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怪物が迫って来る。私は構わずにクリスタルを探す。唯一私の持っている、「思い出の鍵」を握りしめて。スピーカーからは「無駄だ!諦めろ!」と聞こえる。足音はどんどん近くなる。船の揺れはどんどん強くなる。1階の水はどんどん迫ってくる。2階の一部は既に浸水している。操り人形と化した少女も追いかけてくる。
でも、諦めるわけにはいかない。私は強い光を放つ物の所へ向かった。
そこには、ゲームに出てきそうなクリスタルが置いてあった。そこには鍵穴が付いていた。私は持っていた鍵を差し込み、鍵を開ける。
眩い光が辺りを包む。少女の操り糸は切れ、正気を取り戻した。真後ろで何かが溶ける音がした。私は振り向き、かつての親友の名を呼ぶ。
「レイ君!」
その怪物の体はみるみるうちに小さくなり、レイ君が姿を現した。
紫のリボン。彼が大切にしていた物。この船では彼の大切にしていたクマのぬいぐるみがたくさん入っていた。彼を嫌い、忘れ去り、置き去りにした人も沢山いた。クリスタルはその怨みも吸収し、シズハの母親や他の皆を蘇らせたものの、それらは怨みに染まった存在となったのだろう。
「ムギちゃん・・・ごめんね、ボク・・・ただ、仕返しがしたかった。怨みを持った者が集まれば、きっと復讐できると思った。でも、皆に迷惑かけちゃって・・・本当に・・・ボクってバカだよね。ムギちゃん、今までありがとう。少しの間だったけど、色々できて楽しかったよ。」そう言って、塵になっていった。にっこりと、とびきりの笑顔を見せながら。直後、私の視界がぼやけ始めた。意識が遠のく・・・
・・・気がつくと、私は自室にいた。今までのは全て夢だったのだろうか?
何となく、ニュースを見る。
「10年程前に行方不明になっていた大手玩具製造会社の輸送用の船が引き上げられました。10年もの間水中にあったにも関わらず、全員気を失っているだけで、命に別状は無いとの事です。」
私は安心の涙を流した。あれは夢では無かった・・・のかもしれない。
突如、スマホが鳴る。電話がかかってきた。相手はカナだった。
「おーい、もうすぐ部活始まるよー!早く来なー!」
私はすぐに部活に向かった。
セミの声がうるさいくらいに鳴り響く。
クヌギの木には沢山の虫が樹液を求めてやってくる。
部室に着くと、カナとシズハが待っていた。「おっはよー!」「おはようございまーす。」シズハはもう、ノートを持っていなかった。聞いたところによると、シズハのお母さんはすぐに元気になったらしく、デザインの担当は再びお母さんがやる事になったらしい。シズハのお父さんも元気になり、職場は明るく、株も上がってきたらしい。
いつも通り、部活が終わる。私は何となく、公園へ向かう。
特に何も考えず、ブランコをこぎ始めた。
「やっほー。」と、聞き覚えのある声。私はすぐにブランコを降り、そこへ走る。
目の前には、紫色のリボンを髪に着け、クマのぬいぐるみを抱きかかえている男の子がいた。何度も再会を望んだ人が、そこにいた。私は驚きで言葉が出ない。そんな中、男の子は私に言った。
「久しぶりだね、ボクの親友、ムギちゃん。」
私達の頬を涙が伝った。
夏休み。サンサンと照りつける太陽、蜜を求め現れる客、クヌギのレストラン。葉は緑に染まり、未だ枯れゆくことを知らない。そんな日に私達は、何にも操られない自由の下で、叶わなかった、届かなかった想いと願いを叶えた。
「おーい!」と、別の声がした。
カズキ、ユキ、タカシだった。
「今お前ら暇か?遊ぼうぜ!」
「うん!今行く!」涙を拭った彼は、すぐに私の手をとった。「さ、行こ!」私は笑顔で頷いた。
過去の私へ。今、私は守るべきものを守りきれたよ。改めて、これからも大切にしていこうと思う。もう私達は操り人形なんかじゃない。私達の道を、私達なりに進んでいくよ。決して諦めずにね。
私は大切なものをずっと守っていくつもりだよ。
私の友達、私の個性。
そして、レイ君。
おしまい。