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【長編小説/アオトナツより】




「元貴ー!」


放課後、夕焼けの濃いオレンジ色に染まる廊下を一人で歩いていたら、後ろから聞き覚えのある声にぼくの名前を呼ばれた。




「若井?」


振り返ると、サッカーの練習着を着ていて、さっきまでグランドを駆け回っていたはずの若井が、息を切らして立っていた。

額や首筋に滲む汗がオレンジの光に照らされてキラキラと輝いている。


振り返ったぼくを見て、ニッと笑う若井。

ぼくもつられて笑い返したけど、どうして若井がここに居るのか分からなくて、小さく首を傾げた。




「どうしたの?部活は?」


ぼくが不思議そうにそう尋ねると、息を整えた若井がゆっくりぼくの方に歩み寄ってきた。




「休憩中。音楽室から元貴が居なくなったのが見えたから、会いたくて走ってきた!」


そう言って『へへっ』と照れたように笑うと、ぼくの前でぴたっと止まった。




「そんな、寮に帰ったら会えるのに。」


あと1時間もすれば、若井の部活も終わるし、そうしたら帰る場所は一緒。

…なのに、わざわざ休憩中に走ってきて、『会いたくて』と言った若井に、ぼくは笑ってしまった。

でも、それは嬉しくて、少し恥ずかしくなってしまったぼくの照れ隠し。




「うん。でも、いま会いたいって思ったから。」


素直じゃないぼくに掛けられる若井の真っ直ぐな気持ちが胸の奥をくすぐる。

熱を帯びた頬を隠すようにうつむくと、若井の足元が目に入った。

……上履きがない。靴下のままだ。

上履きを履く時間すら惜しむくらい、急いで来てくれたのかと思うと、堪らなく愛しくなった。




「元貴。」


そっと名前を呼ばれて、ぼくは顔を上げる。



ーーちゅっ



若井の唇がぼくの唇に軽く触れた。




「あはっ。元貴、顔まっ…」

「やだっ、見ないでっ。」


きっとぼくの顔は二人を照らす夕陽よりも濃く色付いていて、そんな顔を見られるのが恥ずかしかったぼくは、若井にぎゅっと抱き着いた。




「ちょ、元貴っ。おれ、今、めちゃくちゃ汗くさいから…!」


そう言って、慌てた様子で自分から離そうとぼくの肩に手をやるけど、ぼくはさらにぎゅっと腕に力を込めた。

確かに、練習着は汗で湿っているけれど、ふわりと香るその匂いは、不思議と落ち着く匂いで…




「ぼく、若井の匂い好きだよ?」


顔を少し上げてそう言うと、若井は耳まで真っ赤になった。

慌てて片手で口を覆い、ぼくから視線を逸らす。




「あ…おれ、まだ練習あるから…! 」


逃げるように背を向けた若井の背中を、ぼくは思わず呼び止めた。




「…寮で待ってるね?」


振り返った若井の顔は、汗のせいか、それとも――さっきのせいか。

夕陽に溶けそうなほど熱を帯びていた。




「うん、待ってて!」


そう言うと、もう一度だけニッと笑い、若井はグラウンドへと駆け戻っていった。


取り残された廊下に、ぼくの胸の鼓動だけが、しばらく響いていた…











-fin-

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コメント

2

ユーザー

アオトナツだ!!!!! この二人の距離感が尊すぎる… お互いに顔を赤くしてて可愛い🤭

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