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葵 .
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【この恋にセーブボタンは無い】
「ねえ、それゲームのやりすぎじゃない?」
そう笑いながら、柊がこちらのスマホを覗き込む。
放課後の教室。
窓際の席。
イヤホンから漏れるゲーム音。
いつもの景色だった。
「別に」
適当に返しながら、画面を閉じる。
本当はゲームなんかどうでもよかった。
ただ。
柊とこうして話せる時間が好きだった。
「お前ってさ」
柊は椅子を引いて隣に座る。
距離が近い。
シャンプーの匂いがして、心臓が変な跳ね方をした。
「負けそうになったらすぐリセットするタイプだよね」
図星で、少しムッとする。
「悪い?」
「別に」
柊は笑いながら頬杖をついた。
「でも恋愛ゲーム向いてなさそう」
その瞬間、呼吸が止まりそうになる。
「……は?」
「だってお前、不器用じゃん」
そう言って、柊はさらっとこちらの髪を触った。
軽い仕草。
でもこっちは全然軽くない。
好きな相手にそんなことされたら、普通に死ぬ。
「……やめて」
「なんで?」
「心臓に悪い」
ぽろっと本音が漏れる。
すると柊は一瞬だけ目を丸くして、それから吹き出した。
「なにそれ」
笑いながらも、どこか嬉しそうだった。
その顔を見るだけで、また好きになる。
もう嫌だった。
こんなの、勝てるわけない。
「ねえ」
不意に柊が静かにこちらを見る。
さっきまでのふざけた空気が消えていた。
「恋ってさ」
夕焼けが横顔を赤く染める。
「やり直し効かないよね」
その声に、胸がざわつく。
セーブも。
ロードも。
失敗したからって戻ることもできない。
一回好きになったら最後。
どれだけ苦しくても、簡単には消せない。
「……うん」
小さく頷くと、柊は少しだけ笑った。
寂しそうに。
「じゃあ俺、もう詰んでるかも」
その瞬間。
頭の中が真っ白になる。
「え……」
聞き返そうとしたのに、声が出ない。
すると柊は照れ隠しみたいに笑って、そっとこちらの手に触れた。
熱い。
「この恋にセーブボタンは無い」
繋がれた指先に、少し力がこもる。
「だから、ちゃんと最後まで付き合ってよ」
夕焼けの教室。
触れた体温。
うるさい心臓。
全部まとめて、
もう戻れないって思った。