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僕は、恵まれた環境で生まれたと思う。
父は国の国王で、自らが冒険者だったこともあり、厳しい側面も持つが、基本的には優しい人だった。
しかし、二つ下に、神童が生まれた。
雷魔法を得意とする金髪、と言う時点で、王国内は騒然とし、僕よりも跡取りはこの子になるだろうと、実しやかに囁かれていた。
僕は、青色の髪で水魔法を得意とするが、相手を前にすると怖くて手が震えてしまう。
そんな中で、弟は果敢な姿を見せ、幼くして神童と呼ばれるまでに成長していた。
「お兄様! 今日も鍛錬付き合ってください!」
弟は、いつも熱心に僕は話し掛けてくれる。
「ごめん、今日はちょっと用があってね」
僕は、それをいつも避けていた。
齢十歳から通える剣術魔法学校に入ってから、弟の距離は歴然と開かれていったのを感じた。
弟も、僕が小心者だと言うことに、少しずつ気付き始めていたんだと思う。
弟が入学してから、程なくした頃だった。
「キャアー!!」
周囲には誰もいない。
女生徒の叫び声に、僕は駆け足で向かう。
「花壇……?」
「あ、リオン様……! すみません……はしたない声を上げてしまって……」
「だ、大丈夫だよ……。何があったんだい?」
「実は……この花壇の花、ずっと育てていたんですけど、今来てみたらこの有様で……」
花壇には、花は一輪も、一枚の葉すら、残されてはいなかった。
「昨日までは沢山咲いていたのに……!」
悔しそうな顔を浮かべる彼女の顔を見て、僕は力になりたいと思った。
「犯人を探そう……!」
それから、一日中聞き込みをして回ったが、犯人と思しき人物を見つけることは出来なかった。
夕暮れの中、何もない花壇を見遣る僕たち。
「兄様……何をしているんですか……?」
「レ、レオ……!? どうしてここに……?」
「何やら、兄様が聞き込みをしていると話に聞きまして、私も何か協力できないものかと……」
僕は、レオの優しさに少しだけ嬉しく思っていた。
ただ、僕たちはすれ違う事となる。
「と言うか……私は構内の管理委員を任されているので把握しているのですが、ここの花壇は改装工事の予定が入っているので、元から花なんてありませんけど……」
「は……? そんなはずはない……! 現に、彼女は毎日ここの花壇の手入れをしていたと……!!」
「彼女……? 何を言っているんです……?」
ふと横を見ると、さっきまでいたはずの女性は、どこにも居なくなっていた。
「兄様、そんなことより鍛錬を……」
「そんなことより……? お前はそんなことだから、剣術しか脳が無いんだろうが!!」
言ってから気付いた。
なんと、愚かなことを言ってしまったのだろう。
弟は、なんの反論もしてこなかった。
この言葉が、弟に何を感じさせたのかは分からない。
それでも、これだけは言えるだろう。
もう、弟が僕に期待することはない。
それから、僕はめっきり、政治や国に携わることからも避けるようになり、友人と遊ぶちゃらんぽらんな王子(仮)のように遊び歩いていた。
「あれれー? 君、もう夕暮れだよ? 帰らなくていいのかい? よかったら、この王子である僕が、お家までエスコートしましょうか?」
振り返った彼女を見て、僕は唖然とする。
「花は……取り戻せなかったですね……」
やはり、あの時の彼女は……存在していた。
幻覚を見ていたわけじゃなかった……!
「あ、あの……!!」
僕は、全速力で彼女の元に駆け寄る。
「お名前を……お名前を聞かせてください……! 今度こそちゃんと……見つけてみせるから……!!」
すると、彼女は透き通った身体を振り向かせ、小さく涙を零しながら答えた。
「 “花” です」
「え……?」
その瞬間、ふわっと風が僕を包んだ。
目を閉じた瞬間、彼女の姿は消え、風の中に、強く花の香りが鮮明に混じっていた。
「貴方のような優しい方が、新たな芽吹きを守ってあげてください……」
御伽話のようだが、彼女は、花は、花の精霊だったのかも知れない。
それから僕は、新たにできた花壇に、自らの水魔法から水をやることを欠かさなかった。
周囲からは、『女性に貢ぐ花を育てている』と誤解をされていたけど、どうでもよかった。
僕が逃げたことも、守れなかったことも、弟を蔑ろにしてしまったことも、何も変わらない。
そんな自責の念から、ずっと逃げてきた。
――
ヒノトは、ラスと少しの会話の後、そのまま崩壊した地下へと躊躇なく飛び込んで行った。
「お父様……我儘を、お許しください……!!」
そう告げると、リオンも地下へと飛び込んだ。
「私は、剣しか教えられなかった。リオンも、レオも、私のことは厳しいだけの父だと思っているかも知れない」
「俺の方もそんなもんだ。教育は女に任せて、俺も剣ばかりを教えた。男のガキってのは、剣だけ教えておけばな、存外、勝手に強く、逞しく育つもんだ」
俯くラグナに、ラスは優しく微笑んだ。
「もう行ってもいいかしら〜?」
瓦礫の下から、シルヴァとミネルヴァが覗き込む。
「そうだな! ガキ共を守りに行ってやるか!」
そうして、現国内最強パーティの四人も、地下へと飛び込んで行った。
――
地下では、レオが破壊したであろう崩壊した壁が一本道となっていた。
「これを一気に辿れば、まだ追い付けるかもな……」
ヒノトは、もう一踏ん張り、グラムを抱える。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」
「んあ、アンタ……王子の……」
「リオン・キルロンド、中衛のガンナーだ。レオを止めたい。手伝わせてくれないか……?」
ヒノトはニカっと答える。
「ああ、もちろんだ!! でも……移動がなぁ。走って行って間に合うか分からないから……」
「それなんだが……荒々しくなるが、僕の水魔法で全員を流水に流して移動させることができる。もちろん、息はできるが、身動きはし辛いから、そこだけ注意してほしい」
「おお! いい魔法だな! 俺の突発的な爆破移動より早そうだ!」
「俺は、間に合うのであればどちらでもいい」
「じゃあ決まりだ! リオン、頼むぜ!」
ヒノトの何気ない一言は、リオンを強く震わせた。
「頼む……か。ハハ、いつから言われなくなったんだろうか……。 “水魔法 濁流” !!」
リオンを中心とし、激しい水流が三人をまとめて流し、一本道を猛烈な速度で流れて行った。
「ゴボーゴボー!! ゴボイバ!!」
ヒノトは、水中の中でも笑って何かを言っていたが、グッドサインを出していることから、喜んでくれていることだけは察せた。
やがて、レオの後ろ姿を捉える。
ボン!!
「もうこの先には行かせねぇよ……!」
そして、レオの後ろで二人も身構える。
「フフ……フハハハ!!」
「何笑ってんだよ! 三対一だぞ!!」
「いいや、愚か者よ。三対三だ。私にはまだ、シールダー二人のシールドは解かれていない……。いや、現時点ですら、私の方が有利とまで言えるな……」
「ヒノトくん……! レオは、わざと『岩属性のシールダーを二人』編成に入れたんだ! “岩共鳴” を利用する為に!!」
「岩共鳴……?」
「味方の岩魔法同士が同時に展開された時に起こる、自然界からの恩恵だ……。レオには今、二つの岩シールドが発動されている。それだけでも厄介だが……この “岩共鳴” 中は、更にシールドは硬くなり、シールドが張り続ける限り、レオの攻撃力も増している……!」
「そう、つまり、お前たちは為す術もない。ただ、王子として愚民だろうとも民を殺すことは出来ないからな。全てが終わるまで眠っていてもらおう……!」
バチバチとレオの剣は光り、三人は一斉に臨戦態勢を敷いた。