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海の紅月くらげさん
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「俺が置いていかなければ、あんなことになっていなかったかもしれない」
わかってしまった気がする。今の潤の切ない微笑みで察してしまった。潤の叶えたい願い。
「潤は、このゲームに勝って実里くんのことを救いたいんだね」
潤が心底驚いた様子で目を見開く。彼らは自分たちは泉くんのオモチャだと言っていた。
九條と関わりがある限りは、彼らには自由がないのかもしれない。
実里くんを救うこと。
きっとそれは、九條の家からの解放。
私にはそこまでしかわからないけれど、おそらくそういうことを願おうとしているんじゃないかな。
「内緒にしてね」
「潤……」
きっとその願い事は実里くんは喜ばない。願い事って自分のためにすることだと思う。
誰かのことを願ったとしても願われた本人が必ずも喜ぶとは限らないし、むしろ重みになってしまうこともある。
「それは潤のエゴだよ」
キツい言葉を言っているのはわかっている。でも、上手く言えないけど
「……実里くんは、喜ばないと思う」
潤は表情を崩さなかった。
怒るかと思っていたけれど、そんなこともなく悲しげに微笑んだまま頷く。
「……願い事は、自分勝手でいいんだよ。それにいつだって覚悟はできてるから」
全部わかっているんだ。願い事を叶えたとき、実里くんが怒ることも関係が悪くなる可能性もあるって。
わかっていても、願うのは実里くんのこと。
大事な弟を救うこと。
そんなことしたら嫌われるかもしれないのに、前以上に関係が悪くなるかもしれないのに……それでも大好きな弟を、後悔しているあの日に救えなかった弟を守りたいんだね。
「どうしてましろんが泣きそうなの?」
こんな時でも潤は優しい。
大きな手でゆっくりと私の頭を撫でてくれる。
温かくて、落ち着く。彼の持つ独特のぬくもり。
実里くんにもいつか知ってほしい。潤の実里くんに対する愛情を。そしてきちんと話し合ってほしい。
「実里が君に話した理由わかる気がするよ」
頭を撫でながら潤が穏やかな口調で話しだす。
「ましろんは優しく受けとめてくれる気がするし、でも全てを肯定するわけじゃなくてダメなことはダメって言ってくれる」
「でも……何の力にもなれないよ」
「そんなことないよ。俺らにはましろんみたいな存在は、ずっといなかったから。家族とも距離があって、友達にも家のことは話せないし」
彼らは心の痛みを幼い頃から抱え切れないほど体験してきたのだろう。
だけど守ってくれる大人もいなくて、打ち明けられる友達もいない。
痛みの共有ができる従兄弟たちはいるけれど、みんなそれぞれ苦しい想いを抱えているため相談もできないはずだ。
「こんな話したあとだから言いにくいけど……、誰を選んでもきっとみんな怒らないから、じっくり考えて」
「……うん」
そう、選ばなくてはいけない。
きっとみんなそれぞれ願い事がある。
潤のように。それを知って私は誰を選ぶのだろう。
選ぶことができるのだろうか。
「ごめん、困らせて」
私は答えることができずに、ただ首を横に振った。
「帰ろうか」
「……うん」
すっかり真っ暗になった街中を、潤に手を引かれながら歩く。
「送るよ」
そう言ってくれた潤を断りきれずに家の前まで送ってもらった。
家の前まで来てもらうなんて普段の私なら断っているけれど、なんとなく今日は断りきれなかった。