニメや漫画で見たようなサラフェの姿に思わずツッコミを入れていた。サラフェはその言葉に首を傾げている。
「メカ? ロボ? キルバギリーは、人族の始祖の1人であるレブテメスプ様が造りし最強兵器ですよ。今でも人族はこの技術の高みに上り詰められておらず、まだまだ失われたままの技術の粋を集めた人類の英知の結晶そのものです。服装はこの鎧に適した装備のようです。少し可愛らしすぎるのが欠点ですね」
ダウナー気味の性格をした褐色肌に青髪ツインテール、服装がフリルワンピースとスパッツ、その上にゴテゴテとした金属の軽装鎧と6枚の翼。あらゆる要素を組み合わせて詰め込み過ぎたものがここに完成した。
「ちなみに、動力源は?」
「動力源?」
「動力源と言う言葉をご存知ですか。動力源はサラフェの魔力です。サラフェ、もしかしたら、偏屈魔王は失われた技術に詳しいのかもしれません」
ムツキが咄嗟に知っている単語を口にすると、サラフェは再び首を傾げるが、どこからともなく、サラフェと同じ声のままのキルバギリーが少し驚いたような声色で回答する。
サラフェはムツキが人族の中でも極秘中の極秘情報を知っていることに驚きを隠せない。
「……偏屈魔王、侮りがたしですね。しかし、知っているのであれば、キルバギリーのようなものを作れるかもしれません。やはり、仲間にしておくのは得策かもしれませんね」
「いえ、知っているとしても、具体的な中身までは難しいでしょう。それはレブテメスプ様のみが知る最重要機密情報であり、私すら分かりませんから」
サラフェの考えにキルバギリーが異を唱える。
「ロボ系少女? それとも、魔法少女か? いずれにしても……俺はあんまり詳しくないんだよな……」
「ほら、あまり詳しくないようです」
「何か違う単語だった気もしますけど……仕方ありません」
サラフェは翼を広げ、どこからか取り出したステッキのような棒状の何かをムツキに向ける。
「さあ、この神々しい姿に恐れをなして、大人しくひれ伏すがいい」
「ある意味、世界観が壊れそうな恐怖は覚えているが……」
ムツキは昔に滅んだ古代の超文明などがないかを後でユウに聞くことにした。
「さすが、偏屈魔王。この姿でも平然としていますね。では、実力でねじ伏せてあげましょう!」
「さて、どうしたものかな……」
ムツキはあまりの超展開にねじ伏せるタイミングを完全に逸してしまい、改めてタイミングを窺うことにした。
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