家に帰りついたすちは、ドアを閉めた瞬間、 その場に崩れ落ちそうになる足をなんとか踏ん張った。
部屋の中は静かすぎた。
まるで、世界から音が消えたみたいに。
靴を脱ぐのも忘れたまま、すちはゆっくりと壁にもたれかかる。
さっきのみことの涙が、まだ瞼の裏にこびりついて離れない。
(……ごめんね、なんて言ったけどさ)
喉の奥がひりつく。
(本当は、離したくなんかないんだよ)
自分の胸を爪で掻きむしるみたいな痛みが走る。
呼吸が浅くなり、胸が苦しくてたまらない。
気づいた時には、
すちは床に膝をついていた。
指先がじん、と痺れる。
「……っ……あぁ……」
声を出したら崩れるとわかっていたのに、
こらえきれなかった。
唇を噛みしめる。
それでも、こぼれる。
「……なんで俺……離したんだよ……」
乾いた部屋に、すちの声だけが響く。
「抱きしめて……そのまま、離さなきゃよかった……」
額を両手で覆うと、震えが止まらなかった。
涙はこぼれ落ちるというより、勝手にあふれ出していく。
「みこと……」
名前を呼ぶと、それだけで胸が裂ける。
「……ほんとは……俺……みことの全部……俺だけが見てたいのに……」
壊れかけた独白が、暗い部屋にぽつりと落ちた。
「離れたくない……離れたくないのに……」
苦しいほど胸に手を押し当てる。
「……これ以上近くにいたら……巻き込むだけだろ……っ」
わかってる。
だから手を放した。
傷つけたくなかったから。
でも。
それでも。
みことが泣きながら『いなくならないで』って言ってくれた声が、 耳に、心に、何度も蘇る。
こらえきれずに、 すちはとうとう膝に額をつけて泣いた。
誰にも聞かせるつもりのない、
壊れそうな泣き声。
「……会いたいよ……みこと……」
掠れた声で呟きながら、
すちは震える肩を抱きしめて、ひとり深い闇に沈んでいった。
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