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ゴゴゴゴ……ッ!
地下室全体が震え、天井の燭台がガタガタと揺れる。魔力の奔流が空気を満たし、壁に刻まれた魔法陣が淡い光を放っていた。
セリオは剣を抜き、目の前にそびえる巨大な扉を睨む。漆黒の石でできたその扉は、まるで呼吸するかのようにわずかに脈動していた。
「……ただの地下室じゃなかったみたいね」
リゼリアが眉をひそめながら、扉に手をかざした。魔法の波動を探るように目を閉じ、しばらくの沈黙の後、静かに呟く。
「……これは、かなり古い封印魔法ね。おそらく魔界がまだ統一される前の時代……数千年前のものかしら」
「数千年前、だと?」
セリオは驚きの声を漏らす。そんなに昔から封印されていたものが、この館の地下に眠っていたというのか。
「ええ……それに、この封印、完全には機能していないみたい」
リゼリアが扉の表面を指でなぞると、触れた部分が淡く光る。そして、その光は次第に弱まり、やがて完全に消えた。
「……崩壊しかけているのか?」
「そうね。このまま放置していたら、いずれ扉が開いてしまうわ」
リゼリアが顔に手を当てて考え込む。セリオは剣を握る手に力を込め、改めて扉を見上げた。
「……この先に何が封じられている?」
「それが問題なのよね。魔力の波動だけで言えば、かなり強力な何か……でも、はっきりとは分からないの」
リゼリアの声には珍しく困惑の色が混じっていた。彼女ほどのネクロマンサーでも正体を見極められないということは、ただの魔道具や生物ではないのだろう。
「……いずれにせよ、このままでは危険だ。扉を開けて確かめるしかないな」
セリオがそう言うと、リゼリアはわずかに目を細めた。
「本気なの?」
「ああ。封印が完全に解けてからじゃ遅い。今のうちに何があるのか確認して、対処できるならしておいたほうがいい」
リゼリアはため息をつくと、呆れたように肩をすくめた。
「……お前って、本当にこういうのを放っておけない性格なのね」
「騎士だった頃の癖が抜けないだけだ」
セリオが淡々と答えると、リゼリアは苦笑した。
「分かったわ。じゃあ、一緒に開けましょう。二人なら、何とかなるでしょうし」
そう言ってリゼリアは魔力を集め、扉に手をかざした。セリオも剣を構え、扉が開かれる瞬間に備える。
ゴゴゴ……ガコンッ!
重厚な音とともに、封印の扉がゆっくりと開き始めた。
——そして、その向こうに広がる光景に、二人は息を呑んだ。
暗闇の中にうごめく影、無数の魔法陣、そして異様なほどの魔力の渦。そこに何が眠っているのか、まだ誰にも分からなかった。