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第100話 〚誰も知らない、高嶺の花の裏側〛
朝の校舎は、
いつもと変わらない音に包まれていた。
チャイム。
足音。
笑い声。
誰も知らない。
――ここまで来るまでに、
どれだけの「選択」があったのかを。
◆
白雪澪は、
自分の席に座り、
静かに本を開く。
ページをめくる指は、
もう震えていなかった。
(……大丈夫)
胸に手を当てる。
心臓は、
静かに、確かに動いている。
◆
「おはよ」
隣から、
少し低めの声。
顔を上げると、
橘海翔が立っていた。
「おはよう」
澪は、
自然に笑って返す。
それだけで、
教室の空気が少し柔らぐ。
◆
二人の距離は、
特別近いわけじゃない。
でも、
離れてもいない。
それが、
ちょうどよかった。
◆
(昔の私なら)
澪は思う。
妄想(予知)に怯えて、
正解を探して、
人の視線に縛られていた。
「高嶺の花」という言葉に、
守られているふりをして。
◆
でも今は。
未来を当てることより、
誰かと並んで立つことを選んだ。
守られる側でも、
逃げる側でもなく。
選ぶ側として。
◆
教室の後ろ。
誰かの視線が、
一瞬だけ、こちらを掠める。
澪は、
気づいていた。
でも、
振り向かない。
もう、
過去に引き戻されない。
◆
放課後。
夕陽が校舎を染める。
屋上へ向かう階段で、
海翔が言った。
「澪」
「なに?」
「これからもさ」
「色々あると思う」
澪は、
小さく頷く。
「うん」
◆
「でも」
海翔は続けた。
「選ぶ時は、一緒に選ぼ」
澪は、
少しだけ目を見開いて、
それから笑った。
「……うん」
その瞬間。
胸が、
とくん、と鳴る。
でも、
痛くない。
◆
澪は知っている。
この力は、
終わっていない。
むしろ――
変わった。
未来は、
もう一つじゃない。
想像(妄想)で、
変えられる未来がある。
まだ、
見えない影もある。
◆
(でも)
澪は思う。
怖くても、
迷っても。
私は、
もう一人じゃない。
◆
夕焼けの中、
二人は並んで空を見上げた。
誰も知らない。
この“高嶺の花”が、
どれほどの選択を重ねて、
ここに立っているのかを。
そして――
誰も知らないまま、
新しい物語が始まろうとしていることを。
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『誰も知らない、高嶺の花の裏側2』お楽しみに!