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Side翔太
その日の収録は、事前の打ち合わせ段階から、なんとなくざわついていた。
スタッフがやたらニヤニヤしてるし、台本はやけにざっくりしてるし、内容に「番組オリジナル恋愛バラエティ企画」とか書かれてるし。
恋愛?誰が?どこで?
いやいや、俺らに求められてるのそういう路線じゃないだろ。
──とか思ってたら、冒頭の説明がぶち抜きでぶっ飛んでた。
「今回の企画は、“もしメンバーが恋人同士だったら”をテーマに、カップル役で1日過ごしていただきます!」
楽屋が一瞬、固まる。
「いやいやいやいや、ちょっと待って? なんでそうなるん?」
康二が真っ先にツッコんだ。いつものノリで笑いながら。
「だって俺らさ、リアルに付き合うとか無理やん?てか、ツッコむ以前に成立しなくない?」
めめが半笑いで肩すくめて、
「逆にこっちがドキドキするやつ……」
ふっかがぼそっと呟いて、阿部は「これは…演技力が試されますね」と腕を組んでる。
佐久間は「絶対オレ無理だって!照れ死ぬって!」と叫んでるし、
照は「……誰と誰がやるの?」と、なんかもう達観してた。
で、いよいよカップルの組み分けが発表されて──
「宮舘×渡辺」
その音声を聞いた瞬間、俺の思考、ちょっと止まった。
「え? ……いや、え?」
聞き返しても変わらん現実。
モニターにまででかでかと表示された「宮舘×渡辺」。
つまり──
「涼太と、俺?」
「そうだよ?」
スタッフがあっさり答える。
「だって、幼馴染でしょ?空気感抜群だし、息ぴったりでしょ。リアリティ重視なんで」
いやいや、空気感とかリアリティとか、それはあくまで“幼馴染”だからであって。
「なんで“恋人”に昇格させられてんの!? おかしいでしょ!」
そうツッコんだ俺に、佐久間がにやにや笑いながら言う。
「え〜〜〜〜、でも涼太とは長い付き合いじゃん?いけるっしょ!」
「“長い”から逆に無理だって!」
隣にいた涼太はというと、相変わらず淡々としてた。
「……別に、やれって言われたらやるけど」
「軽っ!!」
「翔太が嫌なら、代わってもらう?」
「いや、嫌とは言ってないけど!」
──なんだよこれ。
今さら“恋人役”とか、無理に決まってんじゃん。
涼太と、今さらそんな役、恥ずかしすぎるだろ。
そう思ってた。
収録が始まるまでは──ほんとに。
「じゃあ、いきまーす!3、2、1、カメラ回りました!」
スタッフの声と同時に、リビング風の撮影セットに2人で入っていく。
“カップルの休日”がテーマらしく、部屋にはソファとラグ、コーヒーテーブルにマグカップ2つ。
ご丁寧にクッションまで置いてあって、照明もやわらかめ。
完全に「おうちデート感」出してきてるの、なんなの。
「なあ翔太、どっち座る?」
「えっ……あ、そっちでいいよ。ていうか“なあ翔太”って何その入り……」
「恋人だから」
当たり前のように言うな。
今の、なんの照れもないトーンやったけど!?!?
ほんで普通に距離詰めてきてるけど!?!?
「ちょっ……近い近い!」
「カメラに映るように座るなら、このくらいでしょ?」
「いや、まあそうだけど!」
「……もしかして照れてる?」
「照れてない!てか、お前が自然すぎんの!」
ほんとに意味わからん。
なんでこんなに涼太は平然としてるのか。
たしかに、昔から変に動じないやつではあったけど……これはちょっと違う。
“役”として自然にやってるのか、それとも──
って、いやいや考えるな俺!
演技、演技!これはあくまで番組の一環!プロとしての仕事!
だからって。
「翔太、手。貸して」
「……は?」
「手。そっちの。」
意味が分からなすぎて固まってたら、
なんのためらいもなく、涼太が俺の右手を取った。
指と指が、自然に絡む。
一瞬、心臓が止まるかと思った。
「……ちょ、やりすぎじゃない?」
「何が?」
「……それ、“恋人感”出しすぎだって」
「出すための企画でしょ?」
「いや、でもその……」
言いかけて、目が合った。
涼太は笑ってなかった。
目の奥が、少しだけ柔らかくて。
なんかその感じ、ずるいって。
演技でもなんでも、そんな目で見られたら──
──あ、これ、やばいかも。
俺、今の自分の顔、ちゃんと保ててる?
変に笑ってない?引きつってない?
てか、ドキドキしてんのバレてない?
「じゃあ、そろそろアクション入れてください〜!舘さん、翔太くんに耳打ちして“好き”って伝えてくださーい!」
「はああああ!?!?」
カットの声がかかる前に、たぶん俺の心臓が止まる。
え、ほんとに言うの?
言わせるの?
まじで耳打ちで、言わせるの?
カメラ前で?
というか、涼太に!?
「……いくよ」
ちょ、ちょっと待って心の準備──」
言い終わる前に、涼太がすっと身体を寄せてきた。
距離が、一気にゼロになる。
吐息が耳元にふれる。
肌に、熱が伝わる。
香水でも柔軟剤でもない、涼太の匂い。
その全部が、思考のラインを溶かしていく。
「…………好きだよ」
声は、ほんのささやきだった。
なのに、脳内に直で響いたみたいに、心臓がバクンと跳ねた。
……あかん、これ、冗談でもなんでも、ヤバいやつや。
なんでそんな、自然に、優しい声で言うんだよ。
なんで、笑いながらとかじゃなくて。
なんで──そんな目して、言うんだよ。
カメラの前、照明が当たる中で、平然と涼太は俺の横に戻った。
表情ひとつ変えてへん。
それが逆に、心に来る。
こっちは今、どう顔していいか分からんのに。
演技でしょ、って言い切れたら楽やのに。
でも、涼太の声は、目は、どうしても嘘に聞こえなかった。
──好きだよ、なんて。
そんな言葉、今さら聞いて耐えられるほど、俺は強くない。
笑わなきゃって思って、口元だけ動かしたけど、
たぶん今の俺の顔、全部バレてる。
心臓の音が、耳の中でうるさい。
指先が、うっすら震えてるのに気づく。
……これ以上は、ほんとに戻れないかもしれない。
普通の企画。ただの企画
ただの“恋人ごっこ”のはずなのに。
どうして、こんなに苦しくなるんだよ。
「はい、カットでーす!」
スタッフの声が響いて、セット内の空気が一瞬ふわっと緩む。
でも俺の中の緊張は、ぜんぜん切れてくれなかった。
耳の奥に、まだ涼太の「好きだよ」が残ってる。
くすぐるような声。
あれは演技なのか、それとも──
「おつかれさまでしたー!」
照明が落とされて、スタッフが慌ただしく動き始める。
メイク直し、次の撮影準備。
セットを抜けるメンバーたちの笑い声。
全部、遠くに聞こえた。
俺はその場から動けないまま、座った姿勢で俯いた。
やばいやばい、マジで顔赤い。心拍数戻らん。
絶対バレてる。誰かにバレてる。カメラに残ってたらどうしよう。
──何か、言わなきゃ。
ごまかさなきゃ。
そう思って、無理やり口を開いた。
「……お、おい、あれ普通に“好き”って言うなよ……心臓止まるかと思ったし……」
笑い混じりの声を出したつもりだったけど、
自分でもわかる。どこか震えてた。
視線は合わせられない。
いま目を見たら、なにかバレそうで。
でも──
涼太は、何も言わなかった。
返事も、ツッコミもない。
代わりに、ただひとつ。
俺のことを、じっと見てた。
言葉じゃなくて、まなざしだけで。
まるで、「冗談やって思われてもかまわない」みたいな、
でも「本気じゃないとも言ってない」みたいな──
ずるい。ほんとずるいよ、お前。
ふだんはそんなに目を合わせてくるタイプじゃないくせに。
今日は、どうしてそんなにちゃんと、俺のこと見てくるんだよ。
「……何だよ」
ぼそっと、目をそらしながら呟く。
「見んなって」
視線だけで、心の中をさらわれそうになる。
こんなの、耐えられるわけないだろ。
──ごまかせなかったのは、たぶん俺の方だった。
楽屋に戻ると、他のメンバーたちはもう次の準備に入っていた。
佐久間がストレッチしながらラウに話しかけてて、照は座ったまま台本を読み込んでる。
康二はふっかに何かツッコまれてて、めめは鏡の前で前髪を直してた。
全部、いつもの光景。
変わらない、騒がしい、でも心地いい“日常”。
なのに。
自分の中だけが、どこか取り残されてる気がした。
撮影は、ただの企画。
“恋人役”なんて、与えられた演出。
それ以上でも、それ以下でもない──はずだった。
けど。
あの「好きだよ」は、なんだったんだろう。
わざとらしくもなく、冗談でもなく、
静かに、淡々と。
耳にふれるくらいの距離で、柔らかく、まっすぐに。
あの声が、まだ頭の中に居座ってる。
どうせ、演技だろ。
ちゃんとやっただけだろ。
プロだから。
そう言い聞かせても、胸の奥がざわざわして仕方なかった。
「渡辺くん、メイク直しお願いします〜」
スタッフさんに声をかけられて、反射的に立ち上がる。
「はーいっ」
明るい声を出してみたけど、なんか嘘くさい。
歩きながら、胸の奥の重みが取れへんのを感じてた。
「ねえ、さっきの収録、面白かったね〜」
何気なく隣に来た佐久間が笑いながら言ってきた。
「……え?ああ、まぁね」
うまく返せなかった。
「翔太、なんか顔赤くなってなかった?」
「うるさいな。照明のせいだって」
「ふ〜ん?」
いたずらっぽく笑う佐久間の視線を背中に受けながら、
俺は心の中でずっと、答えの出ない問いを繰り返してた。
“あれって、演技だった?”
“……それとも──”
考えたくないくせに、頭のどこかで、ずっとそれを期待してる自分がいて。
それがまた、ややこしくて、苦しかった。
誰にも言えない。
言ったら、なにかが壊れる気がする。
でも、言わないと、この気持ちの居場所がどこにもなくなる。
楽屋のざわめきの中、
自分だけが、置き去りになってる気がした。
──頼むから、涼太。
その目の意味、今すぐ答え出さないでくれ。
もうちょっとだけ、俺に考えさせてくれ。
―――――――――――
あの撮影から数日。
意識しないように──って思えば思うほど、意識してる。
笑ってるふりも、喋ってるふりも、仕事モードのつもりでも。
気づけば、視線の先に涼太がいる。
たとえば、今日みたいな撮影の合間。
佐久間とラウと3人でゲームの話をしてて、笑ってたはずなのに──
ふと視線がそれた先で、涼太が阿部ちゃんと何か話してるのが見えた。
別になんてことない。
普通の会話。普通の顔。
それだけなのに、胸の奥がきゅっとなる。
なんで、あんな顔で“好きだよ”なんて言ったんだよ。
なんで、いつも通りでいられるんだよ。
こっちは、全然いつも通りになんかなれないのに。
気にしてないふりして、
仕事に集中してるふりして、
ふっかとふざけてるふりして。
でも全部、ふり。
だってそのすぐ後に、無意識に涼太のこと探してる。
そんな自分が、めちゃくちゃ嫌だった。
「お前、最近なんか落ち着かねぇな〜」
ふっかに肩を軽くどつかれて、思わず振り返る。
「は?うるさいな、落ち着いてるし」
「ふーん?まぁ、気のせいかもな」
ふっかの目は、たぶん全部気づいてる。
なのに、なにも言わない優しさが逆に刺さる。
距離をとるほど、気になる。
意識しないようにすればするほど、頭の中に居座る。
仕事中に視線を合わせないようにしてたのに、
たまたま目が合った瞬間に、涼太がほんの少しだけ微笑んだ。
その一秒で、全部崩れる。
──だめだ、やっぱり逃げられない。
あの日、あの耳元の「好きだよ」から。
俺の世界は、確実に変わってしまった。
でも、変わってしまったことを“認める”のが、怖かった。
だって、これが“片想い”だったら──
もう、涼太の隣には戻れなくなる気がした。
なんでもないふりをするのが、最近やたらと難しい。
前は、意識しなければ自然に隣にいられたのに。
今は──
ただ同じ空間にいるだけで、勝手に体が反応してしまう。
たとえば、並んで座るとき。
昔からよくあることだった。
収録の並び順、移動のタイミング、打ち合わせのとき。
“いつもの場所”のはずなのに、
ちょっと肩が触れただけで、息が止まりそうになる。
意識しないようにと思えば思うほど、意識してしまう。
涼太の手の動き、目線、呼吸のテンポ。
普段は気にも留めなかった細かな仕草まで、なぜか全部気になって仕方ない。
「翔太、これ衣装にゴミついてる」
不意に袖をつままれて、ビクッと肩が跳ねた。
「……あ、ああ。ありがと」
声がうわずってる。
なのに涼太は気づいてないのか、いつもと変わらないトーンで返してくる。
「大丈夫。まだリハ前だし」
その笑顔が優しくて、余計に心がざわつく。
「……ごめん、ちょっとトイレ」
嘘をついて、場を離れる。
逃げ出すみたいに、楽屋を出た。
こんなの、情けなさすぎる。
平気なふりをするたびに、自分の未練が炙り出されてくる。
目を逸らすのは、嫌いになったからじゃない。
怖いだけだ。
今、涼太の目をまっすぐ見てしまったら──
あの日の「好きだよ」がまた響いてきそうで。
そこから逃げたら、
ほんとに自分の気持ちに嘘ついたままになってしまいそうで。
俺、まだ怖がってる。
「気づかれてるかもしれない」って思うだけで、
こんなに動けなくなるなんて思わなかった。
けど──このままじゃ、もっと嫌だ。
今の“まま”で涼太と隣にいることの方が、ずっと苦しい。
それでも、次にまた目が合いそうになったら、
俺はまた、きっと逸らしてしまうんだろう。
情けないくらい、自分がわからなくなってる。
――――――――――――――
今日の撮影はスタジオじゃなくて、外ロケ。
バス移動中、座席はくじ引きで決まった。
ふだんなら、特に気にすることもなかったはず。
けど今日、俺の隣に座ったのは涼太じゃなかった。
しかも──
涼太の隣に座ったのは康二だった。
たまたま。偶然。それだけのこと。
なのに、俺の胸の奥が、ぞわっと冷える。
康二と涼太は、前の席で楽しそうに話してた。
声は静かだけど、内容までは聞こえない。
涼太の横顔が、久しぶりにちゃんと笑ってるように見えた。
自然で、リラックスしてて──
なんか、それが悔しかった。
いや、違う。悔しいって言葉じゃ、ちょっと違う。
俺があんなふうに涼太を見られなくなってから、
まだそんなに日は経ってないのに。
まるで、あの日の“好きだよ”なんて、
最初からなかったみたいに。
喉の奥がぎゅっと締まる。
そんなつもりじゃなかったのに。
目を逸らして、話すのを避けて、冗談っぽく流して。
ほんとは全部、ただ怖かっただけなのに。
──「あ、そっちじゃなかったんだ」って、涼太が思ってたらどうしよう。
それが、妙にリアルに想像できてしまった。
あの日の耳打ちを、俺がごまかしたことで。
俺が目を逸らし続けたことで。
涼太は「もう関わらないほうがいい」って、そう判断したのかもしれない。
だとしたら。
もう、このまま。
──戻れないのかもしれない。
気づかないふりをするには、涼太の笑顔があまりにも“自然”すぎて。
追いかけるには、自分があまりにも“嘘をつきすぎて”いた。
心が音を立てて、崩れそうだった。
ふと、目が合いそうになって、
反射的に窓の外を見た。
いつから、こんな風になったんだろう。
──“好き”って言われた日から、
俺は“涼太の隣”に、居られなくなった。
――――――――――
その日は朝から、何をしても上手くいかなかった。
立ち位置ミス、セリフの噛み、スタッフとの確認ミス。
自分でもわかってる。
全部、自分の不注意だ。
でも、原因もちゃんとわかってる。
──目の端に映る涼太の姿。
話しかけられるわけじゃない。
触れられることもない。
ただそこに“いる”だけ。
なのに、それが胸をざわつかせて仕方なかった。
「翔太、大丈夫?」
その声に反応したのは、リハの終わり。
セット裏でひとりで水を飲んでると、涼太がそっと近づいてきた。
気づけば、真横にいた。
昔なら、こんな距離感、何とも思わなかった。
でも今は、心臓が勝手に音を立てる。
「別に。大丈夫だけど」
「……なんか、今日元気ないじゃん」
「うるさいな」
思わず、語気が強くなった。
言った瞬間、自分でもわかってた。
“違う”って。
そんなつもりじゃなかったって。
でも、もう声は戻らない。
涼太が、一瞬だけ目を細めた。
その顔を見た瞬間、さらにイライラした自分に気づいた。
「俺がなんかミスったら、すぐ涼太が気づくのやめてくんない?」
「……え?」
「いちいち心配されるの、逆に落ち着かないんだけど」
本当は、そんなこと思ってない。
むしろ、そうやって気づいてくれることが、
どれだけ救われてたか、俺が一番知ってる。
でも、言葉は止められなかった。
自分の気持ちをうまく整理できなくて。
涼太にだけは知られたくなくて。
なのに、一番涼太の反応が気になって。
「……そっか」
涼太はそれ以上何も言わなかった。
たったひと言だけ残して、静かにその場を離れていった。
その背中が、妙に遠く見えた。
あんなに近くにいたはずなのに。
今、たぶん──俺の手が届かないところにいる。
「……っ、最悪……」
喉の奥で呟いて、頭を抱えた。
どうして、あんな言い方したんだろう。
涼太は何も悪くないのに。
俺を心配してくれただけなのに。
なんで一番、大事な人にだけ──
俺は、こうやってぶつけてしまうんだろう。
自己嫌悪で、胃の奥がぎゅっと重くなる。
優しくされたのがつらくて。
でも突き放した自分は、もっと嫌いだった。
戻れるんだろうか。
あの頃の、涼太の隣にいた俺に。
今の俺じゃ、無理な気がした。
怒鳴ったわけじゃない。
暴言を吐いたわけでもない。
……でも、あの言い方は、明らかに冷たかった。
涼太は何も言わずに離れていった。
いつもと同じ静かな表情。
でも、ちゃんと分かった。
あれは、少しだけ──傷ついた顔だった。
俺はただ、感情をぶつけただけ。
勝手にイライラして、勝手に動揺して、
勝手に心配されて、それにビビって。
だからって、あんな言い方はなかった。
謝りたい。
それは確か。
でも……何をどう謝ればいい?
「さっきのはごめん」って?
それだけで済むと思ってる自分が、また嫌になる。
涼太は、俺の言葉にいちいち反応なんかしない。
たぶん、今日のことも「翔太がちょっと不機嫌だった」くらいで済ませてくれる。
それが逆に、しんどかった。
ほんとは、心配してくれたことが嬉しかった。
でも、それを素直に言えなかった。
好きだよって言われたあの日から、
俺は“言えないこと”が増えすぎた。
思えば、ずっと甘えてた気がする。
涼太がそばにいてくれるのは当たり前だと思ってた。
でも今、その“当たり前”が、自分の言葉ひとつで消えそうになってる。
……このままじゃ、だめだ。
ちゃんと、向き合わなきゃ。
でも、どうやって。
“ごめん”って一言で足りるほど、軽くない気がする。
“本当は嬉しかった”って伝えたら、気持ちがバレてしまいそうで怖い。
でも、言わなきゃ。
ちゃんと伝えなきゃ。
じゃないと──このまま、離れていく気がする。
胸の奥に、じくじくと刺さる後悔を抱えたまま、
俺はひとり、楽屋の隅で拳を握ってた。
言葉が出てくるまで、もう少し時間がほしかった。
でも、時間をかけすぎたら──今度こそ、手遅れになる気がしてた。
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