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「はぁ? この程度か?」
受付カウンターでガン飛ばすキレル。
対する受付嬢は陰鬱な表情を見せ、男にしか聞こえない低さと言葉遣いで答えた。
「あぁ。痔士団が規定を作った。ティア3以下のモンスターは一律500KGだ」
キレルは過去の報酬を思い出し、異なる数字に苛立ちを隠せない。
「前のとこでは700くれたぞ! ついでに300! さらにボーナスで100!」
「知らん。よそはよそ。うちはうち。さぁ帰った帰った。この街はトイレが混雑するからこれより5時間は休憩時間となる。その間窓口受付は無い」
受付嬢はキレルを殴り飛ばし彼を建物の外へと追いやった。
「なんだよふざけんな。俺はケツ血まみれになりながらモンスターぶっ殺してガキ救ったってのに。なんで500なんだよ。クッソ痔士団めふざけんな。お前らが現れてからどこもかしこも報酬半減。やってられねぇよ。こちとら痔の薬も買わねぇといけねぇんだぞ……」
たんこぶ塗れのキレルは、グチグチと文句を重ねながら黄金色の空を見上げ歩く。
自然は美しいのになぜ人間はここまで汚いのだろう、と哲学的感情を呼び起こす。
「ならば貴様も痔士になればいいだろう」
急に見知らぬ男に声をかけられるキレル。
「あぁ? 誰だてめぇ。こちとら毎月必ず切れ痔なんだよ舐めんな」
男は痔士団の鎧を身に纏っている。
痔士団は、痔・エンド・モンスターの増加に頭を悩ませた現皇帝サカラウト=コロス4世の命により誕生した組織だ。最新装備で痔・エンド・モンスターを狩ることができるよう常に上質なサポートを受けられる。痔士団所属と言うだけで合コンは確定でお持ち帰りとの噂も。
「痔士になれないような奴が痔・エンド・モンスターを狩って生計を立てる? ふはは! 笑わせるな! 今どきフリーのハンターなど役に立たん!」
周りに聞こえるようにか大げさに笑いこける男。キレルは名誉を守るためどうにか言い負かしたいが、暴力的解決しか思いつかないので彼の胸ぐらをつかんだ。
「このクソ野郎一発殴ってやる」
「やるのか? 俺はジセキの使い手だぞ?」
ジセキ。痔を持った者に稀に訪れるという覚醒の力。まるでおとぎ話にある痔のジセキ使いの奇跡が具現化したかのような力を持ち、痔・エンド・モンスターを一瞬にして殺してしまうとか。そのような相手となると負けるのは明白、恨みより命だ。
「く……」
キレルは大人しく手を離す。
するとすぐさま押し倒され、尻もちついて激痛が走った。
「いだっ!」
「悔しかったら痔士団入団試験でも受けるんだな! まぁ未だにフリーやってる時点でたかが知れてるが! ふはは!」
男は唾をキレルに吐くとやはりわざとらしく大声で笑いながら去っていった。周りの住民たちにひそひそ話されようとも彼は優越感を諦めない。
「……クソ」
キレルとしては赤っ恥をかかされたようなものだ。一部始終を見ていた人間に馬鹿にされることは無くとも、ここまでやられたのはプライドが許せない。どうにかして発散せねば。
「あ、あの」
「あぁ? ……あぁお前か。何の用だ」
一瞬メンチカツを切りそうになったが、相手がジークだと気づきすぐに表情を戻す。
彼は何やら丸まった紙を持っていた。押し付けるように渡してくる。
「と、父ちゃんがこれ渡せって! 僕を助けてくれたお礼に!」
「なんだこれは」
キレルがゆっくり開くと、ジークはキレルの驚く顔とほぼ同時に言った。
「ティア0のキレジーザマーンの根城が記された地図だってよ!」
キレジーザマーン。痔・エンド・モンスターの中でも最も危険とされるティア0の一体だ。痔士団の人間であっても一人で遭遇した場合は即刻逃げるよう言われている。
「……キレジーザマーンがんな簡単に見つかるわけねーだろ」
ティア0はただ戦闘能力が高いからだけではない。希少性も重要だ。そこらにポンポン現れるような量産型ではない。そのためどこにいるか特定している地図というのは怪しいとしか言えない。
「本当だって! 父さんは痔士団の団長と恋仲なんだ! 穴掘ってる時に貰ったって!」
「……団長は男だろ」
キレルが冷ややかな視線を浴びせると、ジークは眉をひそめて言った。
「あぁそうだよ。だからなんだよ。あんたは同性愛を否定すんのか? キンタマちっちぇえな!」
明確な怒りを示すジーク。怒りはごもっともだがキレルに向けるのはお門違い。彼はとても心の優しい青年である。
「否定してねーよ馬鹿。受精卵が別の受精卵と交尾してたって俺は尊重するぜ。ただなぁ、痔士団の団長様は超堅物だと聞いてるぞ。んな簡単に希少な情報渡すかね」
痔士団の情報は少し調べた程度とはいえ、皇帝直々に任命された団長の噂は嫌でも耳にする。彼は典型的なお堅いタイプで数多くの誘惑を断ち切ったとか。
「夜になると豹変すんだ! 隠されざる乙女の封印が解けるんだってよ!」
ジークは意味深なことを至って真面目に認めさせるように言う。
「意味わからん。それになんで俺がザマーン探してること知ってんだ」
キレルは自分の目的がザマーンであることはだれにも漏らしていない。酒を飲んだ時にも意識はハッキリしているためあり得なかった。
「あんたの噂を聞いたことがあるんだって! 切れ痔で亡くなった妹の仇を取るために旅してるハンターがいるって!」
「俺はそこまで有名なハンターでは無いんだが……。イボ痔キングのイボンならまだしも」
比較的多くの街を巡ってきたとは思っていたが、キレルは別にどこかで街を救った英雄のような経験はない。そのためどこへ行っても無名のハンター扱いだ。
「痔士団は同業のハンターについての情報も収集してるんだ! だからお前のイボ痔の数も知ってる!」
「俺はどちらかというと切れ痔の方が強めなんだがまぁいい。何故知ってるのかは聞かないでおくよ」
情報力があるとは聞いていたがまさかそこまでとは信じたくもない。
「僕も色々教えて貰ってんだ! あ、やべぇ時間だ! ごめんおじさん! 僕今日姉ちゃんと戯れる約束があるから! あばよ! まじ待ちきれねぇッ!」
「恐ろしい内容じゃないことを祈ってるぜ。後俺はお兄さんだ」
ジークはまるでこの世で最も幸せなことを知っているかのように脳内お花畑で去っていった。
「……さて」
もしこれが本当なら、復讐にまた一歩近づいたことになる。
「……でも嘘だったら……いや、いいや。どうせこれ以外に情報はねぇんだ。行ってみよう。ジーラブリーンに」
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