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日課であるカガリのブラッシングに精を出していたミア。しかし、その心は別のところにあった。
(ネストさんには失望した。折角お兄ちゃんが助けてあげたのに、恩を仇で返すなんて……。お兄ちゃんが、それを引き摺っていたら大変だ。その為にも私が癒してあげないと……)
そう思ってはいるのだが、なかなかその時間がとれない。
村に帰るなり次の日から朝早く村を出ては、夜遅くに帰って来る九条。しかも、日に日にやつれていくようにも見える。
それも今日で七日目。九条の顔にも疲労感が如実に現れていて、どうすればそこまで体を酷使できるのかと思うほど。
ミアはその理由を聞こうと機会を窺ってはいるのだが、九条は疲れからか会話もほどほどに寝てしまい、聞きそびれる毎日。
「お兄ちゃん。明日も朝から何処かにいくの?」
「ああ。そうなんだが……。そんなことよりミア、この辺りで魔法書の製本をやってくれる所を知らないか?」
「んーっと、ベルモントの魔法書店のおばあちゃんが出来るよ?」
「げっ……。あのババアか……。他には?」
「王都まで行けばそれなりにいるとは思うけど……」
「そうか……。なら仕方ない。明日はベルモントに行くが……。ミアはどうする?」
「いくー!」
突然のおでかけ宣言に、ミアは聞きたいこともすっかり忘れてはしゃいでしまっていた。
――――――――――
「あぁぁぁ!! お主!? ついにあの魔法書を売りにきたのか!?」
翌日。ベルモントの魔法書店へと足を延ばすと、俺の顔を見た途端これである。
店主だろうババアは俺の持ち物を舐め回すように凝視していたが、それを持っていない事に気づいたようで落胆した。
残念ながらそれはミアに預かってもらっている。今は宿でカガリとお留守番だ。
「すまないが、今日は製本をお願いしに来た」
そう言って持っていた紙の束をカウンターへと置いた。
「なんじゃつまらん……」
ババアは意気消沈すると、やる気のなさそうに目の前に置いてある紙の束を見つめた。
一番上の紙には、本の装丁のことが事細かに記されている。
「ふぅん……。この内容じゃと金貨五枚じゃ。三日後に……」
本当につまらなそうな表情でペラペラと内容を確認していると、急にその手が止まった。
そして、徐々に紙を捲る速度が上がっていく。
「お主! これを……これをどこで手に入れた!?」
「それは言えない」
「これはスタッグ王国に伝わる秘伝の魔法書! 行方知れずであったはずじゃ! なぜお主が持っておるのじゃ!?」
「だから、言えないと言ってるだろ……」
「まさか、これを完璧に複製できるとは……。お主……物は相談じゃがこの魔法書、売る気はないか?」
言われると思った。
まあ、商売人だ。珍しい物が欲しくなるという感覚は、わからなくもない。
「残念ながらオリジナルは失われた。それがオリジナルになり王家に返還する予定の物だ。王家を敵に回してもいいなら売ってもいいが?」
一瞬悩むようなそぶりを見せるも、溜息をつくババア。
「くっくっくっ……流石にそこまではできん……。まあ、見れただけでも良しとするかの」
「料金は倍払う。明日までにできないか?」
「――よかろう。珍しい物を見せてもらった礼じゃ。超特急で仕上げてやろう。明日の夕方、また来るがいい」
「よろしく頼む」
――――――――――
翌日、出来上がった魔法書を受け取った。
それは燃やされてしまった物と瓜二つ。逆に新品独特の香りと艶が相違点であるとも言える。
後はこれをネストに譲渡するだけだが、すぐには渡さない。また奪われるような事があってはならない。
敵を欺くにはまず味方からだ。特に貴族連中に知られるのだけは避けなければ……。
バルザックと綿密に練ってきた計画。正直言うと、バルザックさえいれば魔法書はいくらでも量産できる。
しかし、制限時間は|曝涼《ばくりょう》式典まで。
これが最後のチャンスなのだ。