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藤堂が姿を消した後、伊織は怪我をした藤井渚を支えながら、その場でしばらく動けなかった。藤井は幸い大きな怪我はなかったものの、藤堂の狂気的なまでの怒りに、心身ともに消耗していた。「大丈夫?渚?」
「うん……大丈夫。でも、藤堂くん、本気だったね」
藤井は伊織の優しさに触れ、改めて彼を守ると決意した。しかし、藤堂の存在は、藤井が思っていた以上に、二人の関係にとって重くのしかかっていた。
翌週から、藤堂の復讐が始まった。
まず、藤井渚は部活(バスケットボール部)の顧問から呼び出された。藤堂は、藤井が伊織と付き合うために部活を蔑ろにし、練習に集中していないという虚偽の報告を、学校の有力なOBである親族経由で顧問に送りつけていたのだ。藤井は一時的にレギュラーを外され、練習参加も制限されてしまった。
次に、藤井が楽しみにしていた美術展への出品権が、突然取り消された。審査員への匿名の手紙で、藤井の作品に盗作疑惑があると告げられたのだ。もちろん、藤堂が仕組んだことだった。藤井は必死に潔白を証明しようとしたが、その騒動で彼女の心は削られていった。
そして、極め付けは、SNSでの攻撃だった。藤堂は、自身の圧倒的な人脈と影響力を使い、藤井渚が「男を誘惑する」「陰で友達を悪く言う」「すぐ体を売る」といった悪質なデマを拡散させた。藤堂に憧れる女子生徒たちがそれに乗り、藤井のSNSは誹謗中傷で埋め尽くされ、学校内でも孤立し始めた。
藤井は、ボーイッシュで強い精神を持っていたが、藤堂の執拗で巧妙な攻撃は、学校生活のすべてを破壊するものだった。藤堂は、伊織に直接手を出すことはしなかった。なぜなら、伊織を苦しめることは、そのまま藤堂自身の苦しみになることを知っていたからだ。藤堂の標的は、あくまで「伊織を奪った女」ただ一人だった。
伊織は、藤井の憔悴していく姿を見て、胸を痛めていた。
「渚、もうやめよう。藤堂に謝って……」
「ダメだ、伊織くん。私が君を自由にするって決めたんだ」
藤井は最後まで気丈に振る舞おうとしたが、藤堂の復讐は、藤井の心身を限界まで追い詰めた。
金曜日の放課後。藤井は人気のない屋上へ、藤堂を呼び出した。
屋上で藤井が目にしたのは、冷酷な勝利を確信したような笑みを浮かべる藤堂だった。
「よう、転校生。何の用だ? 俺の可愛い伊織から、もう手を引いたのか?」
藤堂は、藤井の憔悴しきった顔を見て、満足そうに言った。
藤井は、唇を噛みしめ、深く頭を下げた。彼女の短い髪が風に揺れる。
「……もう、わかった。降参する」
藤井の声は、震えていた。
「お前の負けだよ。クソ女。俺の独占欲に、お前の綺麗事は勝てなかったな」
「そう、だよ……君の愛は、私には理解できないほど、重すぎる。そして、強すぎる」
藤井は、顔を上げ、涙を滲ませながら、藤堂に向かって絞り出すように言った。
「もう……やめて……私が悪かった。伊織くんから、手を引く。もう二度と、君たちに近づかない。だから……もう、私を攻撃するのはやめてくれ」
藤井は、自分の誇りを捨て、藤堂に許しを請うた。藤堂は、その言葉を聞き、冷酷な笑みを深めた。
「最初からそう言えばよかったんだ。俺の可愛い伊織に近づいた罰は重いんだよ」
藤堂の復讐は、藤井渚という一人の少女のすべてを打ち砕き、伊織を巡る戦いは、藤堂蓮の完全なる勝利で幕を閉じたのだった。