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第十八話 予定にない一日
その日は、いつもの夜と少し違った。
いつもの時間になっても、
相手がログインしてこない。
彼女は一度サイトを閉じて、また開いた。
まだいない。
「珍しいな」
そう思いながら、スマートフォンを置く。
しばらくして通知が鳴った。
『ごめん、今日遅くなった』
『大丈夫?』
『うん。ちょっと出かけてた』
『どこ行ってたの?』
少し間があった。
『秘密』
『また秘密(笑)』
『今日は本当に秘密』
『じゃあいいや』
そう返したものの、彼女は少し気になった。
でも、それ以上は聞かなかった。
その代わり、今日は自分の一日を話した。
帰り道で見つけたもの。
友達との会話。
先生のちょっとした失敗。
相手はいつものように笑ってくれた。
『今日楽しそう』
『そう?』
『うん』
『そっちは?』
『まあまあ』
『なんかあった?』
『特には』
それから少しして、
『今日、写真撮った』
と届いた。
『また?』
『うん』
今度送られてきたのは、夕方の景色だった。
空が少し赤くなっている。
建物の向こうに、夕日が沈みかけていた。
『きれい』
『でしょ』
『今日これ見てたんだ』
『うん』
彼女は写真を見ながら、ふと思った。
今まで相手が見ていた景色を、自分も見ている。
たったそれだけなのに、少し不思議だった。
『なんか近く感じる』
『俺も』
『同じ空見てるってことだもんね』
『そういうこと』
二人はしばらく、その写真について話した。
特別な出来事じゃない。
でも、いつもの文字だけの会話とは少し違っていた。
その後、相手が突然言った。
『会う日、ちょっと楽しみになってきた』
『今までは?』
『楽しみだけど、怖かった』
『何が?』
『実際に会ったら、今までと同じじゃなくなるかもしれないから』
彼女は少し考えた。
それは、自分も同じだった。
『私もそう思ってた』
『でも昨日くらいから、ちょっと違う』
『なんで?』
『会ってからじゃないと分からないこともあるんだろうなって』
『確かに』
『だから、楽しみにしてみようかなって』
『じゃあ俺もそうする』
二人で笑った。
その後は、いつものように話していた。
けれど、会う日のことを考える時間が増えていった。
当日は何を着よう。
最初になんて声をかけよう。
名前を聞いたら、どんな気持ちになるだろう。
そんなことを考えるだけで、少し緊張する。
『ねえ』
『ん?』
『当日、もし私がすぐ見つけられなかったらどうする?』
『待つ』
『即答(笑)』
『だって約束したから』
彼女はその言葉を見て、少しだけ笑った。
『じゃあ、私も待つ』
『うん』
その夜、二人はいつもより長く話した。
そして最後に、
『じゃあ、また明日』
『また明日』
と送って、サイトを閉じた。
彼女はスマートフォンを置く。
今日、相手がどこへ行っていたのかは知らない。
何をしていたのかも、詳しくは聞かなかった。
でも、それでいいと思った。
全部を知る必要はない。
知らないままでも、信じられることはある。
そして――
会う日は、少しずつ近づいていた。
コメント
4件
そうなんですよねー! 本当そうなんですよ! 写真1枚の影響おおきいんですよねー! ありがとうございます! 嬉しいです!
読了したよ!「予定にない一日」ってタイトル、最初は「今日遅くなった」の理由が気になって仕方なかったんだけど、あえて秘密のまま進む二人の距離感がすごくリアルで好きだった。特別な出来事じゃないのに「同じ空を見てる」だけで近く感じるって感覚、めっちゃわかるなあ。会う日を楽しみにし始めた瞬間の空気感が伝わってきて、こっちまでほっこりした。次も読むの楽しみにしてるよ!
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