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「……色々言ったけど……結局、ここで泊まりなか」エンゲルが教室を見回しながら言った。
教師たちが、すべての生徒に学校での寝泊まりを命じた。
机はすべて壁際に寄せられ、黒板の前には簡易マットと毛布が並べられている。
fpe――そう呼ばれるこの学校で行われる、臨時の“キャンプ”。
だが、誰も楽しそうではなかった。
「キャンプって言うより、隔離……」
バブルが苦笑しながら毛布を広げる。
「理由、説明されないのが一番怖いんだけど」
リンクは窓際に立ち、外を見ていた。
夜の校舎は静かすぎる。
風の音すら、どこか抑え込まれている。
「リンク、座らないの?」
エンゲルが声をかける。
「あとでいい」
短い返事。
背中には、マスターソード。
抜かずとも、そこにあるだけで意識が研ぎ澄まされる。
教師の足音が廊下を通り過ぎる。
「消灯する。朝まで教室から出るな」
「異常があっても、呼ぶまで待機しろ」
説明は、それだけだった。
灯りが落ちる。
闇の中で、エンゲルが小さく息を呑む。
リンクは、アカリバナの種をまいて、光源を作る。近くのバケツを被せ、光を抑えた。
2人は一安心する。
「……昼のこと、まだ頭から離れない」
「教室、壊れるし……」
「私も」
バブルが囁く。
「先生たち、あきらかに知ってたよね……“ああいうの”が来るって」
リンクは、二人の会話を遮らない。
ただ、扉、窓、天井の角――
すべての侵入口を順に確認する。
(来るかもしれない)
確信はない。
だが、あの“怪物”が一体で終わるとは思えなかった。
エンゲルとバブルは、やがて言葉を失い、毛布にくるまった。
呼吸が、ゆっくりと揃っていく。
眠った。
リンクは、座って壁にもたれ、目を閉じない。
剣に手は伸ばさない。
だが、いつでも動ける距離に置いている。
時計の秒針が、異様に大きく聞こえた。
カチ、カチ、カチ。
廊下の奥で、何かが軋んだ気がする。
風かもしれない。
そうでないかもしれない。
リンクは、わずかに姿勢を変える。
(……夜は、嘘を隠す)
この学校は、昼は“教育の場”を装い、
夜になると、本来の顔を隠さなくなる。
敵が来るなら、
生徒が最も無防備な、この時間だ。
リンクは、眠らない。
エンゲルとバブルの背中を守るように、
静かに、ただ待ち続ける。
夜が、深く沈んでいく。
何かが起きるのか、
それとも――何も起きないこと自体が異常なのか。
答えは、まだ来ない。
だがリンクは確信していた。
この世界は、
待つ者を、必ず裏切る。
だからこそ――
彼は、朝まで目を閉じなかった。
実力行使編 ー完ー
キャンプと陰謀編 に続く