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「はい、昨日結婚をいたしまして。正式なご挨拶などはこれからになりますが、夫婦ともども、宜しくお願い致します」
「はー……こりゃまた…おめでとうございます」
寝耳に水的な話だったため、橋本店長は広いおでこをしきりにかいている。
「それより橋本さん、今日はいろいろとありがとうございました。あれからフジノ商事さんも喜ばれていましたよ」
あれ、今、フジノ商事って言ったよね。
水島君が勤めているのもフジノ商事って言ってなかったっけ?
「ほんとうですか!? 社長、どうか、どうかうちを助けると思って、何卒、M&Aのお話をうまく進めていただければ……!」
「あー……もちろん頑張ってプッシュしますが、決められるのはフジノさんですから、ご期待に添えられない場合もあることをご承知おきください」
「わかっています。はい、それはもう」
「できる限りの尽力はいたします。また視察に訪れると思いますので、その際は宜しくお願い致します。では、プライベートのため、失礼します」
睦月君は爽やかな笑顔で挨拶をやってのけ、スマートに会話を終わらせた。
うん……すごい。シゴデキな一面を見た。
私の旦那様ってすごいのね。
「ごめんね、仕事の話になっちゃって」
店長に聞こえないよう、少し離れた所で睦月君が謝ってくれた。
「ううん、平気。今日のお仕事先ってマルヨーさんだったのね」
「そうなんだ。でも、クライアントが関わっているから詳しい内容は話せない。今のは聞かなかったことにしておいてね」
「わかったわ。睦月君の迷惑になるようなことはしないから」
「理解してくれてありがとう」
水島君がフジノ商事で働いているってこと、言っておいた方がいいのかな?
でも、お仕事の話だからあまり口出ししないほうがいいかも。
会社で会うことがあれば、お互い自己紹介だってするだろうし、変に伝える方がよくないかな。
「じゃ、帰ろうか」
「ええ」
買い物を済ませ、睦月君の住まいに戻ってきた。洗礼された造りのエレベーターに乗り込み、下界から一気に天上界のような空間にワープし、煌びやかな室内に足を踏み入れる。
なにもかもが広い。玄関も、部屋も、リビングも。ガラス張りのリビングから一望できる夜景はキラキラしている。まるで黒い海に小さな宝石が散りばめられたような感じだ。
こんなところ、庶民はぜったいにお呼びでない場所じゃない…。
「先生、今日もいちにちお疲れ様でした。お風呂わいているけれど……よ、よかったら……い、いい、いっしょに入ってみる?」
なんとお風呂に一緒に入らないかと打診が来た!
「いっしょ!? や、そそそれはちょっと…」
謹んで辞退した。
「ご、ご飯の用意もあるから! あのっ、し、シチュー煮込んでいる間にっ、睦月君が先にお風呂入ってきて!」
「……そっか、残念。じゃ、また明日誘うよ」
明日も誘われるの!?
ドキドキするからやめて欲しい。
睦月君は大人しくお風呂に行ってくれたので、急いでご飯を炊いてシチューの用意をした。睦月君、ビーンズサラダが好きだったから、オニオンスライスと混ぜたやつを作ろう。シチューだけで足りないよね。ナポリタンでも作ろうかな。そういえばポテトチップスも好きだったなぁ。よし、やろう!
料理は小学生の頃から店のお手伝いをしていたから、多分他の人よりもずっと手際はいいと思う。時短であれこれ作った。
材料をそれぞれ切ってシチューを煮込み、パスタを湯がいてフライの準備。出来上がった順に並べていると、白の手触りのよさそうな高級ガウンを着て色っぽい姿の睦月君がリビングへ現れた。
ドキっとした。
20歳なのにダダ漏れる色気が半端ない…。小悪魔っぽい目線に、お風呂に入ったから頬が紅潮している。さくら色に染まったほっぺに唇。艶のいい肌に少し濡れた髪。
妖艶以外の何者でもないっ!!
どうしよう。ガウンの下に見える白い肌にくらりとしてしまう。ドキドキして目のやり場に困った。
「先生……僕がお風呂に入っている間にこんなご馳走…しかも僕の好きなものばっかり……嬉しい、ありがとう!」
頬を紅潮させて喜ぶその姿…かわいいっ、尊いッ!
キュンキュンしちゃうよ。
年下の旦那様は今の私にとって危険すぎる……!
「お腹空いたぁ。早く食べたい。いいかな?」
私をじっと見つめて睦月君が言った。
ひっ……!
まるで私を食べたいって言っているみたいに思えて仕方ない。あああ、そんなわけない、そんなわけない、そんなわけないから!!!!
勘違いしちゃだめよ、佑里香!
睦月君がかわいいからって手を出したら犯罪になるッ!!
そもそも処女だからソッチの経験はいっさい無いので、手を出すもアレもないけれど…。これ以上見つめられたら危険!
「そ、そうね。食べよっか」
ちょうどトースターで焼いていたフランスパンが焼けたので、お皿に盛ってテーブルに並べた。
「先生、こんなにたくさん……ありがとう。嬉しい」
潤んだ瞳を向けられて目のやり場に困った。睦月君のこの視線に私は弱いのよぉぉぉ…!
なんでも許したくなるし、なんでも叶えてあげたくなる。子供のように純粋で無垢な瞳。
「昨日のような失態はNGだから、今後、アルコールはやめておくね」
「わかった。お洒落に飲めるように炭酸ジュースを用意しておいたから。気に入ったらたくさん飲んでね」
「ありがとう」
睦月君が用意してくれたのは、生の果物を絞った炭酸ジュースだった。オレンジの香りにほのかな甘みがするジュースはとても飲みやすくておいしかった。
高級なセレブの味だ。庶民には無縁の味に思えた。