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夜鐘
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大正
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裏五条
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阿久津浄汰は怒りに震えていた。
彼自身、実に理解しがたい感情であり、大いに戸惑ってもいる。
本来、阿久津にとって味方は駒であり、いかに自分の行動を優位にできるかの1点のみで評価するものであり、敬愛や友誼などがそこに生まれる余地はない。
はずだったのだが、人間は環境や経験で価値観が変わるものである。
阿久津は短い時間だが共に過ごした和泉正春Sランク探索員の、懸命に正しくあろうとする姿にある種憧れに似た気持ちを抱いていた。
その和泉が、実にしょうもない争いの犠牲として倒れる。
義憤にかられるには充分過ぎる理由だった。
「上級監察官様よぉ。俺ぁ、戦闘に志願しても構わねぇよなぁ?」
「構わん。むしろ、現有の戦力では貴様に頼らざるを得んと思っていたところだ」
「あぁ。そうかよぉ。じゃあ、遠慮なくやらせてもらうぜぇ? なんだかよぉ。腹が立って仕方がねぇんだよなぁ。俺も悪党だから、同族嫌悪ってヤツかぁ? ……いや、あの野郎を同族だって思うのも胸糞悪ぃぜ」
そう言うと、阿久津は『結晶』を身に纏う。
「おらぁぁぁ!! 『結晶外殻』!! 敵討ちなんて柄じゃねぇんだがなぁ。和泉さんのよぉ。喰らった分の痛みは倍にして返してやんねぇとなぁ!?」
そこに、もう1人。
立ち上がる戦士がいた。
「おうおうおう! この逆神大吾様もおめぇらの相手をしてやるぜ!! まずはコンピューターおじさんから服を奪う!! さみぃんだよ!! 自分だけモコモコしたコート着て! ずりぃじゃんか!! ねぇ、京華ちゃん! あっくん!! 大吾さんの大吾さんが縮みあがっちまってんだよ!! かわいそうによぉ!!」
阿久津浄汰の決意がたった今、ダメ親父に上書きされて台無しになった。
「おい、上級監察官様よぉ? まさかとは思うが、おい? なんでこっち向かねぇんだぁ?」
「……阿久津。貴様の覚悟、見届けさせてもらうぞ」
「待て、待てよなぁ? 俺ぁ、親父と一緒に戦うなんて一言でも口にしたかぁ?」
「……阿久津。貴様の覚悟、見届けさせてもらうぞ」
「この呪いの装備を持って戦えって言うのかぁ? あんたよぉ、俺がそんなに気に入らねぇのかよ?」
「勘違いするな。私は戦場で好む好まざるなどと言う俗な感情を持ち出したりはせん!! だが、阿久津!! もう、色々と察してくれ!! 最大限の評価をするから!!」
阿久津は冷静に考えた。
敵は2人。
対して味方は4人だが、屋払と青山はハッキリ言って戦力外。
ならば、五楼と自分が1人ずつ受け持たなければならない。
そこは理解できる。だが、どうにも承服しかねる事がある。
なにゆえ足手まといを連れて戦わなければならないのか。
だが、その考えの続きは必要なくなった。
「おらおらおらぁ!! 逆神大吾、いきまぁぁす!! 『煌気極光剣』!! 一刀流!! 『虎居合愚琉』!!」
「あぁ。よーく分かったぜぇ。これが俺の犯した罪に対する罰かよぉ。分かった、諦めるぜぇ。上級監察官様よぉ? こっちのデカい機械野郎は任せとけ」
突進していく全裸の中年男性。
放置していても大丈夫なのはみんなが知っているが、前衛を援護するのが後衛の役割。
戦いのいろはを知っている阿久津は、セオリーを無視できない。
「俺ぁ、なんで裸の親父の背中見ながら援護射撃してんだろうなぁ? ちっ。『二対彗星』!!」
大吾の煌気刀が4番に迫る。
阿久津がほんの少し前に「目標は9番」と言った事を既に忘れているのか、そもそも聞いていなかったのか。
だが、9番が空気を読んだようであり、4番の前に立ちふさがる。
「マスター。ここは私が。雑兵の処理に適したプログラムは複数ある。むんっ」
「おぎゃあぁぁぁぁっ!! なんか普通にぶん殴られたんだけどぉぉぉ!? えええ、お前マジかよ!? スキル合戦で、ガチ殴りしてくるヤツいるぅ!? 普通さ、場の雰囲気に合わせてスキルで応戦するもんじゃんか!? ねぇ、あっくん!!」
9番チェイス・ブラッシュは表情を変えずに大吾の煌気刀を右手で掴み、それをへし折った。
彼の体は全身をイドクロア加工物で覆われており、素手で煌気に干渉する事が可能。
「標的を確認。まずは、この中年から始末する」
「あ、ごめんなさい。なんていうか、ちょっとオレ、いや、あたい調子に乗ってたかも。別にね、あなたを傷つけようとしたわけじゃないのよ?」
「会話による時間稼ぎは無意味。私には通用しな」
「隙ありぃぃぃぃ!! 二刀流奥義!! 『虎死淡々・炭鷹誕』!! ざまぁみやがれ!! 戦場では油断が命取りなんだよ!! げっへっへ!!」
逆神大吾を褒めるのは非常に抵抗があるものの、完璧なタイミングの不意打ちであった。
だが、舞い上がった粉塵が散ると、そこには肩がほんの少しだけ破損した9番が立っていた。
「あ、ごめんなさい。あのね、今のはフロアを盛り上げようかなって思っただけでね。決して、あなたを傷つけようとか、そういう考えはなかったの。本当に。争いって悲しいよね。よし、ここは引き分けってことに」
「煌気充填、70パーセント。『豪拳』、発動」
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!! いでぇぇぇぇぇ!!」
「親父ぃ。邪魔だからどいてろ。『結晶集結投槍』!! ちっ。硬ぇなぁ、おい。……それよりもよぉ。今のスキル、見覚えがあるぜぇ? そりゃ、逆神流だろうがよぉ。どういうことだぁ?」
4番が「んっふっふ」と笑う。
「この9番には、これまでのアトミルカ戦闘データを可能な限りインプットしてあるのですよ! 数々の猛者との闘いの記録から寄り抜いた、強力なスキルの数々!! そこに加わる頑強な肉体!! これこそが! アトミルカに新時代を築く人造人間なのです!!」
「おいおい、マジかよ。こりゃあ、想像以上に面倒なヤツが出て来たなぁ、おい」
9番は表情をまったく崩さず、腕を突き出した。
誰が見ても分かる、追撃の構えである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「煌気充填、60パーセント。『紫電の雷鳥』発動」
9番が繰り出したのは、加賀美政宗が六駆から学んで身に着けた雷撃スキル。
本来は刀から発現するはずだが、9番はノーモーションで手のひらに格納されているイドクロアの核からそれを放つ。
「くそったれがよぉ。『金色星屑盾』!! おい、こいつぁ誰のスキルだぁ?」
「それは加賀美Sランク探索員のものなんでぇ、よろしくぅ!!」
「ガチで強キャラのスキルデータを取り込んでやがんのかよ。……あぁ? こいつマジかぁ?」
阿久津が驚いたのも無理はない。
次に9番が繰り出すのは、彼が最も熟知しているスキルであった。
「煌気充填、80パーセント。『金色結晶流星群』発動」
「くははっ。俺のスキルまで覚えてくれてるとは、光栄だなぁ! くそったれ! 『金色結晶流星群』!!」
阿久津は自分の極大スキルを放たれ、同じスキルでどうにか相殺する。
威力こそオリジナルの阿久津が勝っているものの、完璧な模倣に彼は再度舌打ちをした。
恐らく、五楼京華上級監察官のデータも9番は保持しているだろう。
だが、確実に存在しないであろうデータがこの場には存在していた。
「おらっしゃぁい! 大吾さん、復活じゃい!! 『銀玉確変散弾銃』!!」
「なにやってんだぁ? 親父よぉ……」
大吾の放ったパチンコ玉を具現化した攻撃は、先ほどの阿久津の極大スキルと比較すれば消えてなくなる程度の威力。
であれば、9番にとって防御は造作もないはずだった。が。
「……っ! 被弾、確認。私の予測値をはるかに下回った……?」
「あぁ? ……なるほどなぁ。親父のデータは採るまでもなかったって事かよ。ははぁ? こりゃあ、使えるなぁ」
まさかのキーパーソンに浮上した逆神大吾。
なお、このピンチに際して五楼が一言も喋らないのは、大吾を視界から完全にシャットアウトしているからである。
逆神大吾が死んだら加勢しようと考えているので、今はとりあえず4番とにらみ合っている五楼。
上級監察官のメンタルもここに来て、限界を迎えつつあった。
コメント
1件
めっちゃ熱い回だった……! 阿久津の和泉さんへの義憤からの決意、かっこよかったんだけど、裸の大吾が全部ぶち壊すの笑ったw でもその大吾が「データにない動き」で9番に初めてダメージ与えたのは痺れたな。五楼さんの「視界からシャットアウト」でメンタル保ってるのも草。シリアスとギャグのバランス最高だわ🔥