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「ただいま」
俺が玄関の音を鳴らした瞬間、トタトタと足音を立ててこちらにやってくる。
「…おかえり」
嬉しそうだけど、どこか虚ろな目で俺を迎えてくれる。
髪の毛には寝癖。
今はもう18時だっていうのに寝ていたらしい。
そういえば最近、様子がおかしかった。
俺が話しかけても無反応だったり、ぼーっとしていたり。
腕を見ると、赤黒い線や腫れ上がり汚い瘡蓋まみれだった。
「…またやったの?」
責める訳でも怒ってる訳でもない。
聞いただけ。
「わかんない」
そう答える彼女の目は、本当に何を考えているのか分からなかった。
きっと自分でも何が何だか分からないのだろう。
「はい、これ」
俺は、紙袋を差し出した。
白の紙に黒色でブランドの文字。
彼女は少し驚きながらも受け取る。
「…どうしたの、これ」
戸惑いながら紙袋を持つ彼女。
今日は記念日でもなんでもない。
普通の平日。
「気に入ると思って」
そう言って紙袋を開けるような仕草をしてみせた。
彼女はそれを見て紙袋を開ける。
入っていたのはアームカバー。
白のニット生地に、桃色のリボンがちょこんと付いたデザイン。
袖元にはフリル。
彼女は驚きながらも、少し笑った。
「こんなに可愛いの、貰っていいの?」
そんな馬鹿なことを言うから、彼女の手からアームカバーを取り、付けてあげることにした。
白い肌。
細い二の腕。
こんなに綺麗なのに、左腕だけ傷まみれ。
白く浮き上がった古傷。
赤黒い生傷。
皮膚が紫になっている傷も。
中には切り開かれ、瘡蓋になっているものまである。
そんな腕を隠すようにアームカバーを通してあげる。
アームカバーを身に付けた彼女は、洗面台に行き、鏡で確認しだした。
久しぶりに笑っている顔を見た気がする。
「…かわいい、ありがとう」
鏡から目を逸らし、俺の胸に飛び込んでくる。
本当に可愛い。
俺は彼女の頭を撫でて、暫く離れなかった。