その夜、みことは眠れなかった。
ベッドに入ったのはいつもより早かったのに、 目を閉じてもすちの背中が浮かんでくる。
『……ごめんね』
あの微笑み。
手を離された瞬間の冷たさが、何度思い返しても胸を刺した。
考えれば考えるほど、 息が苦しくなる。
胸の奥がずっと落ち着かなくて、 寝返りを打つたびシーツが湿っていく。
自分でも気づかないまま、泣いていた。
「すち……」
名前を呼んだ声は掠れて震えた。
返事がないのは当たり前なのに、 それがこんなに怖いと思わなかった。
みことは枕を抱きしめたまま、 何度も何度も浅い眠りに落ちてはすぐ目が覚める、 そんな夜を過ごした。
目覚ましが鳴った時、 みことはまともに起き上がれなかった。
鏡を覗くと、 目元が赤く腫れて、涙の跡が線みたいに残っていた。
(……やば……)
慌てて水で顔を洗っても、 赤みは消えない。
目の下にはうっすらクマが浮かんでいる。
顔を隠すようにマスクをつけて、 学校へ向かった。
校門をくぐるだけで胸がぎゅっと縮む。
すちがいるかもしれない。
目が合うかもしれない。
でも──避けられるかもしれない。
全部怖い。
足取りは重くて、 教室のドアに手をかける手も震えていた。
(すち……来てる……?)
そっと中を覗くと、 まだすちはいなかった。
安心したような、 余計不安になったような、 複雑な気持ちが胸に広がる。
席に着いた瞬間、 友達が「大丈夫?」と声をかけてきた。
「……うん、ちょっと寝不足で」
みことは笑おうとしたけど、 声が震えていた。
誰も知らない。
昨夜、どれだけ泣いたかなんて。
誰も知らない。
すちの『ごめんね』が頭から離れないことも。
みことは窓の外を見つめる。
今日、すちと目が合ったらどうしよう。
話してくれるだろうか。
避けられるだろうか。
それとも……。
考えるほど胸がざわつく。
(会いたいよ……すち……)
その呟きは、
誰にも聞こえないほど小さかった。
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コメント
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この物語めちゃめちゃ好きです😭💞 結ばれて欲しいけどどうなるのか毎回楽しみです...!