地球全土がミサイル破壊事件で大騒ぎになっている頃、ここ統合宇宙開発局でも別の騒動が起きようとしていた。
それは事件発生から三日後の正午、場所は合衆国にある統合宇宙開発局の本部ビル解析室で起きた。ここは世界中の観測基地から得られた膨大なデータが集積され、専用のスーパーコンピューターと宇宙に関するあらゆる分野の科学者達が日夜解析を行っている場所。まさに宇宙に関わる研究の最前線と言える花形部門であるのだが、今が旬と言えるアードとの交流は異星人対策室が権限の大半を握っており、そんな現状を面白く思わぬ者も少なからず在籍している。
異星人対策室のジョン=ケラー室長を始め、大半の職員が元統合宇宙開発局の出身であることもあって嫉妬心や対抗心が強く、異星人対策室と統合宇宙開発局の関係は決して良好とは言えなかった。
そんなある日、解析室に回された観測データのひとつを確認していた若手の職員がある事に気付く。
「教授、これは何だと思います?」
「ん?見せてみなさい」
声をかけられた初老の学者が近寄り、一緒に観測データが映し出されたディスプレイを眺める。
「この大きさは……小惑星か?いや違う、それにしては動きが速い……まさか、彗星か?」
「彗星ですか?直近で観測可能な彗星は太陽系内に存在しない筈ですが」
「いや、間違いない。これはこれまで観測出来なかった全く新しい彗星だ。大発見だぞ!」
観測データに紛れていたものは、太陽系外から飛来する未知の彗星であった。ハレー彗星を始めとして、これまで観測された有名な彗星は多数存在する中で新たな彗星が観測されたのである。
これまで不遇を強いられていた統合宇宙開発局は歓喜し、直ぐ様この新たな彗星の調査を開始。
三日後複数の観測基地及び宇宙望遠鏡、更に月面基地から観測データを集めて解析を行い未知の彗星であることが正式に認められた。
そして異星人との交流による本格的な宇宙進出が期待されている世情を踏まえて、この彗星は“フロンティア彗星”と名付けられ更なる解析が進められることになる。
だが、喜びも束の間であった。そのコースの詳細を解析していたチームから出された報告は恐ろしいものであった。
「このままでは地球に直撃だと!?そんな馬鹿な!」
「何度シミュレーションしても結果は同じだ!極めて高い確率で地球へ直撃する!」
「その場合を被害は!?小規模か!?」
「フロンティア彗星の直径は凡そ二十キロです!」
「なん、だと!?」
一般的に一キロの隕石が落下した衝撃は、地球上の核兵器の爆発を合算したものよりも大きいとされている。二十キロとなればその破壊力は言わずもがな。
ちなみに恐竜を絶滅に追い込んだ隕石の大きさが十キロ程度である。
この観測結果を得た統合宇宙開発局は大騒ぎになった。そして直ぐ様ホワイトハウスを含め各国首脳部へと極秘裏に報告されることになる。
「ミサイル騒動で手一杯だと言うのに、今度は隕石だと?勘弁してほしいな……」
ホワイトハウスの会議室で報告を受けたハリソン大統領は頭を抱えた。某国の暴発に伴う諸問題への対応を協議している最中であり、同席している他の政府首脳陣、高級官僚、高級軍人、知識人、科学者、スキンヘッドマッチョ達も一様に頭を抱える。
地球内部のゴタゴタの真っ最中にまさかの隕石飛来である。頭を抱えるハリソンを他所に他の参加者が議論を始める。
「それで、対処は?」
「残念ですが、手段がありません」
「核兵器があるじゃないか?」
「将軍」
「相手は直径二十キロの岩石の塊です。とても不可能ですし、そもそも射程が足りません」
「あれはどうかな?ほら、数十年前に大ヒットしたハリウッド映画があるだろう?確か穴を掘って核爆発させる奴だ。あの方法は?」
「あの名作ですな?あれは私も大好きです。結論から申し上げれば不可能です。人員資材装備などの問題以前に、このフロンティア彗星は速すぎるのです。これまで観測された彗星より遥かに高速で、追従するどころか着陸するなど不可能です。何より時間がない」
「衝突までの猶予は?」
「長くて十日です」
「「「なんだと!?」」」
あまりの短さに皆が仰天する。
「そんな危険なものをこれまで発見できなかったのか!?統合宇宙開発局の怠慢では無いかね!?」
「お言葉ですが、宇宙は広大なのです。全てを監視するなど不可能です。地球全土に観測基地を設置していただけるならば精度の向上を確約できますが」
「本当に打つ手は無いのかね?」
「残念ながら、ありません。足の速さが全ての選択肢を排除してしまいました。時間がないのです」
絶望感が漂う中、これまで静観していたスキンヘッドマッチョが静かに口を開く。
「大統領、こうなっては仕方がありません。ティナに要請しましょう。アードには手段があるでしょう」
「やれやれ、ティナ嬢に助けられるのは何度目だ?しかも今回は人類滅亡の危機を回避する。途方もない借りだよ」
「ティナならば快く引き受けてくれると思いますが」
「ああ、もちろんそれは疑っていないよ。彼女なら気持ちよく快諾してくれるだろう。これは面子の問題だよ」
「地球の危機なのです、背に腹は変えられません。私が対価の交渉を請け負います」
「頼めるか?ケラー室長」
「お任せを」
斯くして合衆国は、隕石についての対処をティナ達に要請することを決定。
直ちにジョン=ケラーから直接日本に滞在しているティナに連絡が届いた。
「フェル!プラネット号まで転移をお願い!」
「分かりました!」
「地球を滅ぼさせたりはしない!ばっちゃん!カレン!行くよ!」
要請を受けたティナは直ぐに行動を開始。問題解決のため走り始める。
余談だが、合衆国政府を中心に今後交流が順調に進んだ際に、惑星アードへ使節団を派遣することが水面下で話し合われていた。その前段階として、プラネット号への乗船をティナに依頼することも含まれていた。
人類史上初となる異星人の宇宙船への乗船。その栄誉は計り知れないものがあり、各国の思惑も絡まりながらも密かに調整が進められていた。
が、今回慌てていたティナがカレンをうっかり乗船させたことでカレンが人類史上初となる栄誉を獲得。必死に調整し、ティナへお願いする時期を伺っていたジョン=ケラーの胃に特大のダメージを与えることになるが、いつものことである。
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