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山路と雪が言い争いをしているのをしり目に、一楓はマスターに向かって言う。
「200万円なんて美術部が出せるわけないでしょー?菅沢君はお店を経営してるって話だったから、払えるよね」
「いや待て待て、確かに俺には300万くらい貯金があるけど、それ全部、大人になって使わなきゃいけないお金なんだ。だから今ここで使うわけには」
「えー、そんなあ。また文華ちゃんに怒られるよ」
一楓は肩を落としてため息をついた。
ガラガラ。
教室の後ろからドアの開く音が聞こえ、全員が後ろのドアを見た。
「おいおい。そろそろ攻撃に転じた方が……みんなインクがなくなって供給し始めてるから、今がチャンス……って何してんだ?」
ドアから入ってきたのは、尚人だった。
「あ、尚……じ、実はな……」
海が視線を山路と雪の方に視線を向ける。
「山路と雪が喧嘩してるんだよ。はあ、なあ、尚、あいつら止めてきてくんね?」
「いや、しかしなあ……うーん。しょうがないな~」
尚はそのまま二人の元へ向かった。
「おい、お前ら、落ち着け。今がどういう状況か分かってるのか?今は大会の途中だ、口喧嘩なんてやってる場合じゃないぞ‼」
『お前は引っ込んでろ!このゲーム廃人が‼』
尚が仲裁に入ろうとしたところ、二人が口を揃えて行った。
「ああ?」
2人の言葉を聞いた尚が、二人を見て、怒りに震える声を上げた。
「お前らなあ‼勝手に喧嘩してる癖に何言ってんだよ!ばっかじゃねえの!この馬鹿小説家ども!いい加減にしろよ‼」
そう言われた雪が尚に向かって言い返す。
「ああ?四六時中パソコン触ってネットサーフィンしてるくせに何言ってんだお前‼」
「お前らだってパソコン触って小説書いてんだろ‼」
二人で喧嘩していたのにも関わらず、三人が喧嘩し始めてしまった。
「おい海。悪化してるぞ」
三人にバレないように皐月が海に耳打ちする。
「……はあ、唯一頼りになる部長は流と話してるし……」
海の視線の先には、背の高い部長が、背の低い流に圧をかけているようにしか見えなかった。
時計の短針が十一と十二の間を指し、長針が六を指している。
「あと三十分だ。どうしよう……まだどこにも攻撃できてない……」
歩美がその頃ハンドガンを片手に敵を探していたが、全員インク残量が無くなり、第二美術室に向かっていた。
「あ」
「え?」
聞き覚えのある声に気が付き後ろを振り返ると、そこには、並河信梨が居た。
「信梨ちゃん」
「サッカー部知らない?海探してるんだけど……さあ知らないけどな……」
歩美が苦笑を浮かべると信梨は廊下の先を見た。
「この階って、第二美術室がある階だよね」
「あ、うん。そうだね」
「歩美、凄いな。ゼッケンが真っ白じゃん」
「ああ。逃げてたからね。そう言う信梨ちゃんも真っ白だけど」
「私は、攻撃を受けるつもりもするつもりもないわ。あのイケメンクソ野郎に痛い目見せるために、サッカー部にしか攻撃しないの」
「へ、へえ。あの、信梨ちゃんって、海くんと仲悪かったっけ?」
歩美が不思議に思って、信梨の顔を覗き込みながら問うと、信梨は、俯いた顔に冷笑を浮かべていた。
「いや、でも、この前、はとこが小学校に入学した祝いで、親戚全員で集まってみんなでゲームしたんだけどね。その時、海が全く手加減せずに、どんどん勝っていくから。私と一対一で勝負したとき、ぼろ負けして、勝ったときに馬鹿にされたから、ちょっとイライラしてるだけだよ」
信梨はとてつもない剣幕で、第一美術室を睨んでいた。
「あと三十分だし、サッカー部探さない?」
「あーじゃあ、せっかくだし」
信梨に誘われ、歩美は首を縦に振り、承諾した。
その時、信梨が衝撃的な言葉を口にした。
「実はね。大体場所は掴んであるんだ」
「……え?」
「あの、第一美術室、あそこから、山路と雪の声が聞こえてくるもの。口喧嘩もでかいとは、はた迷惑な小説家たちね」
信梨は張り付けた冷笑を一ミリも崩さず、じっと美術室を見つめた。
実は歩美は、山路たちが入るのを見ていたから、サッカー部の居場所を知っていた。
しかし、最初に言われた冴香の忠告によって、信梨にその場所を教えないでいたのだ。
「……」
歩美は、先導して先に進む信梨の背を心配そうに見つめていた。