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このままどこか遠くへ行こうよ。

 呆気にとられたまま手首を握られてその場に合わせて足を地面に叩きつけていた。疲れて息を浅く吐きながら待てと声に出すけれど抵抗する暇もなくただ走ってどこかも分からない場所に連れていかれる。

 誰もいない静かな路地をただただひたすらに音を響かせて走る。

 「どこに行くんですか」

 「言った通りのどこか遠く」

 そんな返事にただただ呆れて、そんな遠くになんて行けやしないと心の奥底で思っていた。

 いつもの彼ならへらへらしてて、疲れたら泣きついてお腹を空いたらそのままそういう、そんな愛らしいどうしようも無い子だからだ。

 フェリシアーノ、彼の名である。

 フェリシアーノは突然菊に遠くに行こうと言い出した。国であることのストレスなんじゃないかと言うくらい、人間の駆け落ちのようにそう望んだ。痛いくらい骨が軋むくらい手首を掴んで離さない気でいるのだろう。ただ心地よさそうにこれ以上ないくらい笑っていた。

 菊はそんなフェリシアーノを信用しないかのように真顔で着いてきた。

 そんな菊が連れてこられたのは日本の駅で慌てて切符を買って手を離されないから逃げないと約束をしてフェリシアーノと同じ切符を買った。フェリシアーノは信じて待ってくれていた。それでも怖いのかやはりすぐに手を繋いできた。すぐに電車は来て走って乗る。駆け込み乗車はやめてくださいと注意される始末だ。

 「ねえ、どこに行くんです?」

 「海」

 「へ?フェリシアーノくん行き方分かるんですか?」

 「分かんない!でも日本の海、みたいな」

 フェリシアーノは窓に顔を向けて愛しそうに日本というひとつの島国を見つめる。本当に心中みたいなことを好む。ロマンチストさんだ。

 行き方が分からないなんて言うから落ち着いて優しい声で菊は言った。

 「行き方を教えますから、とりあえず次はあの駅で降りましょうね」

 「!うん」

 そんな言葉に嬉しくも悲しくもなったのかなんとも言えない顔でフェリシアーノは菊をじっと見つめて見せた。

 がたんがたんと2人で揺すられ笑いあって、時折切なくてただ手を繋いで海に向かった。

 走って走って、最初はフェリシアーノが連れ出していたのに、今では道がわかる菊がフェリシアーノを引っ張っている。

 慌てたせいで転びそうになった時、フェリシアーノは掴んでいた手を引っ張って助けたりもした。思い出をひとつずつこの長い道のりで作って見せた。

 田舎の海だ。こんな季節に誰かいるわけもない、こんな時間に誰かいるわけない。そんな風に海に入った。浅くて足だけ冷たくなって。

 人外と言えど痛みのある2人はその辺に落ちている石や貝で足を怪我するくらいただただ2人だけの世界を、2人だけの恋を楽しんだ。

 普段なら菊はこんなことはしないし、怪我をしたらすぐ手当をするのにフェリシアーノと笑い、フェリシアーノの手を取り華麗に踊って見せた。着物も洋服も2人で濡れて寒がって。水がとても美しく見えた。こんなに広いのにいつかどこかには陸があって、大陸にさえつけば海なんて終わってしまって。そしてまた広がっている。

 好きだよなんて言われなくても伝わってくるのに沢山沢山愛を叫ばれて、それに答えるように相槌を打った菊はまるでこの苦しい人生が終わるかのようにフェリシアーノに希望を見せられた。

 死ねないのが悲しい、叶うことの無い願いだけれど人間になりたい。この国がいつまで続くか分からない。苦しいのだ。もしこの国が消えて私が消えても、まだまだ生き永らえる者がただただ私を思うのならそれは良くないのだ。相手を愛し思っているからこそ互いに苦しむのだ。

 もし2人で死ねるのならそれは最高峰の幸せだろう。故に涙が出て、汗かも海水かも分からないくらい疲れて濡れて美しい海にひたっていたい。

 菊は不意にフェリシアーノの手を繋いだ。

 痛みは感じる。それでも溺死という心中を望みこの恋を永遠にするなら死ねなかった時どうしたらいいのか分からない。

 だってきっと死ねやしないから。

 「もし死ねなかったらどうしますか」

 「え?」

 フェリシアーノは菊の質問にわざとらしく疑問の声を出したのだ。

 「そのために来たくせに」

 菊は珍しく口調を乱し、フェリシアーノの手をただ強く握った。

 「そんな悲しい顔をしないで」

 フェリシアーノは真っ直ぐと海を見ていた菊の顔を両手で頬を触って無理やり横に向かせた。悲しそうな瞳は互いに同じであった。

 「大丈夫だから」

 真っ直ぐ見つめられたせいで菊はひたすら泣いた。ぐしゃぐしゃになった顔を涙を貯めた瞳でフェリシアーノは見ていた。

 苦しい。ただそれだけだった。人外であることが全ての人たちを背負っていなければいけない責任が、国民という私たちの子供たちへの大きな感情が、国として生きなきゃいけないという使命感と自分らしく生きたいという人間のような感情が2人を苦しめた。

 フェリシアーノは泣いている菊を慰めるように口付けをした。

 伝わるよ、愛しているって。

 足は怪我だらけで全身寒さでふるえて。国の化身がこんなので国民は大丈夫なのかなんて2人に考える暇はなかった。

 アポなしで遊びに来たフェリシアーノとそれに付き合ってこんなことになってしまった菊。なんだかその事実でさえ愛おしく面白おかしくてただ笑って笑ってキスをした。

 重い足を動かして深く深く水に浸かっていき、寒さでふるえて怖さなんて争いばっかりで薄れていて。フェリシアーノが冷たいと絶望したような深い瞳で呟くのを見た菊は優しくそして確かに手を握ってあげた。

 「大好きだよ」

 「ええ、私も」

 なんて2人でいいながら、足がどんどんつかなくなっていって。溺れた。

 泳ごうとだなんてしなくてただ苦しく泡を吹いて、嗚呼死ねるんだと思えたくらいの苦しさに肺も痛くなって。周りは真っ暗なのに手の感触はただある。そのうち感覚も分からなくなる。

夜だから誰もいない。海は寒い。冷たい。死にたい。

 そう強く願った時2人の記憶はとだえた。

 心中できたのかと思えばそうではなかった。菊が目を覚ました時、ものすごく心配をした自分の愛し子を見た。目を覚ました時良かった生きていたと泣いて喜ぶものが大勢いた。

 「フェリ、シアーノくん、は?」

 「イタリア様はお帰りになられましたよ、連絡をとってしばらくして帰られました」

 「そ、ですか」

 真っ白い病室。苦しかった記憶が鮮明に残った菊はそれをトラウマなんて呼んだりはしなかった。人差し指と中指を動かし生きてしまっていることを実感して、心の奥底で安心していた。どうせ死ぬことなんてないのだから。

 フェリシアーノは強制送還され、あちらもあちらで心底心配されていたようだ。菊は国民に謝り後でイタリアに行きフェリシアーノに迷惑をかけたことを謝ると話した。

 人外のせいでとくに異常はなく、ただ眠りについているだけとしか言われなかったらしい、傷も一夜明かせば完治してしまうほどだからだろう。

 1日近くでお互い目を覚ましたらしい。

 「すみません」

 「大丈夫ですよ、祖国様」

 「ありがとうございます」

 ゆっくりと口にする。祖国様という言葉で菊は自分は国であるのだと思い知らされた。

 (嗚呼、苦しい)


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心中パロ大好き女です バッシュおにいたまはお誕生日おめでとう🎉

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