ラス・グレイマンが、実の息子、ヒノトとグラムの二人を試している頃、雲行きが怪しくなり、妙な気配にラスは魔族のいる方角を睨む。
ゴォン!!
突如、猛烈な落雷が遠くに見えた。
「な、なんだ!? あそこだけ雷雨か!?」
ヒノトの混乱を他所に、ラスは口を歪ませた。
「チッ……あのバカ王子が……。ラグナももう少し子供と向き合えってんだ」
「王子……? レオの魔法か……!!」
その言葉に、ヒノトとグラムも察する。
「急がないと……!!」
「ああ、事は急を要する。お前たちの相手は出来なくなった。どうせお前のことだ、着いて来るんだろう。一つだけ言っておくぞ」
ゴクリと、ラスの瞳を見つめる。
「笑え。どんな時でも。不可能を超えろ」
ヒノトは、その言葉を一身に受ける。
「あぁ、それから、極秘事項も話しておこう。お前たちをどうしても来させたくなかった理由だ。今回、俺たちが招集されたのは、『魔族の残党への脅し』の他に、もう一つ止めなきゃならねぇもんがある……」
そして、その言葉を最後に、ラスは一瞬で姿を消した。
「今の話……本当だとしたら……」
「俺たちも急ごう!!」
グラムと目を見合わせ、ヒノトたちも駆けた。
――
レオの雷撃は、外から大きな打撃を与え、建物の側面を大きく損壊させた。
「やっぱ気持ちいいなぁ……デカい魔法は……!!」
「こんな奇襲みたいなことしたら、全員から捕まってしまうぞ……!!」
「あ……? 私のことをナメているのか……?」
すると、睨みを効かせながら、中から二名の魔族と思われる男女が駆け付け、上空を見上げた。
「言わんこっちゃない……! どうするんだ……!」
すると、岩魔法で構築された空中上の足場から、レオは魔族たちに向かって飛び降りる。
「倒すに決まってる……!!」
剣を構え、パーティの方向を見遣る。
「シグマ! ファイ! 今だ!!」
シグマ・マスタング、王子レオのパーティの岩魔法使いのシールダー。
貴族院の生まれで、防御特化に魔法を展開する。
空中上に岩を形成し、擬似的に空中上の移動も可能にする、短髪の茶髪のガタイのいい男。
「 “岩防御魔法 ブロックゲート” !」
ファイ・ソルファ、王子レオのパーティの岩魔法使いのシールダー兼ヒーラー。
リゲルと同じく王国郊外の生まれで、多彩な魔法を扱うことが出来るが、主に支援魔法に優れる。
レオが入学前に探していたのは、この、『防御×治癒』を兼ね備えた『岩魔法使いの後衛』を探す為であった。
入学後、勧誘を受け、パーティに加わった、ショートの茶髪の女。
「は、はい……! ”岩魔法 ロックメンド” !」
レオには、二重のシールドが与えられる。
「さあ、蹂躙の時間だ……」
しかし、魔族たちには “理性” がある。
「これが見えないのかしら! 人質がいるのよ! 一人で乗り込んできて、蹂躙されるのは貴方よ!!」
そして、縄で縛られたリオンが前に出される。
しかし、レオは歩みを止めない。
「僕に人質の価値はないよ……。何故ならソイツは、お前たち魔族じゃなくて、“俺を殺しに来た” んだからね……」
「は……? どういう……?」
魔族たちも困惑する中、レオは微笑む。
「よぉーく分かってんじゃねぇか……クソ兄貴……。国の為に潔く死んでくれ……」
“雷鳴剣・迅雷”
ゴゥッ……!!
“炎魔剣・鐘楼”
「なっ……!」
レオの雷の込められた剣撃を止めた……消し去ったのは燃え盛る剣を手にしたリゲルだった。
「レオ様の仰って頂いた通り……俺も足掻きます……! 誰かを守れるソードマンになれるように……!!」
「私の邪魔立てをするな!! 貴様が剣を向けるべきは後ろに居るだろう、愚か者が!!」
その瞬間、魔族二体、及び、レオ、リオン、リゲル、全員の足下から、ブクブクと水が溢れ始める。
「そこまでにしなさい」
ゴォン!!!
「お父様……!!」
レオとリゲルを挟む形で上空から拳を突き出し、地面に叩き付けながら現れたのは、国王、ラグナ・キルロンドだった。
ピキ……ピキピキ……
そして、ラグナの拳は、その地表を瞬時に凍結させた。
(なんだこれ……!? 凍ったのか……!?)
(お父様の……氷魔法……!!)
「全員の動きを封じた!! ラス!! 今だ!!」
「あいよ」
ザシュッ……!!
全員が凍結されたことで、ラスは、魔族二体を、二本の武器で同時にぶった斬った。
(魔族二体を……あっさり両断……!?)
サラサラと消え行く魔族たちを確認し、ラグナは全員の凍結の拘束を解いた。
「プハッ……!」
「苦しかったな、すまない」
「い、いえ……国王様……。助かりました……」
リゲルは、不安そうにレオを見上げる。
レオの表情は…………笑っていた。
ゾク…………
「お父様……よかったです、間に合って……。魔族は、”あと二体” いる……!!」
そう告げると、落雷のような速度で、初撃で破壊した地下へと侵入した。
「お父様……! 違うんだ……リリムちゃんは……あの子は学寮の生徒たちを助けようとしただけなんだ……!!」
リゲルに縄を解かれたリオンは、必死に声を荒げるが、国王として、首を縦に振ることが出来ない。
ラスも、その姿に言葉を失っていた。
「国王様……ヒノトのお父様……恐れ多くも、質問させて頂いてもいいでしょうか……?」
「君は、ヒノトと一緒に居た少年だな」
「ここまでの不確定情報の中で、リリム・サトゥヌシアは本当に始末されなければいけないのでしょうか……? 見ていると、国王様も、ラス様も、迷っているような気がしまして……」
決断に迷っていたラグナの言葉を、ラスが代弁していたが、ここはラスの言葉よりも先に、ラグナが答えた。
「正直、迷っていないと言えば嘘になる。リオンの言う通り、リリム・サトゥヌシアがあのように言わなければ、ヒノトも、君も、グラムくんも、助からなかっただろう。それに、三王国で人権を認められた。それも、機密な魔法により悪意がないことも証明されている。それを、不明確なたった一言で処断の判断を下さねばならないことが……。国民を守ることが国王の勤め……だからこそ、その一言だったとしても、決断しなければならないのだ……」
ラグナの真っ直ぐな瞳に、リゲルは言葉を失う。
ラグナの肩を掴み、ラスが言葉を足した。
「だから、もしリリム・サトゥヌシアを救えるとしたら、ヒノトだ」
「でも、ヒノトが来ることは否定していたんじゃ……」
「俺が否定したところで、アイツは来る。そう教育したからな。俺たちパーティの本当の任務は、魔族討伐なんかじゃない。“雷帝 神童のレオ” から、その兄、リオンを救うことだ。だから、国王自らが出張っている」
「僕を……ですか……?」
「ああ、そうだ。だから、俺たちの裏の任務はここで終了だ。まあ、残りの魔族も倒さなければならないが……それは、“リリム・サトゥヌシアも一緒に” 処断することを意味する。だから、彼女が助かるかどうかは、ヒノト次第だ」
ゴゴォン!!
建物の中では、レオが壁を破壊する音が鳴り響く。
レオは、問答無用でリリムを殺すつもりでいる。
国王ラグナも、ラスも、出会ってしまったら、国民の安全を優先し、処断しなければならない。
ボン!!
「この音は……!!」
「待て……この!!」
小さなヒノトは、自分より一回りも大きなグラムを背に抱え、レオのパーティメンバーの妨害を交わし、リゲル、リオン、ラグナ、ラスの横を飛び上がる。
「ヒノト……!!」
「おおー! リゲル!! お前もやっぱ助けに来たんじゃねぇーか!! リオンも無事だなー!!」
「ヒノト、分かっているな」
「ああ、父さん……!」
ヒノトは笑って答えた。
「父さんたちのパーティより、レオのパーティより、誰よりも先にリリムを助ける!!」
「分かってんならいいんだよ」
そして、崩壊した地下へと飛び込んだ。
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