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nanami
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席替えの日は、いつも少しだけ緊張する。
誰の隣になるかで、その後の学校生活が変わる気がするから。
黒板に貼り出された席順を見て、私は小さく息を止めた。
──隣、あの人だ。
神崎蓮。
無口で、あまり誰とも話さない男子。 でも、たまに見せる横顔がやけに綺麗で、密かに人気があるタイプ。
(……気まずそう)
それが最初の感想だった。
実際、席についても会話はなかった。
「よろしく」
一応そう言ってみたけど、
「……ん」
小さく頷くだけ。
会話終了。
(やば、続かない)
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
ただ静かで、落ち着いてるだけ。
数日後。
授業中、私は盛大に消しゴムを落とした。
コロコロ転がって、ちょうど蓮の足元へ。
「あ……ごめん」
そう言った瞬間、蓮がそれを拾った。
でも、そのまま渡さずに、少しだけ見てから言う。
「これ、削りすぎ」
「え?」
「角、なくなってる」
「……ほんとだ」
ちょっと恥ずかしい。
「貸す」
そう言って、蓮が自分の消しゴムを机の上に置いた。
新品みたいに綺麗だった。
「え、いいの?」
「いい」
短い。
でも、その優しさがなんかじんわりくる。
「ありがと」
そう言うと、蓮は少しだけ目を逸らした。
それから、少しずつ会話が増えた。
「ノート見せて」
「ここ、分かる?」
ほんの一言二言。
でも、そのやり取りが増えるだけで、隣の距離が少しだけ近くなる気がした。
ある日、授業中にふと横を見ると、蓮が寝ていた。
静かに、すやすやと。
(……寝るんだ)
ちょっと意外だった。
長いまつ毛とか、整った横顔とか。
なんか、ずっと見てしまう。
そのとき。
「……見すぎ」
急に小さく声がした。
「っ!?」
起きてた!?
慌てて前を向く。
「見てないし!」
「見てた」
「見てない!」
小声で言い合いになる。
「……別にいいけど」
蓮がぼそっと言う。
「え?」
「お前なら」
心臓が、一瞬止まりそうになる。
(なにそれ……)
顔が熱い。
授業どころじゃなかった。
放課後。
その日は雨だった。
「最悪……傘ない」
昇降口で立ち尽くす。
すると、後ろから声。
「入る?」
振り返ると、蓮が傘を持って立ってた。
「え、いいの?」
「濡れるよりマシでしょ」
そりゃそうだけど。
でも、距離が。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
同じ傘に入る。
近い。
とにかく近い。
肩が触れそうで、触れない距離。
雨の音がやけに大きく聞こえる。
「……近いな」
蓮がぽつりと言う。
「そっちが言う?」
「事実」
「……まあね」
沈黙。
でも、嫌じゃない。
むしろ、落ち着く。
そのとき、足を滑らせた。
「わっ」
バランスを崩しかけた瞬間____
ぐっと腕を掴まれる。
「危ない」
低い声。
距離が一気に縮まる。
「……ありがと」
顔、見れない。
「ちゃんと前見ろ」
「見てるし」
「見てなかった」
ちょっとだけ笑ってる気がした。
その日の夜。
なぜか、蓮のことばっかり考えてた。
無口なのに、ちゃんと優しくて。
たまに変なこと言うし。
(……これ、たぶん____)
次の日。
教室に入ると、蓮が先に来てた。
「おはよ」
「……おはよ」
少しだけ間があって、
「昨日、平気だった?」
って聞いてきた。
「うん、ありがと」
「ならいい」
短いけど、ちゃんと気にしてくれてる。
そのことが、嬉しくて。
「あのさ」
思い切って言った。
「放課後、ちょっといい?」
蓮が少し驚いた顔をする。
「……いいけど」
放課後、屋上。
風が少し強くて、髪が揺れる。
「で、話って」
蓮が聞く。
心臓がうるさい。
でも、逃げたくなかった。
「私、蓮のこと好き」
一気に言った。
沈黙。
風の音だけが聞こえる。
(終わった……?)
そう思った瞬間。
「……知ってた」
「え?」
顔を上げる。
蓮は少しだけ笑ってた。
「分かりやすい」
「うそ……」
恥ずかしすぎる。
「で」
蓮が距離を詰めてくる。
「俺も好き」
さらっと言う。
「……は?」
「だから」
少しだけ目を細めて、
「お前のこと、好き」
今度はちゃんと、はっきり。
頭が真っ白になる。
「付き合う?」
その言い方、ずるい。
でも。
「……うん」
気づいたら、頷いてた。
蓮が少しだけ嬉しそうに笑う。
それだけで、胸がいっぱいになる。
帰り道。
「なあ」
「ん?」
「これからも、隣でいい?」
「席替えしても?」
「しても」
ちょっと考えて、
「……いいよ」
そう言うと、蓮は小さく頷いた。
その横顔が、前より少し近く感じた。
たぶんこれからも、この距離は、少しずつ縮まっていく。