テラーノベル
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春は、恋が始まる季節だ。
校門へ続く桜並木を歩きながら、神崎悠人は大きく息を吸った。
「今年こそ、青春するぞ」
そんな決意を聞いていたかのように、風が桜の花びらを舞い上げる。
その瞬間、誰かとぶつかった。
「きゃっ」
「ご、ごめん!」
教科書を拾い上げると、目の前には長い黒髪を揺らす少女が立っていた。
透き通るような白い肌に、優しく微笑む瞳。
「ありがとう。私は月城美咲。同じ二年生だよね?」
「神崎悠人。よろしく」
王道みたいな出会いだった。
そこから二人は自然と話すようになり、昼休みは屋上で弁当を食べ、放課後は一緒に帰る日々が続いた。
美咲は笑うたび、小さく首をかしげる癖があった。
その仕草が可愛くて、悠人は少しずつ彼女に惹かれていく。
ある夕暮れ。
校舎の屋上で、美咲が夕焼けを見つめながら言った。
「ねえ、悠人くん。」
「ん?」
「ずっと一緒にいてくれる?」
その声は甘く、どこか寂しそうだった。
「もちろん。」
そう答えると、美咲は嬉しそうに笑う。
「約束だからね。」
小指を絡める。
その指は驚くほど冷たかった。
⸻
その日から妙なことが起き始めた。
悠人と話した女子が次々と学校を休むようになった。
最初は偶然だと思った。
しかし。
「昨日まで元気だったのに……」
「夜中に変な夢を見続けてるらしいよ。」
そんな噂が校内を広がっていく。
そしてある日。
保健室の先生が悠人を呼び止めた。
「神崎くん。」
「はい?」
「月城さんと親しいの?」
「ええ。」
先生は一瞬だけ顔を青くした。
「……気をつけて。」
「え?」
「この学校には、昔から”帰りたがる少女”の話があるの。」
放課後になると現れる少女。
恋をすると姿を持ち。
好きになった相手を誰にも渡さない。
最後には――。
「その子だけのものにする。」
先生はそれ以上何も言わなかった。
⸻
その夜。
悠人は夢を見た。
暗い教室。
夕焼けだけが赤く窓を染めている。
教室の奥には、美咲が立っていた。
「悠人くん。」
甘く囁く声。
「誰とも話さないで。」
「私だけ見て。」
「私だけ好きでいて。」
ゆっくり近づいてくる。
彼女が微笑むたび、教室の壁から黒い影が染み出してくる。
それは無数の手だった。
ざわざわと床を這い、美咲の足元へ集まる。
それでも彼女は変わらず微笑んでいる。
「怖い?」
「……少し。」
「大丈夫。」
彼女は悠人の頬へ手を添えた。
冷たい。
けれど不思議なくらい心地いい。
「怖くなくなるまで、ずっと一緒にいるから。」
その瞬間。
教室中の影が笑った。
⸻
翌日。
悠人は誰もいない旧校舎へ美咲に呼び出された。
夕暮れ。
赤い光が廊下を染める。
「ここ……立入禁止じゃ……」
「昔ね。」
美咲は静かに振り返る。
「私、この学校で死んだの。」
その一言で世界が止まった。
「事故だった。」
「好きな人を待っていた。」
「でも来なかった。」
彼女の制服が風もないのに揺れる。
足元から黒い影がゆっくり広がる。
「だからね。」
「今度は離さない。」
「悠人くんだけは。」
影が悠人の足を掴む。
逃げようとしても動けない。
それでも。
美咲は泣きそうな顔で笑っていた。
「好きなの。」
「本当に。」
「だから怖がらないで。」
彼女はそっと抱きしめる。
氷のように冷たいのに、どこか安心する温もりがあった。
悠人は震える声で尋ねた。
「君は……化け物なの?」
美咲は少し考えてから首を振る。
「違うよ。」
「恋を終えられなかった、ただの女の子。」
⸻
翌朝。
教室で悠人の席は空だった。
「神崎、休み?」
「連絡ないらしい。」
誰も理由を知らない。
ただ放課後になると、旧校舎の窓辺に男女が寄り添う姿を見たという噂だけが残った。
夕焼けに染まる教室で、美咲は幸せそうに笑う。
「これでずっと一緒だね。」
悠人も穏やかに微笑む。
「……ああ。」
窓の外では桜が静かに舞い続けていた。
そして、新学期になるたび。
校門ではまた誰かが、黒髪の少女と運命的な出会いを果たすという。
コメント
1件
めっちゃ好き……この話、すごく重くて綺麗だった……。 最初の王道ラブコメっぽい出会いから、じわじわと不気味さが滲んでくる構成が上手すぎる。保健室の先生の「気をつけて」の一言でゾッとしたし、夢の中で影が笑うシーンは本当に鳥肌立った。 でも一番グッときたのは美咲の「恋を終えられなかった、ただの女の子」って言葉。彼女の執着も歪みも全部、置いていかれた孤独から来てるんだなって思うと、怖いけど憎めないよ……。悠人が最後に笑って「ああ」って答えたのも、もう呪いか愛かわかんないのが逆にリアルだった。 この“甘くて病んでる温度感”、めちゃくちゃツボです。続きも絶対読むね……😌🥀
星꙳★辞めました
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