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「何が何でも、狩野桜志郎に復讐する!」
リビングの床を叩いて決意した香帆は、お腹が空いていることに気付いた。
朝食はヨーグルトとオレンジ・ジュースだった。
昼はクッキーを2枚。夜は食べてない。
最近は食欲が落ちて痩せ細っていた。これでは戦えない。
復讐するには……、
「とにかく食べなきゃ」
香帆は冷蔵庫を開いた。
「アホほど泣いたと思たら、飯か。変わり身がスゴイな」
「決心したから。あの男に必ず復讐する」
「それは、ありがたい。そうしてもらわんと俺が困るんや」
「困る?」
「成仏でけへん」
「えっ? 颯真ってまだ成仏してないの?」
「成仏の意味、知らんやろ」
「死ぬことでしょ。颯真は死んだじゃない」
「死んだらエエいうもんちゃう。
成仏ゆうんは、未練を残さんと安らかに死ぬことなんや」
香帆は冷蔵庫のドアを閉めて、振り返った。
フワリと立った颯真が、こっちを見ている。
そうか…..、
颯真は、この世に未練があって成仏できないんだ。
だから幽霊になって戻ってきたんだ。
香帆は責任を感じた。
「私のせいだね。ごめん」
「成仏でけんまま1ヶ月経ったら、地獄に堕ちるねんて」
『死者面談室』で〈自分が殺された動画〉を観た颯真は、激しく動揺した。
(俺は殺されたんか)
(あの男は何者や? 香帆との関係は?)
(死んでも死にきれへん)
その瞬間、大きな警報音が面談室に響いた。
「な、なんや?」
「佐山颯真さん、現世に未練が生じましたね」
死者面談室スタッフの三途川が、残念そうに言った。
「天国行きが難しくなりました」
「え? なんで?」
「特典③を選んだ方に多い傾向です」
特典③は『死ぬ直前の30分を動画で観る権利』だった。
「動画を観て何らかの『未練』が生じた場合、成仏できず天国に行けません」
「困るやん。どしたらエエん?」
「現世にかえって、未練をなくして下さい」
「かえる? 生き返れるんか?」
「いいえ、生きては帰れません。幽霊になって戻って頂きます」
「幽霊!?」
「注意事項があります」
三途川は、長い〈指し棒〉を持っている。なぜか眼鏡を掛けていた。
「もう、先生やん」
注意事項は三つあった。
一つ、幽霊の姿が見えるのは『未練の原因を作った者』だけ。
二つ、現世にある『人』や『物』に触《さわ》れない。
三つ、1ヶ月以内に未練が消えないと、成仏できずに地獄に堕ちる。
「佐山颯真さんの未練は、【怨念】と思われます」
「おんねん?」
「誰かを【深く強く恨む】思いです」
「そうや。俺を殺したヤツを恨んでるし、香帆も怪しい」
「その気持ちが晴れたら、成仏できます」
「まずは、ボカン! と、一発どついたる」
「それは無理です。相手に触れませんから」
颯真の拳は、桜志郎の身体の中を通過するだけだ。
相手は痛くも痒くもないだろう。
「そや、金属バットで、」
「無理です。凶器を持てませんから」
「ほんなら、車で轢いたら、」
「無理です。ハンドルを握れません」
颯真は首をひねって考えた。
「けっこう厄介やな」
三途川は、姿勢を正して颯真の目を見た。
「それでは1ヶ月以内に怨念を晴らして、現世の未練を無くして下さい。目指せ成仏です」
「わかりました」
『目指せ! 成仏!』と書いた団扇を振る三途川に見送られ、颯真は幽霊になって現世に戻った。
現世で颯真の姿が見えるのは、『未練の原因を作った』香帆と桜志郎だけだ。
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