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なんか…一気に頭が冷えた。

「………」

開いていた口を閉じて俯く。さっきとは違う意味で顔を上げられない。

…急に怒鳴るとか、ガキかよ俺。しかも言ってること支離滅裂だったし…もう消えたい……。

「……陽太郎」

「…はい」

「落ち着いたか?」

「……はい」

終わった。全部おわ……いや、え?… あーー…マジでこんな締まらない終わり方なのかよ。どこまでいっても俺って……。

やば、泣きそうかも。

弓弦に見られたくない。ただそれだけが頭に浮かんで、俺はガタッと慌てて立ち上がった。二日酔いで軽く視界が回ったがそれどころではなかった。荷物をまとめ、俺は店を飛び出そうとして……

「待て待て待て」

弓弦に腕を掴まれた。

「……弓弦、残りはメッセでも良いか?もう昼休憩終わるし」

「いや、面と向かって話そうぜ。大事なことだろ。あとまだ昼休憩猶予あるの知ってるぞ」

「何で知ってるんだよ」

……そりゃ、大事かもしれねぇけどさ。俺達の数年来の友情の終わりだしさ。でも心は割り切れない。逃げ出したくて、俺は弓弦に半分背を向けたまま俯いた。弓弦の視線を痛いほど感じる。それでも動かないでいると、弓弦はぽつりと呟いた。

「……今この手を離したら、お前また俺のこと切るんだろ。高校の時みたいに」

それは初めて聞く、茶化しも何も無い彼の…怒り混じりの苦々しい声だった。

「っそれは、 」

「なぁ、大事なことなんだ。頼むから今度こそ……お前と話をさせてくれ」

ぎゅっと、弓弦の腕に力が入った。

……恋ってのは自分勝手を正当化する。アイツなら気にしないだろなんて誤魔化して、俺もずっと弓弦を振り回していたのか。

「………分かった」

まだ、泣かない。全部が終わるまでは。

俺は静かに席に座り直した。向かいに弓弦も座る。机が揺れて、カランとコップの中の氷が音を立てた。

「で、陽太郎。まず前提なんだが」

「……あぁ」

くそ、こうなったら意地でも華々しく散ってやる!どんとこいや!


「俺、一途な子が好きなんだよな」

「あぁ、一途な子が………」

………?

なんか思ってたのと違うアプローチで振られそう。あれか、俺は一途じゃないからごめんなさいってヤツか。そうか弓弦、俺に情けをかけて……。ん?待て待て待て。

「ちょっ……と待て。その振られ方は納得できない」

「は?」

「俺一途です!高校から弓弦一筋!カテゴライズ的には一途な子なんだよ俺も!」

えーーなんかきょとんとしてる!?お前の中で俺そんな浮気症な男だったの!?

「いや一途なのは知ってるけど。昨日高校からずっとって言ってたしな 」

「えっ」

「だからお前のことも可愛いなぁって思うよって。確かに恋愛対象は今まで女の子だったけど、多分というかほぼ確でワンチャンある」

「ヘァッ!?」

あれっ今何……状況どうなってる?俺振られてないの?わ、ワンチャン?可愛い??どっどどどういうこと……?

「え、い、いや、俺…冴えない社畜だし…」

「はは、狼狽えてる。いやぁ、マジで可愛く見えてくるもんだな」

「カワッ……!?ちが……えなんで…?違うんだよ…俺達釣り合わないし… 」

陽太郎、と弓弦が言った。いつの間にか外れていた視線を弓弦に向けると、ヤツはにんまり楽しそうに笑っていたのだった。

「お、おま……」

「釣り合うかどうかなんて誰にも分かんないぜ?なんせ俺達、『月とスッぺン』なんだから」

「くそぉぉ結局そこ茶化すのかよ!!」

あははっと笑う弓弦はやっぱり格好良い。そんな弓弦の中に少しだけ、子供だった頃の俺達が見えたような気がした。

「今日から全力で口説くからな、陽太郎」

「なんで口説かれる側が口説くんだよ!力関係おかしいだろ!?」

「はははは!……ん?ちょっ…おい陽太郎、何泣いてんだよ」

「はぁーー泣いてねぇし!?汗だわ!なんか一気に気が緩んで汗が止まんねぇだけだわ!」

「……陽太郎…お前本当に可愛いやつだな…」

「可愛いって言うなーッ!」

……少年、この恋心は「良い思い出」なんかに留まるつもりはさらさら無いみたいだぞ。


おしまい

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