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「…..眠。今何時だ?」
眠気のせいか、石と錯覚してしまうほど重い頭を持ち上げて壁に掛けている時計を見上げると時刻は12時を指していた。
もちろん、夜中の。
「…..これでは今日も眠れないだろうな。」
呆れか、もはやこの惨劇が面白くなってきたのか笑い混じりの独り言をこぼし、また書類まみれの机へと視線を戻した。
私は、とある実験の研究員の1人だ。
研究内容は、遺伝子操作による人類の兵器化。
何故そんなことしているのか?
そんなこと、私にも分からない。恐らく私以外に問うても分からないと返すだろう。
こうなった原因は戦争だ。意味の無い武力のぶつけ合い。そりゃ誰も分からないか。
26✕○年から始まったこの戦いは、398○年現在まで続いている。
まぁ戦争は形を変え、現在はこうやって自国の武力を見せつけ威嚇する方法になったが。
さて、歴史のお勉強はここで終わりにしよう。
トントンと机を人差し指で叩き、寄ってきた雑用ロボットにコーヒーを持ってくるよう指示する。
何故こんな働かせられているんだったか。
確か、353○年このプロジェクト開始から数年経った頃。 どこぞの馬鹿共が実験体を複数人逃し、数億に及ぶ損害を発生させたことせいで今我々がその負債を負わされるかのようにほぼ無償で働かせられている….だったか?もう何百年前の話じゃないか。
「学院にいた時はそんなの微塵も知らされなかったのに….政治家か、学院連中かは知らないが現金な奴らだよ。」
雑用ロボットの持ってきたコーヒーを飲む。ブラックコーヒーの濃い匂いは口に入れなくても眠気を吹っ飛ばしてくれそうだ。
まぁけれど、正直残業については気にしていない。元々地頭はいい方だし、実験も滞り無く進んでいる。問題は….
机に飾ってある写真を優しく撫でる。スクリーンに移された写真は、1年経っても色褪せず存在し、私の心の支えとなっている。
写真に写っている彼こそ、私の心の平穏をぶち殺している犯人なのだ!.. や、それは語弊があるか。
彼とは学院の入学式の日で出会った。
私は戦争国の隣国の血が通っており、表面上は皆と同じ待遇を受けているものの、実際は差別的な扱いを受けていた。
黒い髪と瞳はよくも悪くも悪目立ちするのだろう。ともあれ人付き合いは嫌いな方だし大丈夫だと思っていた。
学院に来る前も、他の奴らと価値観や話題の興味、知識量の差があって話が合わないし、話したとして会話をすることによって互いに実りがあるとは思わないから友人は作らなかったのでまぁ. ..ぶっちゃけ大丈夫だったが。そう、断じて寂しくなかったが、ミリも虚しくなかったが ….!!
….. はぁ、こうしている間が最も無意味で虚しいか….話を戻そう。
けれど彼は違った。
入学式が終わり学院寮に帰っても良かったが、どうせ混むのを見越して裏庭で本でも読んでた時。
その裏庭には珍しい戦争の影響で滅んだと言われる植物の一種だったか?それを模倣した品種が咲いていたのを覚えている。
その植物でなくとも現代に植物が咲いているのが珍しくて、その花が散りゆくことに切なさを感じていたらふと、後ろから声が聞こえた。
「お前の格好カッケーな!」
「は?」
反射で顔を顰めてそう返す。
これが初めて交わした会話。会話と言っていいのか?まぁともあれ笑ってしまうほど酷いだろ? 10:0で突然話してきた彼の方に非があるが。
けれどその瞳は清らかで、それでいてまっすぐな、曇りのない笑みだった。他の人達とは違う、不思議な瞳。
「は?ってなんだよ〜。人付き合いもままならないコミュ弱か?」
「コミュ弱….君こそ、初手で「お前の格好カッケーな」ってなんだい。リズムでも刻んでいるの?それとも人との距離感も分からないのか ?」
「質問に質問で答えんなし、それにー俺、こう見えても首席なんだぜ?し、ゅ、せ、き!!」
「首席を強調するな気色悪い。不安定なこんな世で、学院の首席に価値があるとは思わないけど、なんで首席様がここに?」
「俺もお前ときっと同じ目的だぜ?寮が混んでてな!それにお前と違って首席は目立つもので。人だかりができちゃ迷惑だろー?あとお前が何を思っているのか知らないけど賄賂じゃなくて実力で首席になったし!!」
可愛い子ぶっているのかは知らないが、怒ってるアピで頬を膨らましながら私の横り座る彼。
「それに、お前の格好もかっこいいと思ったのは事実だけど、本当はお前と話したかったんだ。その本が好きなやつ同じ歳の奴に居なくてさ。」
そう言いながら私の持っている本を指さしてにっこりと微笑んだ。その百面相する表情はイラつくセリフとは裏腹に、作り込まれた演技と疑うほど純粋なものだった。 ….そして、その表情が本当の感情だったらいいのにと願ってしまう危うさを孕んだ魅力も持ち合わせていた。
「ふん、どうやら、の本が素晴らしいものか理解する脳みそくらいは持ち合わせてるみたいだね。」
「んだよ、冷てぇな!!絶対お前トモダチいねーだろ!!ケッ!!」
「黙れ!!!」
その後は軽く殴り合いになって寮の門限が近くなったから、二人慌てて帰ったんだっけ。今考えても彼の振る舞いには頭にくるがあの時は私も未熟だったから、水に流してやろう。私は決して悪くないが。譲歩しても100:5くらいで彼が悪いが。
その後は…まぁ同じ研究所に配属されたもののなかなか連絡も話も顔を合わせることなく今に至るが…今も私の中で変わらず残り続ける約束がある。
『もしこの地球が滅ぶなら、二人でギリまで生きて二人で朝日を見よう。』
「な?いいだろ?」
裏庭に生えた植物に花が散るのを見て3回目。つまり3年か。
会える時間が次第になくなってきて….あぁそうだ、これが顔を合わせれた最後の日。
意味もない会話と喧嘩を繰り返し、それに息切れを起こしていた頃ふとポツリと呟くように彼がこぼした約束だった。
「…毎度のことながら、やはり君は言う事成すこと全てが急だね。それで一応耳を傾けてやるが、なんで急に?」
「そりゃ….多分これが最後に会う日になるから?ほら最近お前は研究、俺は首席やらで目立ってる影響で忙しい上にお前と一緒で研究もあるし〜。」
「会える時間がないのは認めてやるが、君だけが多忙だと聞こえるのは不適切だ。私は君が裏で手を抜き倒してるのを知っているんだぞ?それに何故これが最後と分かるのか…急にどうしたんだよ。」
「はいはいすまないすまない。別にどうてことねーし。..で、返事は?」
「…君がどうしてもと言うならば見てやらないこともないね、!約束だ。君も破ったらタダじゃおかないからね。」
「…そうか、ありがとな。」
その時見た彼の顔は、珍しく私の方を向かずただ遠い空を瞳に移してその整った横顔に憂いを含んだ笑みを浮かべているだけだった。
まるで私に隠し事をしているように。
なにかあるなら言えばいいのに、友人とはそういうものじゃないのかよ。 いつも土足で人の心に踏み入る癖に、こういう時だけ君は私の心から立ち去る。
「地球が滅ぶなら、か。我ながら子供らしい夢見た約束ごとだ。そんなもの来るわけないのに」
物思いにふけている間にコーヒーはすっかり冷えて温くなっているのを勢いよく飲み込む。
「彼に会えるなら、滅ぶのも…」
言葉を言い切る前に研究室内に不快な警報音が鳴り響く。
思わず耳を塞いだがその大きな音は手の間をすり抜けた。
突如この国に何発ものミサイルが発射された。その中には核もあり___
耳に入った機械音はそう告げる。
鵜呑みにするのも馬鹿馬鹿しい、でもそうかこの国で強大な兵器の発明に成功したと聞いたな。
それを恐ろしく思って先手を持って…?理解はできる。だってあの兵器は一度携わったことがあるが。気分が悪い、今は….
『もし地球が滅ぶなら、二人でギリまで生き残って朝日を見よう』
いや、今は情報の出処と….いやこの情報真実か政府と密接に繋がるこの研究所の警報がなったのだから。デマならすぐに政府から連絡が入って___
チラつく…彼の顔が
そして、あの約束が。
そっと席を立つ、散らかっていた机を無視して、写真に目をやると、ゆっくり部屋を出る。
ただ魔法がかかったみたいに壁を伝い、何も考えずに誘われるように彼の、居る実験室に向かう。
嫌に重苦しい空気の駆け巡る廊下とは反対にドクドクと小道具する心臓が憎らしい。
今、彼は何をしているだろうか
何をしていただろうか。
実験室の扉に手をかざす扉を、開く。
手をかざすと開く自動ドアは心の準備をさせろと止めることも出来ずにスーと小さな音立て開いた。
「なんで….」
そこには倒れた彼とちらかった部屋、机には散乱した薬が置いてあった。 彼は動かない、微笑んだまま目を瞑っている。
「どういうこと….倒れて、脈..」
雨粒みたいに小さな希望を握りしめ、彼の脈を測った。脈は無い、彼はもう死んでいる。死因は恐らく机に散らばる薬か。
もう、警報の音なんてどうでもいい。
その時、悪魔が私の手を取った。入り乱れる感情の中で機械的に、その悪魔に誘われるように、震える手で机に散乱した薬をかき集めて飲み込む。
「…大嫌いだ、君なんか。」
ごくり。と喉から音が鳴る。
「その人の神経を逆撫でする態度も、喧嘩を売ってくる言葉も、距離の詰め方も。 」
けど私はそれに救われた。
頬を伝う水滴は気にしない。拭おうがまた伝う汗か涙かも分かってないそれは薬を飲み込む毎に言葉と共に雪崩ていく。
「本当はひとりが寂しかった。生まれた時から自分が気色の悪いもののように見えて怖くて、苦しかったから…君がかっこいいと言ってくれた時とても嬉しかった。」
「大好きだよ。」
最後の1錠を飲む。するとくらっと世界が回ったみたいに視界が揺れた。頭がくらくら、ふわふわ、ゆらゆら。気持ち悪い。
でも心地いい、体があつい。
まるで手を離した風船が遠い空に飛び立つ時のように離れゆく理性をぼー、と眺めるしかできることはなかった。
彼の体のうえに馬乗りになると、わたしの影で綺麗な顔に影がついてのがもったいなく感じた。けど、今更体制を変える余裕はない。
彼のおでこに軽く口付けを落とした。
そこからほっぺ、くびもと、手に口付けをする。ちゅって心地いい音がなるから夢中になって口付けをする。
「うそつき、ばーか」
子供が悪態を着くようにそんな言葉を吐いた。視界のはしっこに星がふる。ぱらぱら、ぱらぱら。まるで雨みたいだ。
くすりの飲む量が少なかったのかな、きもちいいけど、君のところには行けないよ。どうしたらいけるかな。君にならわかるかな。
「どうしたら私も君みたいに冷たくなれるかな、静かになれるかな。….やっぱわかんなくていい。お前が知ってるのはむかつく、くやし、悲しい?難しいな。」
ぐるぐる感情が入り交じる。視界がカラフルになったり、なくなったり、忙しい。星もまだきらきらしてる。くすりのせいかな。君に触れる手が震えてる。
「君はなんでもしってる。いっぱいまわりに人がいたから、でもいつも寂しそうだった。」
「このまま全部忘れたら、おまえと同じところにいけるかな。…そーだ。ねぇ、二人で全部忘れてバカになってくれよ。」
彼からの返事はないから、代わりに催促するようまた口付けをする。もう起きるわけもないのに君がいつ起きて返事ができるように、とくとくと鳴る脈が分かるように首に手を当てた。
「バカになって、それでこのまま朝日を見よう。それなら、このまま君と別れるのも悪くないから。」
あれ、なんで私はかれと別れようとしているのだろう。
そうか、私は楽になるために君を使って狂っているからか。君がいないこんな世が嫌いで楽になってしまおうって。
「なんて勝手なことだ。」
遠いところで浮かぶ理性が、そう答える。空に帰る理性のせいで、流れる涙はもう押し込むことは出来ない。
ごめん。
もうその理性を足掻く余力はないから、今は離れていくそれをせめて見ないように彼の口に深いキスをする。
一方的に送り付ける唾液がくちゅくちゅと音を立てる度、まるで脳みそが溶けて頭の中で波打っているような気分になる。
大好きで愛おしくて、それでいて憎らしい彼よ。どうか、どうかこの愚行を許してくれないか。
もう時期終わるこの世界に免じて、どうか___
時計は深夜の2時を示している。最後に君の口に口付けをした。すると、あの裏庭に咲いた植物の香りがかすかにした気がした。その香りは、君が私に何らかの返事をしてくれたのだろう。そんな勘違いをしてみる。
「外が”‘明るい”‘なぁ、もう朝か。」