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夏の穂||フォロバ|低浮
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第3話 冷たい雨の、美しいサヨナラ
移籍から1年が経とうとしていた冬。欧州チャンピオンズリーグの舞台で、ついに僕たちのチームはイングランドで彼のいるチームと対戦することになった。
ロンドンのスタジアム。冷たい雨が激しく降る中、試合は激闘の末に幕を閉じた。
結果は僕たちの敗北。そして、決勝ゴールを決めたのは、他でもないカイザーだった。
試合終了のホイッスルが響く。歓声に沸くスタジアムの中心で、カイザーはキングの貫禄を纏って立っていた。僕は泥にまみれたピッチの上で、ただ彼を見つめることしかできなかった。
選手たちが引き揚げる静かな通路。他の選手たちがロッカールームへ戻った後、僕は一人、彼を待った。これが、彼と直接話せる最後のチャンスだと分かっていたから。
カツ、カツ、とスパイクの音が響き、角からカイザーが現れた。僕の姿を見ると、彼は足を止め、少しだけ目を見開いた。
「……ネス」
「カイザー。……お久しぶりです。相変わらず、最高に美しいゴールでした」
無理に作った笑顔は、きっと酷く歪んでいただろう。カイザーは僕に近づき、その大きな手で、昔のように僕の頬に触れようとして――途中でその手を止めた。
「……痩せたな、ネス」
「そんなことないです。ただ、あなたのいない毎日に、少しだけ慣れるのが遅くて」
嘘だった。慣れるなんて、一日だってできていない。カイザーは、寂しげに微笑んだ。その表情は、僕が今まで見た中で一番優しく、そして一番切ないものだった。
「俺は、お前のパスを待つのをやめた。お前がいない世界で、俺は自分の足だけで立つ王になった」
「……はい」
「だから、ネス。お前も、俺の影から出ろ。俺を追いかけるな。お前自身のフットボールを見つけろ」
それは、彼なりの、最上級の「別れの言葉」だった。お互いにこれ以上、過去の温もりに囚われていては、前へ進めない。僕たちが一緒にいる時間は、あまりにも美しく、そして互いを甘えさせる毒になっていたのだ。
「……分かりました。カイザー」
ボロボロと、堪えていた涙が溢れ出て、視界が滲む。カイザーは僕の涙を拭うことなく、ただじっと見つめた後、僕のすれ違いざまに、耳元で小さく囁いた。
「愛していたよ、ネス。お前が、俺の唯一の理解者だった」
その言葉を最後に、彼は振り返ることなく歩き去っていった。
通路に響く足音が、だんだんと遠ざかっていく。
もう、二人の時間が戻ることはない。けれど、僕の胸の奥には、彼と過ごしたあの眩い日々が、永遠に消えない光として残り続ける。冷たい雨の降るロンドンの夜、僕は初めてカイザーのいない世界へ、自分の足で一歩を踏み出した。