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指向性を持たせた超級魔法は、全てを凍り付かせていた。
いや、凍っているというよりも、全ての時間が止まったかのような世界だ。
「うー…ん。これってその内直るよな?」
倒れている連邦兵達も、道も、傍目から見ると凍っているようには見えない。
魔導書の説明書きによると『全てを凍らせるこの魔法は、大気さえも凍てつかせる。周囲に呼吸できる空気は無くなり、それに耐えられる生物は存在し得ない』とあった。
元々は制御出来るか不安で使っていなかったが、これからは別の意味で使えなくなったな……
上級魔法のアイスバーンは、その名の通り範囲内の地面を凍らせる魔法で、見た目にも水が無いにも関わらず氷が出来る。
しかし、この魔法は桁が違った。
最早辺りが静まり返って音すらも聞こえない。
いや、音を伝達するはずの空気まで凍ってしまったからか……
凍って倒れた兵士達はその衝撃でバラバラになってしまったが、血すら出せていなかった。
兵士達の死体は氷というよりも、蝋人形のようで、まさか凍結しているとは思わないだろう。
「感覚では500mくらいが射程のようだな。指向性を持たせない魔力波もそうだし、俺の魔力の限界がその辺りなのかもしれないな」
俺は現実逃避をする為に、どうでもいいことを考え始めた。
「環境に気を使ってトルネード・フレアボムのような魔法は控えたんだが……」
いつか気温は元に戻るよね…?
魔法から離れた位置にある木にも霜が付いている。
なんなら範囲外であるはずのこの辺まで冷気がやってきている。
「しゃあない…暖めるか」
連邦軍の足が止まっている内に、もう一つの融合魔法である『火災旋風』を使い、解凍して回ることにした。
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「どうした!?何故止まる!?」
ウェザード大佐は順調に撤退していた筈の自軍が急に止まった原因の究明を命じた。
「ほ、報告します!200m後方で、ぶ、部隊が…全滅しました」
「ば、馬鹿なっ!?爆発の音どころか、戦闘音も伏兵が居たなどという報告も聞いていないぞっ!!」
王国の想定外の攻撃に加え、更なる想定外が積み重なる。
大佐は自身の立場も省みず、動転した気持ちを隠さずに部下を怒鳴りつけた。
「は…」
怒鳴られた部下も状況を理解できているはずもなく、力なく頭を下げることしか出来なかった。
「と、とにかく後退だ!!」
「そ、それが…」
「なんだ!?はっきり言えっ!!」
前には間違いなく王国の罠がある。
そう考える大佐の頭には撤退の二文字しか浮かばない。
そこに言い淀む部下の答えに剛を煮やし、さらに激昂した。
「た、倒れた味方に近づいた者達も皆…同じように倒れました……後方では最早誰一人動けない状況になっています」
「そ、そんな……」
地球であれば生物兵器や化学兵器を疑うところだろうが、この世界の住人にその知識はない。
『呪いだ…連邦が滅ぼした国々の呪いだ…』と、常人には理解不能な言葉を紡ぐ人形へと大佐は変貌してしまうのであった。
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「くっ…火災旋風が消えていく…」
まさか自分が使った魔法が一番の強敵になるとは……
まさにマッチポンプ……
「融合爆裂を使えば気温はどうにかなるだろうが、あれは気軽に使えん……フレアボムも多少なりとも地形が変わるから乱発はしたくないし……どないしよ……」
俺は自分の巻いた種により途方に暮れていた。
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「後退していた連邦軍の動きが止まりました」
自国の命運が掛かった戦争である為、軍部のトップであるカガリ・ショー軍務卿は、最前線である森の中にいた。
そして、部下からの報告を聞いて思案する。
(ワトソン達から譲ってもらった手榴弾に恐れをなして連邦軍は逃げていたはずだ。あの大軍がこうも容易く撤退するとは思ってもいなかったから追撃の用意はしていなかった。
これは勝機か?それとも連邦の罠か?)
王国は国土が半島というその性質上、長らく防衛にばかり注力してきた。
その為、この戦争で攻勢に出ることを想定は出来ても中々実行に移すことが出来ないようだ。
反応が遅いので、所謂後手に回っていたのだ。
「森にいる全軍に命じる」
ここで指示を出せるのは己のみ。
何の為に戦地にいるのか。
覚悟を決めた軍務卿は、自信を持って命令を下す。
「持っている手榴弾を連邦軍に向けて全て投げ込み、その後、全軍で突撃!」
「はっ!」
森に布陣している兵数は連邦軍の10%に満たない。
王国の本陣は祖国防衛の為に、森を抜けた先に布陣しているからだ。
ここを勝機と捉えた軍務卿は、賭けに出るようだ。
(兵達には悪いが、もしこれが罠ではなく連邦が想定していない事態に陥っているのであれば、叩かなくてはならない。もしこれが連邦が張った罠であれば、戦後どちらが勝とうとも…私も……)
軍務卿にとって、兵も守るべき民なのかもしれない。
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「ふぅ…大連発ファイアウォールでなんとかなったな…」
火災旋風でもファイアウォールでもどうせすぐに消えるならと、連発しやすい簡単な魔法で解決した。
寒さに強い微生物も、暑さに強い微生物も、おそらく両方とも死滅しているだろう……
この街道にはしばらくの間、草木一本たりとも自生することはない。
あれ?良いことしたんじゃなかろうか?
ちなみに連邦軍は魔法範囲内入ると死ぬと気付いたのか、皆遠ざかっていたので誰も近くにはいない。
「何はともあれ連邦軍の足止めには成功したな。完全な副産物だけど…」
ここより少し先では手榴弾の爆発音が鳴り響いている。
恐らく王国軍が決戦へと踏み込んだのだろう。
俺達としては王国軍にはなるべく損耗してほしくないが、自国は自分たちで守るに越したことはないから、王国にとってはこれで良かったのかもな。
完全なる言い訳だけど。
「さて。向こうはいいとして、こっちはどうなったかな?」
俺は王国方面へ向けていた身体を翻し、連邦国側を向いて、歩いて来た道の先を見つめながらそう呟いた。
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『ぎゃああっ!?そ、そうじゃ!大きくならねば!!』
妾はセーナが持っているぬいぐるみとかいうモノの様なサイズから、これぞ神の使いという勇ましい姿へと戻った。
セイは乱暴に投げただけかと思っておったが、身体が元のサイズに戻り、冷静さを取り戻せば、なるほど。
連邦軍と呼ばれておった者達の頭上に妾は居た。
「ん?影?」グシャッ
何事か呟いておった者の上へと、妾は見事着地した。
『…なんじゃ。踏みつけただけで死におったのじゃ。こんなモノに妾は……ふふふ……』
「ウォーーーンッ!!」
「な、何だ!?ま、魔物っ!?」
「馬鹿でかいぞ!?」「きゅ、急に現れやがった!?」
ふふふっ。怯えておる!
妾は神の使いぞっ!!平伏すのじゃ!!
「ガルルルルッ!」
妾の威嚇の声に、人達はその身を固くしておるわ。
えっと…この後どうすれば良いのじゃ…?
「く、怯むなっ!!囲んで倒すぞ!!」
「「「はっ!!」」」
妾がこの後どうすれば良いのか悩んでいると、この者達が妾を囲んでいく。
しかし、その者達の脚は震えておる。
愛い奴等じゃ。
妾?…妾の震えは武者震いと言うたであろうがっ!!
「一斉に攻撃するんだ!如何に大きな魔物といえど、所詮は獣!我らの叡智の前では敵では無い!!」
此奴ら妾を馬鹿にしておるのじゃ。
妾に向かい一斉に飛び込んできおった。
「ゥオーーンッ!!」
ビクッ
また止まった……
この後どうすれば良いのじゃ…?