テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
チルノ「あたい最強! ひゃっほーい! ほらほら、冬のあたいはいつもより3倍強いんだからな! そこの蛙もカチコチだぞ!」
パキパキと音を立てて、目の前の蛙が綺麗な氷漬けになる。チルノは氷の翼をパタパタと輝かせ、腰に手を当てて高笑いを決めた。……しかし、自分の季節だからと調子に乗って妖気を放出しすぎたせいで、自身の指先が真っ白に冷え切ってしまっている。
チルノ「うう……っ、ちょっと……やりすぎたぞ……」
誰も見ていないことを確認するように、チルノはキョロキョロと左右を見回す。誰もいない。さっきまでの「最強」のトゲをすっかり引っ込め、チルノは冷たくなった小さな両手を口元に当てた。
チルノ「ふー……ふー……。あいたたた、氷の妖精なのに冷たいなぁ……」
小さくなって手を温めるその姿は、世界の脅威でも何でもない、ただの無邪気な子供そのものだった。その時、雪の積もった草むらがガサゴソと揺れる。
大妖精「チルノちゃーん! おやつ持ってきたよー!」
チルノ「ーーっ!?」
その声を聞いた瞬間、チルノの顔が跳ね上がった。さっきまで「うう、冷たい」と縮こまっていた身体が、大ちゃんの姿を捉えた瞬間にフニャッ……と完全に溶けて弛緩する。けれど、すぐに「最強のあたい」を思い出して、精一杯のドヤ顔を作って見せた。
チルノ「お、遅いぞ大ちゃん! あたいを待たせるなんて100年早いんだからな!」
大妖精「ふふ、ごめんね。はいはい、お待たせ。はい、温かいお茶だよ」
大ちゃんにとって、その強がりは100万回は見た見慣れた景色。怒るどころか、その瞳には120%の慈愛が満ちていた。まるで我が子を見守る母親か、あるいは聖母のような優しい笑顔で、チルノの前にお茶を差し出す。
チルノ「待ってましたー! いただきまーす!」
はふはふと息を吹きかけながら、温かいお茶を美味しそうにすするチルノ。冷え切っていた手も、湯気とお椀の温もりでじんわりと赤みを帯びていく。
チルノ「ぷはーっ! やっぱり大ちゃんの持ってくるお茶は世界一美味いな!」
大妖精「……っ」
その弾けるような笑顔を見た瞬間。大ちゃんの胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。大ちゃんは一瞬だけ、本当に一瞬だけ、切なそうに、けれど狂おしいほどの愛おしさを込めて目を細める。チルノの鮮やかな青い髪に、触れるか触れないかのような繊細さで手を伸ばし、ただじっと彼女を見つめた。
ーー私たちは、妖精だ
大ちゃんは知っている。冬が過ぎて春が来れば、チルノは別の遊びに夢中になって、今日のこのお茶の暖かさも、大ちゃんのことも忘れてしまうかもしれない。あるいは明日、自分が突然の強風や気まぐれな異変の余波で消滅して、次に新しく生まれ変わった時には、目の前のチルノの名前すら覚えていないかもしれない。妖精という存在は、雪のように儚く、不確実で、軽い。だからこそ。今、この白い冬の中で、自分の名前を呼んで。自分の淹れたお茶を「世界一」だと笑ってくれている、この1分1秒のきらめき。それだけが、大ちゃんにとっての「永遠」そのものだった。チルノは大ちゃんのそんな深い、深い思考なんてこれっぽっちも気づいていない。お茶を飲み終えてエネルギーが満タンになったチルノは、大ちゃんの手をギュッと力強く握りしめた。
チルノ「なー大ちゃん! 次はあたいがどれだけ凄い氷の剣を作れるか、特等席で見せてあげるからな! こっち来て!」
大妖精「ーーうん……!」
チルノの小さくて、頼もしいほど力強い手に引かれながら、大ちゃんはさっきの切ない表情を完全に消し去った。そこにあるのは、世界で一番幸せな女の子の笑顔。
大妖精「ずっと見てるよ、チルノちゃん!」
無自覚に大ちゃんを照らす圧倒的な光であるチルノ。そして、すべてを自覚しながらも彼女の影となり、暖かく支え続ける大ちゃん。二人の小さな足跡が、真っ白な霧の湖の畔に、確かに刻まれていった。
ゆめいろ☆@画力くれYo
11,952
119
レモンスカッシュ2号
1,063
東方好き
39
コメント
1件
(∩´∀`∩)ワーイ! Nekomiruさんの新作読んだよ〜!! チルノと大ちゃんの関係性が尊すぎて鼻血出そうになったんだけど!?「あたい最強!」ってドヤってるのに実は手が冷えちゃってるチルノがもう可愛すぎるし、それを見抜いてお茶差し出す大ちゃんの聖母感やばくない!?「ずっと見てるよ」の台詞に全てのエモさが詰まってた…😭💕妖精の儚さと今の温かさを描くの上手すぎるよ!続きすっごく気になる!