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第2話 時差と、届かない世界のディスタンス
カイザーがイングランドへ旅立ってから、僕の時計は止まってしまったようだった。
いつも隣にいたはずの大きな背中がない。右側を歩く人の気配が消え、練習場はひどく広く、そして寒く感じられた。離れていても、心は繋がっていると信じたかった。けれど、現実は甘くなかった。
新しい環境、新しい戦術。世界最高峰のリーグで揉まれるカイザーは、瞬く間にチームの主力として異次元の活躍を見せ始めた。ニュースを開けば、毎日のように彼のゴールシーンと、熱狂するスタジアムの映像が飛び込んでくる。彼はどんどん遠くへ、僕の手の届かない空へと駆け上がっていく。
「カイザー、お疲れ様です。今日の試合、素晴らしいループシュートでしたね」
時差を計算し、彼が少しでも休みを入れる時間を見計らって送るメッセージ。けれど、返信が来るのはいつも数日後、あるいは一言だけの短いものだった。
『あぁ。そっちの調子はどうだ』
それだけ。電話をかけようとしても、彼には取材やスポンサーの対応、そして過酷なトレーニングがあり、通話ボタンを押すことすら躊躇われた。
会いたい。声が聞きたい。かつて、僕の額に優しく触れた彼の指先を、その温もりを、もう一度だけ感じたい。
会いたい。声が聞きたい。かつて、僕の額に優しく触れた彼の指先を、その温もりを、もう一度だけ感じたい。
けれど、僕らは会う時間すら作れなかった。たまのオフがあっても、カイザーはコンディション調整のためにロンドンを離れられない。僕もまた、ドイツで彼に追いつくための結果を残さなければならず、国境を越えることは許されなかった。
二人の距離は、ただの物理的な距離だけではなくなっていた。世界を席巻する天才ストライカーと、彼を失って立ち止まったままのミッドフィルダー。画面の向こうで眩しく笑うカイザーを見るたび、僕の胸は締め付けられるように痛んだ。彼はもう、僕の額縁を必要としていないのかもしれない。そんな絶望が、じわじわと心の隙間を埋めていった。
夏の穂||フォロバ|低浮
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