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第十七話 知らないこと
翌日の夜。
いつものようにサイトを開くと、
すでに相手がログインしていた。
『昨日はごめん』
最初に届いたのは、その一言だった。
『もういいって(笑)』
『でも、気になってた』
『私は大丈夫』
『ならよかった』
昨日のことは、それ以上掘り返さなかった。
二人の間に、変な空気が残っているわけでもない。
むしろ、昨日一度ちゃんと話したことで、
少しだけ気楽になっていた。
『今日さ』
『うん』
『学校で昔の写真見つけた』
『昔の?』
『うん。クラスのやつ』
『見せて』
『嫌』
『なんで(笑)』
『恥ずかしいから』
『絶対変な写真じゃん』
『違う』
『じゃあ見せてよ』
『そのうち』
『またそのうち?』
『うん』
『最近「そのうち」多くない?』
『そっちもでしょ』
笑いながら、会話は続いていく。
ふと、彼女は思った。
自分は相手のことをどれくらい知っているんだろう。
好きなもの。
苦手なもの。
学校のこと。
少しだけ家族のこと。
でも、それだけだ。
本当の名前も知らない。
住んでいる場所も詳しくは知らない。
どんな顔で笑うのかも知らない。
そして――
どうしてこのサイトを始めたのかも。
昨日の話を思い出す。
『ねえ』
#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
『なに?』
『前に聞いたこと、もう一回聞いていい?』
『何?』
『このサイト始めた理由』
しばらく返事が来なかった。
やっぱり聞かない方がよかったかな。
そう思った頃、
『まだ言えない』
と届いた。
彼女は画面を見つめた。
『そっか』
『ごめん』
『謝らなくていいよ』
『でも、いつか話す』
その言葉に、彼女は少し驚いた。
『いつか?』
『うん』
『じゃあ待ってる』
『ありがとう』
それだけで、十分だった。
無理に聞き出す必要はない。
話せるようになったときに、話してくれればいい。
そんなふうに思えるようになっていた。
少しして、相手から突然、
『そっちは?』
と届いた。
『何が?』
『始めた理由』
彼女の指が止まった。
まさか聞き返されるとは思っていなかった。
『……私もまだ言えない』
『そっか』
『ごめん』
『だから謝らなくていいって』
『そっちもね(笑)』
『確かに』
二人とも笑った。
同じだった。
お互いに話していないことがある。
それを無理に埋めようとはしない。
秘密があることを、秘密のまま受け入れている。
『なんか変だね』
『何が?』
『毎日話してるのに、まだ知らないこといっぱいある』
『そりゃそうでしょ』
『でも、知ってることも増えた』
『うん』
『だから、別に急がなくていいかな』
少し間が空いて、
『俺もそう思う』
と返ってきた。
その夜は、そこから好きな映画の話になった。
お互いにおすすめを一つずつ教え合う。
いつか会ったときに、その話をする。
そんな小さな約束も増えた。
やがて、
『そろそろ寝る』
『おやすみ』
『また明日』
『うん。また明日』
画面を閉じる。
彼女はベッドに入ってから考えた。
知らないことがある。
それは、悪いことじゃない。
これから知っていけばいい。
一気に全部じゃなくていい。
そう思えるようになったのは、きっと――
相手を信じられるようになってきたからだった。
コメント
4件
そうなんですかー?ならよかったですー!🤭 えー!嬉しい!ありがとうございます! ならよかったですー! てか高校生なんですか!? 年上のお姉さんだと思ってました! えー!嬉しい!ありがとうございます!
うわあ…第17話、めっちゃ沁みたよ〜😭💕 「知らないことがある」って、それだけで不安になりそうなのに、二人は無理に埋めようとしないで、そのまま信じてる感じがすごくエモい…!! 「まだ言えない」「待ってる」のやり取り、なんかもう尊すぎて胸がぎゅってなった… お互いに秘密を抱えながらも、ちゃんと「知ってることも増えた」って言えるの、すごくいい関係だなあって思う M.Sさんの描く距離感の繊細さ、ほんと好きです…✨ 次も楽しみにしてます!