コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「急に何なの?お前に色々言われる筋合いねぇから」
「男に好かれてるって評価してくれたから、アドバイスしてあげたんだけど」
「自分の立場分かってんの?マジウザいんだけどこいつ」
「ウザいのはどっち?人の話も聞かずに私以外の人の悪口も言って」
「ちょっと黙ってろよ!」
手を振り上げられたから、当たらないように手で防ごうとしたけど、他の子に押さえつけられてしまい、されるがままに何度か叩かれた。
「い゛った!!」
1番最後にくらった1発は尋常じゃないくらいに痛かった。鈍い痛みが左側のこめかみに広がる、鈍い痛みとは別にジンジンするようなヒリヒリするような痛みも感じて左手で顔を抑える。最後に叩かれた勢いが強くてしゃがみ込んでしまった。
ギャーギャーと騒がしくしてしまったからか、遠くからこちらへと、ざわざわとした声が集まってきてるような気がした。
「ちょっとやりすぎじゃない?」
「何言ってんの、このくらいどうってことないでしょ、行こう」
「ね、ねぇ…指」
五十嵐を叩いた女の子は友達に指摘されて自分の指を見ると小さな悲鳴をあげた。
「友香ちゃんっ!」
聞き慣れた声の久しぶりに聞く呼び方にほんの少し焦りを感じる。駆け寄ってきたその人はしゃがみこんで、私の顔を覗き込んでくる
「どうしたの?何があったの?」
痛みに耐える為に強く閉じていた目を開ければ、瞳を揺らす彼の顔が見えて、心配させまいとヒリヒリする部分を隠したまま顔を上げる。
「ますみん、何でもないよ大丈夫」
「……っ」
顔を歪める真住から、自分を叩いた女の子の方へと目線を移す
「もう行ってもいいかな?」
「……私っ」
声を震わせる女の子はその場から立ち去ろうとして私に背を向けた。
「待って」
「っ!」
「何があったのか教えてくれない?」
彼女を引き止めたのは真住。五十嵐に寄り添う真住の目は普段の優しい色とは似ても似つかないものだった。
核心に触れるようなことは言わずに喧嘩になって手が当たってしまったのだと、簡単に説明した。
「その時に手が当たっただけだから」
「…そうなんだ」
彼女は私の話に乗ってくれた。そりゃそうだ、あんなこと好きな人に知られたくはないだろうから。
「わざとじゃなかったの、ほんと目に当たらなくて良かった」
女の子のその台詞を耳にした瞬間、真住は目の色を変えた
「良くはねぇだろ…」
「え?」
「顔に怪我させといて良かったはねぇだろ」
彼が女の子相手に手をあげるなんてことは考えられないけれど、しゃがんだまま女の子を見上げる彼の目つきは女子に向けるようなものではない威圧感があった。
「ますみん、大した怪我じゃないから」
「謝ったの?」
「えっ」
「顔に怪我させたんだよね?謝ったのかって聞いてんだけど」
「あ…えと、ご、ごめんっなさ…」
「俺に謝るなよ、謝る相手違ぇだろ」
「ますみん、やめて。大丈夫だから」
「友香ちゃん、ちょっと黙ってて。自分が顔怪我させられたらどう思うの?何とも思わないわけ?」
ダメだ、聞こえてない
私の方を見ようともしない
女の子も普段とは違う真住の様子に怖くて怯えてる
完全に怒ってて、周りが見えなくなってる彼をどうしたら冷静にさせられるだろうと悩んでいたら、突然誰かに左手首を掴まれた。
怪我を見られないように顔を手で抑えたままそちらに視線を向ける。
「手、離して」
「瀬南くん」
「顔見せて」
瀬南くんの手のひらを感じて、初めて自分の手がかなり冷たくなってることに気づいた。
「五十嵐」
瀬南の真っ直ぐな声に五十嵐は観念したようにゆっくり手を離した。瀬南と五十嵐のやりとりは、その場にいた全員が聞いていて、五十嵐の顔に注目が集まった。
「…っ」
五十嵐の怪我が視界に入ると真住の怒りに満ちた目は、一瞬見開らかれて綺麗な瞳が揺れた。
「っ…友香ちゃん、顔が…」
「…えっ、血が出てる」
「私、こんなつもりなかったの…」
皆が私の顔を見て口々に何か言っているのを聞いていたら背中に温かい手を添えられて、掴まれたままの手を優しく引き上げられた。
五十嵐が立ち上がると、瀬南は血のついた手が何処かに触れないように掴んだまま彼女の体を支えるように肩を抱いた。
「五十嵐、保健室行くよ。佐久間、慶も連れてきて」
「わ、わかった!」
瀬南が五十嵐を支えながら佐久間に指示を出す。その言葉で初めてその場に友人も駆けつけてくれていたんだと知った。
「せなみくん、これ…悪目立ちするよ。1人で歩けるから」
「こんな時まで他人の心配?本当に悪い癖だね」
私の歩くスピードに合わせて、ゆっくり歩いてくれている。隣を見上げてみたら、彼は真っ直ぐ前を見ていた。
「大丈夫だよ」
「気付いてないの?さっきからずっと体震えてる。手も冷たいし、顔を怪我してるんだから大人しく支えられてなよ」
「平気だよ、たいして痛くないから」
その言葉に足を止めた彼は私を見つめてきた。
「本当に痛くないの?」
「……」
「僕の前で、本当にそう言い切れるの?」
あぁ…ずるい。
そんなふうに真っ直ぐに見つめてくるなんて
瀬南くんの前で、これ以上見栄を張ることなんて出来なかった。
「っ……痛い。」
「うん」
「勢いが強くて、手がぶつかっただけでも痛くてっすごく、ジンジンしてる。ここだけすごく熱いっ…痛いよ」
「…そうやって言えばいいのに。何でいつも他人のことばっか気にするかな」
ゆっくりと歩き始めた彼は私の身体をしっかり支える為か、さっきよりも少しだけ自分の方に優しく引き寄せてくれた。